3

「あら、これ可愛いわね」


「お、ちょっと派手かな」


「これ、ちょっとエッチかしら?」


 きゃっきゃっと女の子同士で水着選びをする姿はとても可愛らしく、なんだか見ていて癒される。


 駅ビルの水着専門店で僕たちは今、今年着る予定の水着を選んでいるわけなのだが、なんて天国のような光景なのだろう。


 …キス勝負さえなければこの素敵な光景を思う存分に楽しめるというのに、なんか理不尽だな。


 この水着ショップは女性用の水着を専門に取り扱っているようだが、ただランジェリーショップの時と違ってカップルで来店する客が意外と多く、僕以外にも男性客は少ないけれど、そこそこいた。


 さすがに家族連れはいなかったが、それでも男性客がいる分、僕みたいな男がいたとしてもそこまで場違い感はなかった。


 もっとも三人の美少女を連れてくる男は僕だけなのだが。それだけ聞くと僕がまるでヤリチンのチャラ男みたいじゃないか。


 違うよ。僕はただの冴えない陰キャだよ。他人の彼女を寝取るような人間ではないよ!他人に害を為すような人間じゃない、無邪気で無垢な陰キャですよ!


「ねえ、根東くんはどれがいい?」


「え?うーん、そうだなあ…」


 僕は壬生さんと一緒に水着を物色する。そもそも今回の本来の目的は壬生さんに着せる水着を僕が選ぶことなのだ。


 …そうだ!試着室に入っちゃえばもう誰にも邪魔されずにキスできるんじゃね?


 そうだよ、なんでこんな簡単なことに気づかなかったのだろう?よーし、そうと決まれば早く水着を選んで壬生さんを試着室に連れ込むぞ!


 …なんだか最後の発言だけ切り取ると、ただの危ない男だな、僕って。


 僕は水着を選ぶ。一つだけだと、すぐに試着時間が終わってしまうかもな。そうならないように、複数の水着を選んだ方がいいよね。


「これと、これと、これ、うーん、これも良いよね」


 僕は露出の少ないものからセクシー系なものまで、とりあえず壬生さんに着せたい水着をたくさん選び、カゴに入れていく。


「根東くん、そんなに私の水着姿が見たいの?」


「もちろん」


「え、うん、そっか。じゃあ試着室でチェックするね」


 壬生さんはなにを当たり前のことを言っているのだろう?見たいに決まっているじゃないか。


 壬生さんは僕が選んだ水着を手に取り、一緒に試着室へ行く。よし、これで誰にも邪魔されずに壬生さんとキスできるぞ!


「よし、じゃあ俺たちも試着室に行くか」


「あら、そうね。根東くん、私たちの水着もちゃーんと見てね!」


 百崎さんと宗像さんも一緒に試着室へとついてきた。


 あ、この展開は考えてなかった。どうしよう?


「ふふ」


 僕と腕を組み、試着室に一緒に行く壬生さんが、なんだか悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらをそっと見る。


 なんだか罠にハメられた気分だ。


 さて、どうする?


 今、女性陣はみんな試着室に入っていった。この試着室の反対側はちょうど壁になっているので、この位置からなら壁が視界を遮ってくれるので、店員やお客さんに見られる心配はない。おそらく他の客に見られないようにするための店側の配慮なのだろう。


 ちなみに試着室の横に一人ずつ利用してください、と注意書きがあった。


 …もしかして、ここでそういうことをした客がかつていたのかな?いずれにしろ、試着室の中でキスをする作戦は封じられた。


 ——いや、まだだ。


 方法はあるはずだ。強引でも良いと壬生さんは言っていた。なら、強引にでもやるまでだ。


 要は百崎さんと宗像さんに見られずにキスをすればいいんだ。店員や客に見られる可能性は…うーん、正直恥ずかしい。なんで他人に僕らのキスを見せねばならないのか?


