6
昨夜の一件は凄かった。ただでさえ壬生さんというパーフェクトな黒髪美少女に加えて宗像さんという色気むんむんの素敵な美少女に挟まれて言葉責めをされるという状況のせいで、とても楽しくも我慢を強いられる甘く厳しい夜だった。
危うく一線を超えそうになったが、それでもなんとか理性をフルに活動させることでなんとか一線を超えることなく無事に帰宅。僕は興奮をおさえて安眠につき、そして次の日にいたる。
その日の始まりはいたって平和だった。まさか瑞樹さんを寝取る計画が発動している最中だなんてとても思えないほど穏やかな一日の始まりだ。
学校に行き、授業を受け、そして昼休みに壬生さんと一緒に楽しく昼食をとる。
なんて幸せな一日なのだろう。順風満帆すぎて怖いくらいだ。
壬生さんと付き合ってからすでに一ヶ月以上は経過しているわけなのだが、NTR関連のイベントさえ除けば僕の人生はとても幸せで充実した毎日を送れている。
唯一の難点といえば脳が破壊されまくっていることだが、壬生さんは破壊だけでなく癒しの活動もしてくれるので、こういう穏やかな一日を過ごすと破壊された脳が回復して気分もよくなる。
まったく、最高の青春だね!やっぱり充実したスクールライフを送るには彼女が必須だよ!
ぐる、ぐるるるるるるるるる。
それは突然訪れた。
「う、う、うおおおおおおお」
「え、どうしたの根東くん?」
昼食を食べ終わった後。突然の腹痛に襲われた。いや、腹痛というか、あれだ。強烈な便意である。
突然の事態に心配そうな顔をする壬生さん。まったく、こんな時でも彼女は可愛いぜ。
「大丈夫?保健室いく?」
「ううん、大丈夫。ちょ、ちょっとトイレに行ってくる」
「え、ああ、うん、そういうこと。お大事にね」
すでに弁当を食べ終わっていたので机の上はほとんど片付いている。僕は席を立ち、教室を出てトイレへ向かった。
なぜ、なぜ急に。僕が破壊される臓器なんて脳みそくらいだと信じていたのに。まさか知らない間に腸もダメージを受けていたというのか?
いやいや、さすがに壬生さんも腸にダメージを与えるような真似はしないだろう。彼女は脳を破壊することはあっても人を傷つけるようなことは絶対にしない、優しい女性なのだ。
じゃあ単純に便秘の防波堤が決壊しただけか。そういえば最近、ちゃんとトイレ行ったかな?それとも今朝飲んだちょっと変な味のする牛乳のせいか?
とにかく、レッツゴートイレ。早く早く、漏れる前にトイレに行くぞ!
正直、学校のトイレを使用することに対して強い抵抗感はある。しかし緊急事態なのでしょうがないよね。
幸いというべきか、僕がトイレに駆け込んだ時は誰も使用していなかった。
ふぅ、誰にも見られずに済んでよかった!
…
…
…
…
ふぅ。すっきりした。
よし、用も済んだし出るか、というタイミングになって男子トイレに男子が入ってきた。
ええ、嘘でしょ。このタイミングで来る?もうちょっとあとでいいじゃないか。
「ったく、最悪だぜ。わけがわかんないわ」
「え、どうかしたの?」
どうやら入ってきたのは男子二人組らしい。早く出てってくんないかな?
「いやそれがさあ、瑞樹がさあ、いきなり卒業するまでエッチしないとか言い出したんだよ。わけがわかんないよな」
「なんだよ。浮気ばっかしてっからついに別れたかと思ったわ」
「それはねえよ。今回はバレてねえし。だいたいあいつ、俺に惚れてるから絶対別れねえって」
「そうなんだ。それよりさあ、昨日は結局、壬生さんを持ち帰れたの?」
む?壬生さんだと?それに瑞樹って、百崎さんのことかな?
もしかしてこいつ、百崎さんの彼氏で有名なあの竜二くんか?
