第二章 ドキドキ!野外合宿編!
1日目
その日の朝、壬生さんからスマホにメッセージが来た。
『合宿に行ってくるね!』
ついに恐れていた日が来てしまった。
二年生のゴールデンウィーク。僕はこの連休初日を、一人で過ごすことになる。なぜだ?彼女がいるのに?
普通さあ、彼女がいる彼氏って、連休中は彼女と一緒にいちゃいちゃラブラブして過ごすものではないのだろうか?
しかし僕の隣に今、彼女はいない。なぜなら遠く山奥へ、テニス部の野郎どもと一緒に合宿に行ってしまったからだ。もはや自分以外の男に対する憎しみしか感じないくらいだ。
いや、もちろんたかが合宿だ。ラブコメじゃねえんだから、そんなキャッキャうふふなイベントが発生する確率なんて現実では低いものだ。
…いや、意図的に発生されるというのであれば別だが。
そう、男女が知らない土地で夜を過ごすからといって、必ずしもエッチなイベントが発生するわけではない。しかし、彼女はやる。壬生来沙羅という僕の彼女ならば、意図的にそういうハプニングを起こす可能性はかなり大きい。
なにしろ彼女は、僕が寝取られ性癖を持っているということを知っており、積極的にその欲望を叶えてくれるという、とても彼氏思いのできた彼女だからだ。
…なんでだよ。
なんで世の中にはいろいろな欲望があるのに、そんな叶える必要のない欲望だけ積極的に叶えてくれるんだよ。別にそんな欲望、叶えなくていいじゃん!
可愛い彼女がいる。それもめちゃくちゃキュートな美少女の彼女がいる。なのになんでこんな状況になっちゃうかなあ。
じゃあ断ればいいじゃん、と普通なら思うところ。しかし断れない。なぜなら僕自身、彼女が他の男と一緒にいる姿を心のどこかで望んでいるからだ。
「ふむ、では問題ないな」
「問題あるよ!」
「む?どっちだ?」
ゴールデンウィーク初日の昼。僕は一人でいるのがとても嫌だったので、クラスメイトの友人の志波辰巳と一緒に出掛けることにした。
同じクラスなので壬生さんと僕が付き合っていることは既に知っている。ただなにを思ったのか、僕はこの男に寝取られ性癖があることまで告白してしまっていた。もしかしたら僕は疲れているのかもしれない。脳が破壊されすぎて正常な思考を維持できないよ。
志波はやや身長が高めでほっそりとした体形の、メガネが特徴的なオタクっぽい外見の友人だ。僕の数少ないオタク友達でもある。
「志波はさあ、寝取られって理解できる?」
「すまん、まったく理解できん」
エロゲは腐るほどプレイしているんだけどなあ、と呟きつつも、寝取られだけは否定する志波辰巳。なぜエロゲはイケるのに寝取られはダメなんだ?僕の性癖はエロゲを超えるのか?
「根東は結局、彼女を他の男に抱かれて欲しいのか?欲しくないのか?」
「いいわけないだろ!嫌だよ、他の男なんて!」
「ふむ、言ってることが意味不明だぞ」
チッ、これだから素人は。
「なぜ舌打ちをする?」
「いいか、僕はね、寝取られが好きなわけではないんだよ。壬生さんが他の男とエッチするのなんて嫌に決まってるし、もしそんな場面に遭遇したらとても苦しいって思うんだよ」
「じゃあ寝取られたくないってことか?」
「そうだよ。嫌なものは嫌なんだ。ただ嫌だけど、興奮するんだよ」
「じゃあ嫌ではないってことじゃないのか?」
「違うよ!」
「ふむ、どういうことだ?」
こいつ、理系のくせに頭悪いのかよ。
「お前今、失礼なこと考えてるだろ」
「考えてないよ。ただお前の頭はとても悪いかもしれないって思っただけだよ!」
「気持ち良いぐらいストレートな悪口だな。だが、ふむ、そうだな」
志波はちょっと考えてから、「つまりこういうことか?」
「感情的には嫌だ。しかし性的には興奮するから見てみたい、そういうことか?」
「うん、まあそういうことかな?」
「ほう、つまりあれか。嫌だけど感じちゃうっていう、凌辱ものでよくある快楽堕ちの展開ってことだな!」
ははは、なるほどな、ようやく納得いったわ!と志波はやけに嬉しそうな顔で笑いかける。
「え、そうなの?僕、凌辱されてんの?」
いや、確かに言われてみれば、かなり精神的な凌辱を受けている気がする。
そんなバカな!僕は壬生さんと一緒にいるといつも幸せな…いや時々かな?うん、たまにだけどすごく幸せなラブラブタイムを過ごしているぞ!凌辱なんて頻繁にしかされてないよ!