 しかし、今回は我慢だ。恥を忍んで耐えよう。壬生さんの貞操を守るためだ、多少のリスクは受け入れようじゃないか。


 試着室からはごそごそと着替える音がする。時おり、「あら?」「ちょっと大きくなったか?」「お尻はみ出ちゃう」などなど、気になるワードが試着室から漏れ聞こえていたが、明鏡止水。邪念を払い、心を平静に保つのだ。


 やがてジャーとカーテンが開く音がする。トップバッターは壬生さんだった。彼女は黒い水着を着用しており、そのスリムでバランスの良い体が現れる。


「どう?根東くん」


「すごく良いよ」


「ありがと」


 こうやって改めて見ると、壬生さんの体は本当にエッチだ。宗像さんほどではないが、それなりに大きく、なおかつ形の良い胸に、くびれのある腰つき。丸みのあるお尻。大事な部分を隠している水着の色がブラックということもあってか、彼女の白い肌をかえって強調していて、余計にエロく見える。


 ハッ!って呑気に感想を抱いている場合か!今がチャンスだ。


「根東く…」


「壬生さん、口を閉じて」


「あ、ん💓」


 まだ隣のカーテンは開いていない。今がチャンスなのだ。


 僕は壬生さんを抱き寄せてその柔らかな唇を連続で奪う。1、2、3、4、5、ジャー。くっ、しまった!カーテンが開いた。


 とりあえず5回。僕は壬生さんから距離を放し、「水着、すごく良いね」と褒め称える。


「うん、根東くんも良かったよ💓」


 壬生さん、そのうっとり蕩けた表情はまずいよ。それ、疑われるから!


「あん?司が良いってどういう意味だ?」


 どうやらカーテンを開けたのは百崎さんのようだ。ふぅ、あっぶねえ。見られるところだった!


「え?あ、あのー、期末テストの出来が良かったって話だよ!」


「こんな時までテストの話かよ。やっぱ進学科は違うな。それより俺の水着も見てくれよ」


「根東くん、次の水着まで待っててね」


 そう言って壬生さんはカーテンを閉める。なんだかもぐら叩きのキスバージョンでもやってる気分だ。


「う、うん。急がなくて良いからね」


「おい、司!早くこっち見ろよ」


「ごめんごめん、今見るね!うわ、すっご」


 やべ、すっごいエロいって言いかけちゃった。


 百崎さんは男っぽい口調の女子だが、体は完全にメスである。普段、しっかり運動をしているからだろう、スレンダーでしなやかな健康ボディの持ち主だ。


 その一方で、おっぱいはそれなりに大きいからたまらない。果たして重力は仕事を放棄しているのか、ツンと上を向く百崎さんのおっぱいは、スライムみたいな形をしていて触り心地がすごく良さそう。眼福である。


 お尻の方もキュッとしていて形が良く、肌の質感も良さそうで、うーん、あれをさっき触っていたのか。どうりで手が幸せになるはずだなと納得した。


「司、もう一回触るか?」


「え!あの!さすがにここではまずいよ!」


「お前、別の場所なら触っても良いって言いたいのか?」


 ——お前がそうしたいなら、場所変えるぞ?と挑発する百崎さんの表情は、色っぽくて艶やかだった。


 やばい。ドキドキと興奮する。こんなスレンダー美少女にお尻触ってみる?なんて言われたら、誰だって興奮するよね!まさか寝取られ以外のシチュエーションで興奮する日が来るだなんて夢にも思わなかったよ!


 …いや、本来はこういう状況で興奮するのが健全な男子の在り方なんだけどね!


 なんか寝取られのやり過ぎてで、ノーマルを忘れかけてたよ。


 違うでしょ。寝取られがアブノーマルなのであって、こういう健全なエロスがノーマルでしょ!勘違いしないでよね!


「へへ、なんだよお前、これ気に入ったのか?じゃあこれにするか?」


 百崎さんはこの水着に決めるつもりのようだ。…いや、まずいだろ!今出たら、キスチャンスがなくなるじゃないか!


