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がやがやと客で賑わうファーストフード店。隣に座る宗像さんはにっこりと笑みを浮かべて僕を優しく見守る。そんな彼女の笑顔を見ていると心と脳が癒される。僕はコーラを一口飲み、考える。
…え、マジで同意してくれるの?本気ですか?
さっきまでは壬生さんのNTRインパクトのせいでちょっと頭がおかしくなっていたが、今はいたって冷静だ。そんな知的で冷徹なクールヘッドだからこそ、今の状況のおかしさに気づける。
「えーと、本気?本当に応援してくれるの?」
「うん、いいよ。私もね、やっぱり今の瑞樹の彼氏、クズだと思うし。別れた方がいいよね」
へー、そんな有名なクズ男なんだあ。じゃあいいのかな?寝取ってもいいのかな?でも僕、チャラ男じゃないし、そんな寝取る手腕とか無いんだけどなあ。
「大丈夫だよ」
僕がそんな心配をすると、宗像さんが太鼓判を押してくれる。
「だって瑞樹、チョロいもん」
へえ、そうなんだ。百崎さんってそんなチョロいの?
「だって知ってる?瑞樹が竜二くんの告白を受けた理由」
「え?なんなの?」
一体どんな理由で受けたのだろう?ナンパの参考までに聞いてみたい。
「瑞樹ね、自分みたいな女を好きになる奴なんているわけないから、もしも告白してくる男がいたら絶対に受けて本気で付き合う、って言ってたの」
「…え?じゃあ早いもの勝ちだったってこと?」
「まあそうなるね」
えー、マジっすか。そうなの?告白ってそんな簡単に成功するものなの?
…そういえば、壬生さんも別に僕のことタイプではないけどOKしたと言っていたし、案外告白ってやってみればうまくいくものなのかもしれないな。
「えーと、聞きにくいことを伺うんだけど、ちなみに宗像さんとその竜二さんとの関係はもう完全に終わってるってことでいいのかな?」
正直、あまり宗像さんの心象を悪くするようなことは聞きたくないのだが、百崎さんを攻略しないといけないだけに、念のため質問してみた。
そんな僕の意図など知ってか知らずか、
「うん、もう関係ないよ」
とあっさり答えてくれる。
おや?一応、浮気した間柄だろうに。そんな簡単に切り捨てられるものだろうか?
「うーん、なんて言ったらいいのかな?竜二くんはねえ…うん、相性が悪いから」
「あ、そうなんだ。まあ相性って大事だよね」
「そうそう、イケメンでも相性が悪いとやっぱりダメね」
そうか、イケメンなのか。どうしよう?僕、イケメンに勝てるほどの顔じゃないんだけどなあ。
まあでも顔より相性の方が大事というのは納得だ。僕だって壬生さんと相性が良いからこんなにも末永く良好にお付き合いができるわけだし!ね、壬生さん!あれ、壬生さんって今なにしてるんだっけ…う、まずい、脳が痛む…
「うん?どうかした?」
僕は思い出しかけた暗黒の記憶を脳内のさらに奥へと封印し、
「いや、大丈夫だよ」
と答えた。
やがてしばらくすると、百崎さんがトイレから戻った。
「ふぅ、なに話してたんだ?」
椅子に座って晴れやかな顔をする百崎さん。そんな彼女に宗像さんは、
「やっぱり体の相性は大事だねって話」
と平然と言いにくいことを言ってのける。っていうか今のって体の相性の話だったの?心の相性じゃないの?
それにしても女子って案外、下ネタとかガンガン話すものなのだろうか?いや、この二人が例外なだけか?
「相性ねえ。いや、それも大事だとは思うけど、やっぱり最後は愛が大事じゃねえの」
おや、百崎さんは彼氏さんといっぱいエッチしてるって噂なのだが、実はそこまでエッチは重視してないのかな?それなら合宿中に部屋を占拠して壬生さんを外で待たせるなんて行動は控えてほしかったのだが。
「百崎さんの気持ち、僕もわかりますよ。やっぱり心が大事だよね!」
「いや、男が言っても説得力ねえだろ」
あれ?なんか男に嫌なことでもされたのだろうか?