「いや、無理だったよ。壬生さんさあ、ガードが緩そうで意外と厳しいんだよ。いけそうでいけないんだよなあ」
「へぇ、そんなもんかね」
「ああ、くっそ、思い出したらイライラすんな。今日は誰誘おうかな…」
「お前、懲りねえなあ。瑞樹だって十分可愛いのに、満足できないの?」
「いや、俺もね、最初は瑞樹一本でいいかなって思ってたんだよ。でもさ、ほら、俺ってさ、イケメンじゃん?気づいたんだよね、せっかくイケメンに産まれたのに一人の女しか抱けないって損じゃね?って」
「うわあ、最低だな」
「よくいうぜ。そのおすそ分けもらったくせに」
「はは、確かに」
「よーし、絶対壬生さんもモノにしてやっぞ。最近、俺とよく話してくれるようになったし、たぶん俺に惚れてると思うんだよねえ」
「あれ?でも壬生さんて彼氏いたろ」
「関係ねーよ。ちらっと彼氏見たことあっけど、俺の方がイケメンだったし。よし、じゃあ行こうぜ」
用を足したのか、二人組はトイレから出て行った。
そうか、壬生さん、本当に寝取られてなかったのか。よかった。なぜだろう、すごいドキドキした。
おっと、もうすぐ授業が始まる。僕も行かないと。
そして僕も男子トイレから出て行って教室に戻る。
教室には壬生さんがいた。
「お腹はもう大丈夫そう?」
「うん、大丈夫だよ。それよりさ」
「うん?なにかな?」
壬生さんはその綺麗な眼差しをまっすぐに僕に向けてこちらを見つめる。
「百崎さんの件、ちょっと頑張ってみるよ」
「そう?応援してるよ」
少しだけ、壬生さんが嬉しそうな顔をした気がした。
授業が始まるので僕は席に戻る。
うーん、それにしても思った以上に百崎さんの彼氏はクズなのかもしれないね。まあ、あそこまでクズっぷりを聞かされると、確かに寝取った方が良いのかな?って気はする。これなら後腐れもなく百崎さんを寝取れるね。
問題はどうやって寝取るか、だ。
当たり前だけど、本当にライン超えして寝取ったら壬生さんも他の男に抱かれて寝取られてしまう。
なぜ本命以外の女性とエッチできる可能性はあるのに、本命の彼女とはエッチできないのだろう?いや、できないだけならまだ良い。なぜ寝取られる?
なんだか理不尽な気がする。
それなのに、それなのに、僕の体は壬生さんが寝取られるかもしれないという危機感に対して高揚感を覚えているのだから質が悪いよね。最愛の彼女が他の男に抱かれるかもしれないのに、なぜ喜ぶかな?
なにか良い方法はないのだろうか?百崎さんが救われ、壬生さんが寝取られない、そんな理想的な未来が。
そんな夢のような方法を考えながら授業を受け、そして放課後になる。
壬生さんは今日も今日とてどこかに遊びに出かける。百崎さんに対して自由にアプローチできるように、壬生さんなりの配慮なのかもしれない。
彼氏が他の女を口説けるように配慮してくれるだなんて、一体どんな彼女なのだろう?一体なにがあればこんな歪な状況が発生するのだ?
とりあえず考えるより行動してみるか。僕は校庭に出て女子テニス部のコートへ向かう。
こんなに早く向かってもまだ女子テニス部は部活動の真っ最中だろう。百崎さんと話すことは難しいかな。
と思っていたのだが、百崎さんと話す機会は意外と早く訪れた。
「よう、司じゃねえか」
「あれ、百崎さん?今日は部活はいいの?」
「え、ああ、今日はもういいんだ」
――なんかやる気が出なくてな、とどこか落ち込んでいるような顔で彼女は言う。
女子テニス部のコートへ向かう途中の校庭で、ブレザーの制服姿の百崎さんを見つけた。
今日も黒髪のポニーテールを後ろに束ねている彼女は、校門の方へ向かっていた。もしかして帰るのかな?
「もしかして時間、空いてる?」
「…空いてちゃ悪いか?」
機嫌が悪いのか、じろりと睨まれた。
うっ、ちょっと怖い。しかしここで怖気づくわけにはいかない。
僕は百崎さんの隣に並んで歩く。
「ううん、悪くないよ。僕も暇だし。よかったら、一緒に遊ぶ?」
「あん?お前、彼氏持ちの女を口説くとか、善良そうな奴に見えて実は悪い奴なのか?」
「はは、そうかもね。そういう日もあっても良いでしょ」
「へ、そうかよ。…そうだな、あいつもだし、俺も遊んでも良いか」
――いいぜ、一緒に遊ぶか、と言う百崎さんの表情は、少しだけ晴れた気がした。
校門を出て一緒に歩いている途中、百崎さんはぽつりと呟く。「司はさあ」
「彼女が他の男と一緒に遊んでたら、どう思う?やっぱり辛いか?」
ドキン!突然の質問に心臓が盛大に脈打つ。
それは、えっと、どういう意味なのだろう?まさか、壬生さんが他の男に寝取られているという意味なのだろうか?え、嘘?まさか、僕が知らない壬生さんに関するなにかを知っているのか?