「え、そんなすぐ決める必要ないよ!僕、もっと見たいな!そうだ、これなんかどうかな!」


「お、そうか?まあ、司が見たいっていうなら…ってこれビキニじゃねえか!…なんだよ、そんなに見たいのか💓」


 あれ?壬生さんに着せようと思って選んだ水着を適当に渡したつもりだったのだが、もしかしてとんでもなくエロい奴だったかな?


 水着姿の百崎さんがなんだか恥ずかしそうに太腿をもじもじと擦る。そんなエッチな動きをしないで欲しい。僕が欲情したらどうするつもりだ?


「ちょっと待ってろ。司の期待に応えてやるよ」


 なんだか嬉しそうな顔をする百崎さんに対してチクリと罪悪感が胸を刺す。


 ごめんね百崎さん。でも今は他にやらないといけないことがあるんだ!


「着替えるから待ってろよ」


「うん、でもゆっくりで良いよ。慌てないでね!」


 あんまり急がれても困るからね。ゆっくりで良いんですよ!時間はたっぷりあるから!


 ジャーとカーテンが開く音がした。今度は宗像さんだ。


「ねえ根東くん」


「え?なにかな?」


「ここ縛ってくれないかな?」


 宗像さん、君は一体なにを言っているのかな?


 見れば試着室でこちらに背中を向ける宗像さんがいた。どうやら後ろで紐を縛るタイプの水着のようで、上手く縛れないようだ。


 つまり、宗像さんの背中は現在、紐が縛られていないので丸裸である。


 うわあ、すっごいエッチな背中してるなあ。


 宗像さんは百崎さんと違って脂肪とお肉がほど良くついている、むっちりな体をしている。


 ただむっちりといっても決して太っているというわけではない。ただ皮下脂肪がたくさんついているのだろうね。肌がもっちりしていて、スベスベしていて触ったら心地が良さそうだった。


 …この中で一番気持ち良いエッチをするのは宗像さんだろうな、となんとなく思った。


 そんな彼女が現在、そのメロンみたいな豊満なおっぱいを両腕で抱えて、僕に無防備な背中を見せている。


「おっぱいが大きくてね、邪魔で縛れないの。お願い根東くん、縛るの手伝って💓」


 そっかー、おっぱいのせいで縛れないのか!じゃあしょうがないよね!本来は自分でやるべきなのだが、おっぱいがあるんじゃしょうがない。僕が手伝うしかないよね!もう全部おっぱいが悪い!でもおっぱいに罪はないんだよ!悪なのに罪がないなんて、おっぱいって不思議だよね。


「わ、わかりました。じゃあ縛るね!」


「ありがと、あん💓」


「え!どうしたの!痛かった!ごめんね!」


「ううん、大丈夫。ただ根東くんの指が背中にあたって」


 それはしょうがないじゃないか。だってちゃんと縛らないとおっぱいこぼれますよ?


 それだけは絶対に阻止しないと!このおっぱいは僕のモノなんだ。絶対、誰にも見せるもんか!


 …あれ?宗像さんのおっぱいって僕のモノだっけ?うーん、違うね!やっべ、なんか興奮しすぎておかしくなっちゃったよ!


 僕は明鏡止水の境地を目指し、ただ黙々と、邪念を捨て、宗像さんのたわわなおっぱいを包む水着の紐を縛ってあげた。とても素晴らしい経験だった。


「わー、ありがとう根東くん!」


 そう言って彼女はこちらを振り向く。すると、なぜ彼女はビキニを着ているのだろう?そんな小さい布では君の胸を隠しきれないのではないのかな?


 ああ、そうか、わかったぞ!隠す気がないんだ!だったら問題ないよね!


 宗像さんがこちらに振り返った時、その豊満なおっぱいがダイナミックに躍動。ぷるんぷるんと大きく弾んだ。


 壬生さんや百崎さんの健康的な美乳と違って、宗像さんはガチな巨乳の持ち主だ。


 その脂肪がたっぷり詰まっていそうなおっぱいには男の夢とロマン、期待、羨望、などなどいろいろなモノが詰まっている気がする。


「あら?ちょっと小さいかしら?」


 そう言って自分の体を見下ろす宗像さん。それは僕もうすうす感じていた。だってこの水着、宗像さんの体にちょっと沈んでるんだもん。


 水着が小さいのか、それとも宗像さんが大きいのか、水着から溢れようとする彼女の媚肉がただでさえエロい彼女のボディを余計にスケベな見た目にして僕の興奮を煽ってくる。


 はあ、宗像さんって本当にエロエロな体をしているな。この媚肉たっぷりの体が現在、彼氏と別れたのでフリーになっているとは。


 しかもこのタイミングで抱けるチャンスが到来って、一体世界はどうなっているのだ?