「え!そんなことないよ。愛情が大事だって」
「そんなこといってよ、どうせあれだろ。来沙羅とやりまくってんだろ」
「いや、やってないよ。まだそこまで手は出してないから」
「あ?嘘つけよ。だって相手は来沙羅だぜ?あんな可愛い女を前にしてやらない男がいるわけないだろ」
なんかすごい突っかかってくるな。僕はそんな性獣ではないのだが。
「嘘じゃないよ。本当にやってないから」
「いやいや、それこそ嘘だろ」
「嘘じゃないわよ。根東くん、まだやってないって来沙羅も言ってたから」
まさかの宗像さんからのフォロー。ありがとう、まさか君から助けてくれるだなんて思ってもみなかった。やっぱり一緒にラブホに入った仲だけはあるよね!
…そうだよね、宗像さんってよくよく考えたらとんでもない爆弾抱えてるわ。お願い宗像さん、フォローは嬉しいよ。でも余計なことは言わないでね!
「おい、嘘だろ。司、お前、性欲ないの?」
「いや、あるよ。それは気持ちとしては壬生さんとそういう関係になりたいというのはあるよ。でもさ…」
うーん、これは言っていいのかな?まあ余計なことさえ言わなければ問題ないのかな?
まるで宇宙人でも発見したかのような驚愕の眼差しで僕のことを見る百崎さんに僕は答える。
「壬生さんとは、卒業するまではエッチしないって約束してるから。それまではしないよ」
「え、それ本気で言ってる?」
「うん、本気だよ。だって約束破ったら別れるって言うから。僕、壬生さんとは別れたくないし、だから壬生さんとの約束はちゃんと守るよ」
うん、余計なことは言ってないよね?誤解を招くようなとんでもないことは上手に省略しつつ、適切な言葉を選んで百崎さんに真実を伝えられたはずだ!
そんな僕の発言に対して、百崎さんはなにを思ったのか、「…そうか、そうだよな、やっぱ愛が大事だよな」となにか納得したような顔をする。
うん?なんか気づきを与えてしまったのだろうか?
「そうだよな!本当に好きなら我慢できるよな!ありがとよ、司!俺、大事なことに気づいたわ!ごめん、用事を思いついたから俺、帰るわ!また明日な!」
百崎さんはまるで天啓を得たかの如く明るい表情を取り戻すと、勢いよく席を立って店を出て行った。
なんだか急展開だったが、まあ百崎さんが元気になったならそれはそれで越したことはないよね。
「根東くん」
隣にいる宗像さんの距離感がちょっとだけ近づいた気がする。
「二人っきりになったね。で、どうする?私、根東くんと一発、遊びたい気分だな」
一発ってどういう意味だろう?よくわからないや!
「宗像さん」
「あら、なにかしら?」
今日は宗像さんのおかげでいろいろ助かった。だから彼女が喜ぶことだったらしてあげたい、そんな気分でもある。
「一緒にボーリングで遊ぼうか!」
「あら、それも悪くはないわね」
僕らは店を出ると、前回のデートと同じボーリング場で遊んだ。とても楽しい時間を過ごせた。
宗像さんはエッチなしで普通に遊ぶ分には、とても健全で一緒にいて癒される相手だった。
「また勝っちゃったね」
ボーリングそのものはとても楽しかった。しかしなぜだろう?まったく勝てない。なぜだ?