どうしよう?答えにくいぞ。一体なんて答えればいいんだ?まさか、実は他の男に抱かれる姿を想像して喜んでますなんて答えるわけにはいかないよね!
「え、あの、それはやっぱり、辛いと思うよ」
正直に答えるわけにはいかないので、無難な回答をすることにした。
「そうだよな。普通、恋人がいたら別の女と遊んだりしないよな」
うん?女?え、壬生さんの今日の遊び相手は女性なのかな?だったら一安心かな。
いや、ダメだよ。だって壬生さんて、女性もイケる口なんだよ!過去に女性と付き合ってたことだってあるって言ってたじゃないか!
くっそー、壬生さんが女性に寝取られるだと!くぅ、なんか、それはそれですごく興奮するんですけど!なんか男に寝取られるのとは違う興奮があるんですけど!
「おい、司!どうした、すごい汗かいてるぞ!」
「え、ああ、大丈夫。ちょっと脳がマグマのごとく煮えたぎっただけだから」
「あん?それってやばくないのか?」
「大丈夫だよ、それよりさ、どこで遊ぶ?ゲーセンでも行く?」
「おう、いいな。よし、今日は遊ぶか!」
うーん、やっぱりなにか辛いことでもあったのかもな。とりあえず寝取りは置いといて、今日は普通に遊んで元気になってもらうことに注力するか。
僕らはゲーセンに向かう。そこには以前、宗像さんと一緒に遊んだクレーンゲームがあり、いまだそこには熊のぬいぐるみが鎮座していた。
なんだか挑戦されている気分だな。
「百崎さん、あれやろうよ」
「なんだ?司、ああいうの得意か?」
「まあ見ててよ!」
今度こそゲットしてやるぞ!
僕は硬貨を投入する。さあ、チャレンジだ!
「よし、頑張れよ。お、そこで大丈夫か…あ、まあそう簡単にはいかないよな。あん?またやるのか?うん、まあやってみろよ!おお、今度はうまくいき…ああ、ダメか。おい、まだやんのか?まあいいけどさ。ふーん、そういう攻め方か…お、おお、くるか?おい、きたぞ、やったな司!」
二回連続で失敗した時、もうダメかと思った。今日も失敗なのかと諦めかけた。しかし三度目の正直ということで挑戦したら、なんとか熊のぬいぐるみをゲットすることができた。
やったぜえ。ついに攻略してやったぜ!ははははは!
…あれ?僕はぬいぐるみを攻略したかったんだっけ?
僕は今ゲットしたばかりのぬいぐるみを取り出す。うん、いざゲットするとあんまり欲しくないな。
「百崎さん、どうぞ。プレゼントだよ」
「え?いや、いいよ。俺みたいな奴にこんな可愛いもん、似合わないって」
「そんなことないって。百崎さん、可愛いから似合うって。ほら、受け取って」
「え、おう、そうか。じゃあもらっとくよ。…へへ」
断られそうになったけど、強引に頼んでみたら受け取ってもらえた。それにしても、実はこういう可愛いものが好きなのだろうか?受け取ったときの百崎さんのはにかむような照れた笑顔がとても可愛かった。
その後、僕らは一緒にゲーセン内をめぐり、一緒に楽しく遊んでいた。百崎さんはリズムゲーが得意みたいで、ハイスコアを連発していた。
「おお、うまいね、百崎さん」
「へへ、久しぶりだからちょっと不安だったけど、意外といけるな!」
ポニーテールを振りながら体を動かして遊ぶ百崎さんの姿は、まさに健全な女の子という感じだ。やっぱり彼女は元気に遊んでいる方が似合っている。
「はあはあ、久しぶり遊んだなあ」
「お疲れ様。これどうぞ」
「お、気が利くな!」
一時間ぐらいがっつり遊んだ後、百崎さんはゲーセン内にあったベンチに座る。僕は自販機で購入したスポーツドリンクを彼女に渡すと、ごくごくと一気に飲み干していく。
「なあ、今日はありがとな」
「うん?どういたしまして」
「はあ、来沙羅が羨ましいよ」
一緒に遊んで打ち解けたのか、百崎さんと僕の距離感がちょっと縮んだ気がした。汗で濡れる彼女の首筋が妙に色っぽく、少しだけドキドキした。
「…なあ、知ってるか?」
「え?なにが?」
「先月さあ、見たんだよね。来沙羅がラブホから出てくるの」
…え?