「お前、日本語おかしくなっているぞ」
くっ、こんなキモオタに日本語の間違いを指摘されるだなんて、屈辱だ。
僕たちは駅に向かって歩いてる。今日の主な目的は友人と遊ぶことと、それと新しいパソコンを購入することだ。
志波辰巳という男は、そのオタクっぽい見た目通り、中身もかなり重度のオタクだ。ただ僕と違ってコミュ力はそこそこ高く、やろうと思えば友人ぐらい簡単に作れそうな雰囲気はある。
「それにしてもなあ」
志波は僕の方を見て、意外そうな顔をする。「お前が壬生さんと付き合うとはねえ」
「友人に寝取られ性癖があるってことにも驚いたが、それ以上に壬生さんと交際していることに驚いたぞ」
「え、寝取られ以上に驚いたの?」
「うん?いや、寝取られは意外とメジャーなジャンルだし、いまさら驚かないけど?」
ああ、そうだね。オタク界隈からすれば、寝取られの人間なんてそんなに珍しくないのかもね!でもほら、一般的な基準で言えば、寝取られ性癖の人間の方が珍しいんじゃないの?
見た目も中身もガチなオタクの志波辰巳は、世間一般の眼からすればかなり変人奇人の類だろう。スクールカーストの底辺に属しているのもなんとなく理解できる。ただ、この男の場合…
「お、ついたな」
「たつみーん!もう遅いよ!」
駅につくと、こちらに気づいたのか、女の子が一人やってくる。
「すまんすまん。待たせたな。ちょっと根東との会話が白熱してな」
「えー?根東くんのせいなの?」
「いやいや、ち、違うよ!」
「えへへ、わかってるよ!根東くん今日はよろしくね!」
にっこりとこちらに笑いかける明るい笑顔が眩しい。僕なんて彼氏でもなんでもない男なのに、彼女はいつも僕にフレンドリーに話しかけてくれる。本当に明るく、優しい女の子だ。
彼女の名前は小倉香澄。志波の彼女だ。そう、志波には彼女がいるのだ。
志波は一年の頃からこの女子と付き合っており、僕と志波が友人同士ということから僕自身も一年の頃からよく話したりしている。
共通の友人、というところだろうか?
志波辰巳という男はスクールカーストの底辺かもしれない。しれないのだが、彼女持ちということもあってか、まったく底辺という感じはなかったのだ。
それもこの目の前の彼女。壬生さんとは違う方向性でとても可愛い。
壬生さんがインテリ系の美少女だとすると、小倉さんはふわふわした感じの愛らしい女の子だ。女の子らしいといえば、壬生さんよりも女の子らしさはあるかもしれない。
壬生さんはクール系だしな。美少女ではあるのだが、女の子らしさというのはあまり無いもんな。
そんな志波の彼女の小倉さんの最大の特徴といえば…そのすごく大きい胸だった。
本当、いつ見てもすごいサイズのおっぱいだ。志波の情報によれば、Gカップあるらしい。
…Gか。すごい重力ありそうだな。
そんな巨乳の彼女がいる志波のことが羨ましいって思ったから壬生さんに告白したというのも、動機の一つとしてあったのかもしれない。
「え!根東くんってあの壬生さんと付き合ってるの!」
眼を大きく見開いて驚く小倉さん。彼女は僕や志波とクラスが違うので、こういう情報はまだ知らないらしかった。
「壬生さんってすごい美人って有名だよ!根東くん、すごいねえ!」
「確かにな。だが安心しろ、香澄の方が可愛いぞ!」
「え!もうやだー、急にそんなこと照れちゃうよー」
「はは、可愛いな香澄は。よし、今からラブホ行くか」
「ば、バカ!なに考えてるの!ダメだよそんなの~。それに今日は、私のパソコン買うって約束してくれたでしょ」
そう、今日は彼女のパソコンを買う予定で一緒に遊ぶことになった。志波は身長は高いが典型的なオタクなので腕力がなく、パソコンを持ち運べるほどの体力はない。
「それに根東くんもいるんだよ」
「志波、いちゃつくのは別の日にしろ」
「ふむ、確かに今日はダメだな。よーし香澄、残りの連休はずっと一緒にいような!」
「えへへ。うん、いいよ」
ちょっと浮かれすぎじゃねえの?なぜだろう、すごくイライラする。僕だって彼女いるのに。なぜ僕の彼女は連休中に彼氏のそばにいないのだろう?あ、そうだ。僕がそうしてくれって頼んだんだ!