いや、敗因はわかっているよ。だって宗像さんがボールを投げる時、すごく可愛いんだもん。その大きな胸を揺らし、その柔らかそうなお尻を振ってボールを投げる姿なんて見ていてすごく脳が癒される。
こんなキュートな女の子を前にしたら、集中できないよね。勝てるわけないよ。
なぜか宗像さんは僕と腕を組んで歩いている。これではまるで恋人同士みたいではないか。壬生さんという彼女がいる以上、断った方がいいのに。しかし腕から伝わる胸の感触が楽しすぎて断れない。
僕って意思が弱いのかもしれない。これでは壬生さんが他の男子と遊ぶのを咎めるなんて一生無理だよね。むしろその光景を想像して喜ぶ方が僕にはお似合いだよ。
そんなこんなで宗像さんと一緒に繁華街を適当に歩いていると、大変なことに気づいてしまった。
ここ、ラブホ街じゃねえか。
怪しいネオンの光に淫猥な文字が踊るその道なりには、どう見ても愛を育むための休憩所がたくさんあった。
ハッ!まずい!いつの間にこんな場所に紛れ込んでいたんだ!急いで別の場所に向かわないと!
「む、宗像さん!別の場所に…」
「根東くん、あれ竜二くんだね」
「え?」
宗像さんの綺麗な指に釣られて見ると、男子と女子がいて、そのうちの男の方は確かにさきほどの壬生さんの画像に映りこんでいた男子だった。
ああ、あれが竜二くんですかあ。確かにイケメンだなあ。
テニス部だからだろう、日焼け気味の男子は身長が高く、髪を短くカットしている。そんな彼の顔は確かにワイルドな感じのするイケメンだった。
そんな彼が隣の女子を連れてラブホに入っていった。
…うん?ちょっと待って。あの人さあ、さっきまで壬生さんと遊んでたんだよね?
え?え?ちょっと待って。あの隣の女子ってさあ、え、嘘、マジで?
壬生さんなのか?
そんな、嘘でしょ?だって、やるのは六月が終わってからって言ってたじゃん。そんな、壬生さん、もう逆寝取られを実行してしまったの?
ああ、脳が破壊されていく。もう真っ白だ。
全身から力が抜けていく気分だ。もうダメだ。終わりだ。なにもかも終わりだよ。
胸が張り裂けそうだ。苦しい。ドクドクと血流が体内を暴走して体が熱せられる。でもなぜだろう?壬生さんがこれから他の男に抱かれるというイメージが脳内で洪水のようにあふれて、僕を高揚させていく。
まさか、こんな時ですら喜ぶだなんて。もう寝取られ性癖って呪いだよ。
「宗像さん、僕はもうダメかもしれない」
「え?どうして?」
「だって壬生さんが…」
「あら?あれは来沙羅じゃな………そうね。根東くん、来沙羅、寝取られちゃったね。じゃあもう我慢する必要ないよね。私が根東くんのこと、癒してあげるね」
「ぐすん、うん、うん、宗像さん、君って本当に優しいね…」
「いいんだよ、根東くん。さあ、一緒に行こう💓」
「根東くん、ここでなにしてるのかな?」
あれ?背後から壬生さんの声がする!幻聴かな?