がやがやと騒々しいゲーセンの中だというのに、百崎さんの声はやけにはっきりと鮮明に聞こえた。
ラブホ?壬生さんがラブホだって?それも先月?先月って、要するに五月だよね!ちょうどスワッピングしていた時期じゃないか!
壬生さん、僕らとスワッピングをしつつ、さらに別の場所のラブホに行ったというのか?まさか、本当に壬生さん、影分身の術を使えるのか?
…いや、違うか。そういうことじゃなくて、うん、それって確実にアレのことだよね。
「あ、ああ、あのことね。えーと、うん、えっとね、百崎さん、それはだね、誤解なんだよね」
「あ?誤解?え、っていうか知ってたのか?」
「うん。実は知っててね…」
さて、どうしよう?本当のことを打ち明けるわけにはいかないし、かといって何も言わないってのもかえって怪しまれる気がする。
よし、ここは嘘をつこう!といっても全部が嘘ではなく、壬生さんのように嘘と本当を混ぜたストーリーを話してみよう!
「うーん、なんて言ったらいいのかな、あれはだね、プレイの一環というべきかな。ちょっとお遊び気分で宗像さんの彼氏と僕を交換してラブホに入ってみようという企画をですね、ちょっと実施しまして」
僕のストーリーを聞き、予想外の内容だったのか、百崎さんは口を半開きにしてあっけにとられている。
「え、え、え?どういうこと?お前ら、遊びで浮気するのか!」
「いやいやいや、違うんだって!エッチはなし!一線は超えてないんだって!ただそう、浮気の背徳感をちょっと遊び気分で楽しんでみようってことでね、うん、エッチなしで試しにラブホに入ってみるっていうごっこ遊びをやってただけで、不倫とか浮気とか、そういうのは一切やってないから!」
そうだよ、あくまであれはお互い合意の上でラブホに入ったわけだし、裏切りじゃないもん!
「え、そうなの?お前ら、マジでやってないの?」
「うん、やってないよ。本当にただのごっこ遊びだから」
「…あー、そうなんだ。なんだよそれ、ふざけんなよ、俺さあ、ずっとそのことが気がかりでさあ、ここ最近かなり悩んでたんだぞ!」
勘違いさせるようなことしてごめんね、と謝ると、ほんとだぜ、と乾いた笑いをする百崎さん。もしかしてここ最近なにか悩んでいたのは、僕たちのせいなのか?だとしたら申し訳ないな。
「ふーん、浮気の背徳感ねえ」
――よし、俺もやってみるか、という百崎さんは、僕の方に近寄って腕を組んできた。
余分な脂肪などまったく無いスレンダーな体つきの百崎さんだが、腕を組んだときに彼女の胸が僕の腕にあたり、とても柔らかく心地よい感触に襲われた。
ああ、この人、けっこう大きいわ。
「今日だけ俺の彼氏になれよ、司」
男っぽい言動をする百崎さんだが、いざ耳元で囁かれると、やはりこの人は女なんだなと痛感させられた。
「え?それはまずくない?」
「いいだろ。杏ともやったんだろ?じゃあ俺だっていいだろ」
「いやでもほら、彼氏さんいるんでしょ?」
――別にいいよ、あんな奴、と百崎さんは暗い顔をしていう。
「だいたい一線は超えないんだろ?じゃあ別にいいだろ。俺にも浮気の良さって奴、教えてくれよ」
なんだこの流れは?
百崎さんの顔がすぐそこにある。これ、そのまま顔を近づけたらキスできるのでは?いいのかな、やっちゃって?
宗像さんは百崎さんがチョロいと言っていた、これさあ、押せば本当に寝取れるんじゃねえの?え、いいの、寝取って?寝取りってやっても良いことだっけ?
ハッ!バカやろう!寝取ったら壬生さんも寝取られるんだぞ!だからもっと慎重になれよ。
そうだ、僕には壬生さんがいるんだ。ここはしっかり断るんだよ!さあ、百崎さんに向かって丁重に断るんだ。
「えーと、じゃあ今日だけってことで、浮気を楽しもうか?」
おいおいおい、なに丁重に受け入れてんの?そんな言い方したらさ、合意したと見なされるぞ!いいのか、合意していいのか?
「よーし、じゃあ俺たちもラブホに行ってみるか!」
大変です、壬生さん、六月までと時間制限を設けていたけど、百崎さん、今日にも寝取れるかもしれません!
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