なぜあんなことをしたのだろう?なぜ僕は今、友人とその彼女のバカップルっぷりを近くで鑑賞しなければならないのだろう?
なんだかすごく、虚しい気分になりながらも、一緒に食事をしたり、ゲーセンで遊んだり、家電量販店でパソコンやらその他のいろいろな機材などを購入した後、志波と一緒に彼女の家までそれらを運んであげた。
すごく疲れた。疲れたけど、まあ彼女がいないこの虚しさを紛らわせるにはちょうど良い忙しさのある一日だったかもしれない。
もしかしたらそういうことをわかっていたから、志波はせっかくの連休を僕と一緒に過ごしてくれたのかもしれない。小倉さんもいたけど。
いや、思い過ごしだな。あの男は自分の欲望に忠実で、そういう気遣いは出来ないタイプだ。単純に人手が欲しかっただけだろう。
家に帰る頃には日が暮れ始めていた。最近はいつも壬生さんと一緒だったのに。今日は一度も話せていない。
合宿は二泊三日らしい。こんな日があと二日もまだ残っているのか?今まで一人でいることはそれほど苦じゃなかったけど、いざ彼女がいるのが当たり前になると、たった一日会えないだけでとても寂しかった。
ぶーぶー。
スマホが振動する音がする。着信だ。画面を見れば、壬生さんだった。僕はすぐに通話を開始する。
「はいもしもし!」
『もしもーし。根東くん?』
「壬生さん!どうしたの?」
『うん、時間できたから電話したんだけど、今は空いてるかな?』
「空いてるよ!なんなら連休中ずっと空いてるよ!」
『そう?どこか出かけないの?』
…ふむ。どうしよう。出かけたといえば出かけたんだけど、女の子と出かけたなんて言い難いな。
「いや、今日は友達とちょっと出かけたかな」
『ふーん、友達ねえ』
なんだか勘ぐられているような気がする。え、大丈夫だよね?別に悪いことしてないよね。
『友達って、私も知ってる人かな』
「うん、同じクラスの志波と一緒に出かけたよ」
『志波くん?根東くんと志波くんって仲良いの?』
「うん、中学から一緒だね」
『そうなんだ』
これで納得してくれたのか、とりあえずそれ以上は追及されなかった。なぜだろう?変な汗かいたな。
「それより今はなにしてるの?」
話題を変えよう。
『うん?今はお風呂に入った後で、部屋の前にいるよ』
…なんか変な答え方だな。
お風呂に入ったというのはわかる。問題は、なぜ部屋の前に?部屋に入ればいいじゃん。
「部屋の前でなにしてるの?」
『ああ、今ね、同室の女の子が使用中で、入れないの』
「へえ、そうなんだ」
正直、なにを言っているのかよくわからなかったが、とりあえず同意してみた。部屋を使用中ってどういうこと?
着替えでもしてるのかな?いや、それぐらいなら入れてくれるだろ。
『今ね、その女の子が彼氏連れ込んでね…』
――エッチなことしてるんだよ、と壬生さんは答える。
おかしいな。僕はテニスの合宿って聞いていたのだが?いつから合宿所で少子化対策が始まったんだ?
『さっきから喘ぎ声が聞こえてね。なんだか変な気分になっちゃうんだ』
ふぅ、と吐息まじりに話す壬生さん。なんだか様子がおかしい。
『ねえ根東くん』
「え、なにかな…」
なんだか嫌な予感がする。胸が苦しくなる。しかし一方で、僕の壊れかけた脳が歓喜の声をあげていた。
『ここにいても暇だし、私も混ざって来ようかな?』
壬生さんはどうやら今日も絶好調らしい。スマホ越しに僕の脳を破壊しにきた。
『今ね、よっぽど興奮しているんだろうね。扉越しからも声が聞こえるの。女の子のエッチな声と、男の人の野蛮な声。もしこの部屋の中に私が混ざったら、一緒に犯されちゃうかもしれないね』
「ちょ、ちょっと待ってよ」
『うん?考える時間が欲しい?いいよ』
壬生さんは一体なにを言っているだ?いや、もちろん彼女の意図はわかっている。僕の寝取られ性癖を満たそうと、彼女なりに行動を起こしているのだ。なんて余計なことをするのだろう。
普通の彼氏ならば、こんな提案をする彼女を叱り、怒鳴り、やめろと説得するのだろう。もちろん僕だってそうするべきだ。そうだよ、ダメなもんはダメだよ。なにを考えているんだ僕は?