振り返れば壬生さんがいた。腕を組んで僕の方をとても冷徹なジト目で見てくる。
「壬生さん!え、でもさっきラブホに…まさか壬生さん、影分身の術を…」
「あれは私じゃないよ」
ああ、影分身の術じゃなくて身代わりの術か。
ふぅ焦ったあ。あやうく壬生さんがくノ一になったのかと思ったよ。でもそうだよね、影分身って高度な忍術だし、いくら天才の壬生さんだってそんな簡単に習得できる術じゃないよね。やっぱり身代わりの術が限界だよね。
いや、壬生さんなら影分身、できるんじゃないのか?壬生さんならあり得るぞ。
「壬生さんって、忍術とか使える?」
「私、忍びの者ではないけど?」
…うん、どうやらとんでもない誤解をしていたようだ。しかしくノ一の壬生さんか、ちょっと見てみたいな。
「それで?どうして根東くんと杏が一緒にラブホに入ろうとしてるのかな?」
「だって根東くんがいいよって言ってくれたから」
「いや、違うんだって!僕、壬生さんが寝取られちゃったと勘違いしちゃって、つい変なこと言っちゃっただけだから!」
「えー、根東くん、私の心を弄んだのかしら?ひどーい、ショックかしら」
「杏はちょっと黙ってて」
「はーい、ごめんね」
まずい。壬生さんが寝取られてないのは良いのだが、なんか別の問題が発生している気がする。
「あの、とりあえず場所変えない?」
「あら、そうね。カラオケにでも行きましょう」
「いいわね。私も一緒でいいかしら?」
「もちろんいいわよ。だって根東くんの奢りだもん」
え、僕の奢りなの?いや、いいんだけどね。うん、おごるよ。飲食込みで奢るよ!うーん、こんなことならポイントカード作っておけばよかった。
そのあと、三人で一緒にカラオケに行って遊びまくった。とりあえず、誤解は解くことができた。
「壬生さんはあの後、なにしてたの?」
宗像さんが歌う番だったので、僕は壬生さんに聞いてみた。しかし宗像さん、歌うまいな。
「うん?遊び終わったから普通に別れたよ」
あ、そうなんだ。よかった。じゃあ壬生さんの貞操はまだ無事なのか。ふう、一安心だ!
「それとも、根東くんとしては誘われた方が良かったのかな?」
ドクン、心臓が高鳴る。
壬生さんは魔女みたいな怪しい笑顔をこちらに向けて挑発してくる。これは、ドSの壬生さんだ!
壬生さんは体をこちらに寄せてきて、僕の耳元にふぅと息を吹きかける。彼女からふわりと甘い香りが漂ってきて、なんだかくすぐったい気分だ。
「根東くんが良いって言うなら、いつでも抱かれに行っても良いんだよ」
「え!」
「だって私、根東くんのこと、大好きだもん。根東くんが喜ぶことならなんだってしてあげる。ほら、命令して良いんだよ。あの男とやって来いって。それだけで、私はすぐに他の男に抱かれてきてあげる」
そんな、そんな、そんなことって…
「その時は、私も呼んでほしいな」
反対側から蠱惑的なお姉さんボイスがする。宗像さんが歌い終わったようで、僕の隣に座り、腕をつかんで語りかけてくる。
「来沙羅を寝取らせるなら、私も呼んでね、根東くん。来沙羅が他の男とエッチなことしてるとき、私が根東くんとエッチして慰めてあげる」
なんだと!
僕がゴーサインを出せば、壬生さんはすぐにでも他の男とエッチをする。同時に宗像さんに連絡すれば、宗像さんともエッチができる。
なんということだ。そんなの、そんなの、ドスケベすぎる。
壬生さんが寝取られるという苦しみと喜び、さらには宗像さんという最高ランクの女性を同時に抱けるというその見事すぎるシチュエーションのせいで、僕の感情はバグってしまいそうだ。
「私が抱かれてるときに他の女を抱くなんて、根東くんって最低だね。でも良いよ、大好きな彼氏のために許してあげる💓」
「大事な彼女が寝取られて苦しいとき、私が癒してあげる。だって根東くん、すごくたくましいもの持ってるもの」
はて?たくましいものとは一体なんのことだろう?そういえば前回、宗像さんから特殊なアイテムをもらったな。Lサイズの。
いや、そんなことよりも、この状況はどういうことなのだろう?
「お、落ち着いて二人とも。大丈夫だから、僕まだそこまで倫理観崩壊してないから!大丈夫、そ、そんな命令…」
どうしよう?命令しちゃおっかな?
この機会を逃したらもしかしてあとあとになってから超ド級の後悔をしないかな?
うーん、するだろうなあ。きっと後悔するだろうなあ。それも死後まで残りそうな強大な後悔をしそうだよ。でもダメだよね!こればっかりはダメだよね!
その後、カラオケの時間が終わるまで、僕は二人の美少女から言葉責めを受けた。あまりにも甘すぎる誘惑だったが、なんとか耐えた。そんな自分を褒めてあげたかった。
でもやっぱり後悔はした。
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