ダメだ、絶対ダメ。これは本当にアウトでダメな奴だ。しかしなぜだろう?ダメだと思えば思うほど、想像してしまう。壬生さんが合宿で乱れている男女の輪に入って、男一人女二人のくんずほぐれつをする姿を。
なにそれ?ハーレムじゃん。ラブコメかよ。
彼氏でもない男に抱かれて、動物みたいに乱れる壬生さんの姿を、僕はなぜかイメージしてしまい、その姿に興奮してしまう。
必死に心では否定したいのに、もう一人の僕が肯定してしまう。
『ねえ、根東くん。もしかして今、私が他の男の人に抱かれる姿を想像して、悦んでるる?』
「え!いや、そ、そんなこと考えてないよ」
『ウソ』
なぜバレる?彼女は僕のことお見通しすぎないか?彼氏のことはなんでもわかる彼女って、冷静に考えたらプライバシー0じゃねえか。
『私ね、根東くんのこと、大好きだよ。だからね、根東くんが悦ぶこと、してあげたいな。ねえ、命令してみる?今すぐ部屋に入って混ざって来いって』
それはもしかして、僕に寝取らせプレイを命令しろってこと?
そんな、そんな、そんなのってないよ!
それ、ガチで一線超える奴じゃないか。ダメだよ、それやったらガチでライン超えだぞ!
…命令してみようかな。
もし命令すれば、壬生さんが他の男に抱かれるんだよなあ。
なぜだろう?本来なら忌避すべきことなのに、ドクドクと血流が下半身に集中し、異様に喉が乾く。
頭が妙に冴えていく。やってはダメなのに、ダメなのに、本当にダメなのに、僕はその一線を超えた先にある欲望に、心が揺り動かされている。
見てみたい。彼女を他の男に抱かせてみたい…
僕はスマホ越しに壬生さんに語りかける。
「壬生さん、聞いてほしい」
『うん、どうぞ』
彼女の声はとても優しい。どうやら僕の言葉を一言一句、ちゃんと聞いてくれるようだ。
「僕の気持ちとしては、壬生さんが寝取られる姿を見て欲しいという感情はある」
『うん』
「でもそれ実行したらガチでアウトだから。本当に無理だから止めてほしい」
『うん、わかった。じゃあ止めとくね』
あ、よかった。わかってくれたみたいだ。あっぶねえ。なにが危ないってさあ、この彼女さあ、僕が命令したら本当にやりそうなんだよなあ。
いや、間違いなくやる。根拠はないが、やるだろうという確信はあった。
その後。寝取られトークはこれでお終いということで、それ以外の関係ない話をした。しばらくすると、どうやら部屋の中での行為が終了したようで、『ホントごめんな、来沙羅』という声がした。女の子の声だ。
『このバカが、ちょっとしつこくて』
『いや、だってミズキ、お前ががっつりホールドして離さないから、イタッ!』
『早く部屋に戻れバカ!』
なにか蹴られるような音がした。
『あ、ごめんね根東くん。部屋空いたみたいだから、また明日ね』
そう言い残して通話が途切れた。
どうやら無事、何事もなく一夜を終えることができたようだ。自分の理性と倫理観を褒めてあげたい気分だ。
正直な話、後悔はある。僕があそこでゴーサインを出していれば、きっと壬生さんは今ごろ、今の男の声の人とその、一線を超えていただろう。
その想像をするだけで胸が苦しい。業火で焼かれているような精神的な苦痛がある。だが心のどこかで、それを見たい、やらせたい、という別の感情もある。
でもいいのだ。後悔はあるけど、ダメなものはダメなのだ。見てみたいけど、本当にアウトだから。
ぴろん♪と音がする。壬生さんからメッセージが来る。
『おやすみ、根東くん』
「おやすみ、壬生さん」
僕はメッセージを返すと、ベッドの上で寝転がる。この合宿、あと二日かあ。僕の精神は耐えられるだろうか?
一日目からしてハードすぎる。すごく疲れた。なのに僕の下半身はとても元気でお盛んだった。
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