 僕の人生、今まで女性にモテたことなんて一度もないのに。壬生さんと付き合うようになって以来、陰キャでは絶対に叶わないような出会いの目白押しだよ。


 これが陽キャの力なのか。凄いな、陽キャって。


「うーん、小さいけど、でも可愛いし、これでいいかな?」


 ハッ!まずい、宗像さんが水着を決めようとしている。もっと時間を稼がないと!


「まだ時間があるし、もっといろいろ見ようよ!これなんかどうかな!」


 僕はカゴから適当に水着を選んで宗像さんに渡す。


「あら?根東くん、そんなに私の水着が見たいの?なら遠慮なく…あら?これってTバック…根東くん、そんなにお尻が見たかったの?」


 しまった!適当に渡すつもりが、とんでもなくエロい水着を渡してしまった!


「あんなに私のお尻触ったのに、まだ足りないのかな?」


「え、あの、これはその…」


 宗像さんはすっと後ろを振り返る。そしてお尻をふりふり振ってくる。あー、すごいお尻。メロンみたいなおっぱいだなあ思っていたが、お尻は桃だったか。一つの体に二つも果実があるなんて、宗像さんの体はさぞや食べ応えがあるんだろうなあ。


「今なら触れるよ?」


「いや、ここではまずいって!」


「ふーん、ここじゃないなら良いんだ?」


 ——今度、来沙羅に内緒で水着鑑賞会しようか?と宗像さんはそのむっちりな桃尻を僕に見せながら淫らな誘惑をしてくる。


「待ってるね」


 というと、ジャーとカーテンを引いて僕の視界からお尻が消えた。


 これが陽キャの女子のノリなのか。陽キャってさあ、エッチすぎませんかねえ?そりゃみんな陽キャが好きになって当然だよ!陰キャだけど、陽キャになりたいなって今ちょっとだけ思ったよ。


 僕がチャラ男だったらもう飛びついてるかもね!はあ、陰キャでよかった!…いや、いいのか?陽キャになれるならそれはそれで良いんじゃないの?


 などと益体のないことを考えていると、再びカーテンが開く。今度は壬生さんだった。


「根東くん。次の水着はどうかな?」


 今度は白い水着だった。僕はすぐに彼女のもとへ向かう。


「すごく良いよ。大好き」


「ありが、ん💓」


 もう感謝の言葉さえ言わせない。僕はすぐに壬生さんの唇を奪ってキスをする。


 とにかくキスを、壬生さんといっぱいキスをするんだ!


 多少強引であっても良い。壬生さんから強引でも良いって許可はもらってるんだ!壬生さんを寝取られの魔の手から救うためにも、多少強引でもやり遂げるぞ!


「根東く…あ💓…もう💓次、着替えてくるね」

「おい司!これどうだ?…よし、次の水着に着替えてくるな」

「あら、根東くん。これなんかどうかな?…うん、いいよ、着替えるね」

「根東くん…ン、強引だね💓…次の水着、待っててね💓」

「司、こっちの水着…え💓お前、急に!…もうバカ💓次、待ってろよ」

「根東くん、これなんてどう…あん💓うん💓…強引だね💓次も待っててね」

「あれ?根東くん、今、杏とンンッ💓ダメ、そんなんじゃ誤魔化されな…あ💓」

「司、お前急に男らしくなるな…ん💓…もう、そういうとこ好きだぞ💓」

「根東くん、上手なんだ…あん💓…もっとぉ💓うーん、好きになっちゃう💓」

「ね、根東くん、これさすがに強引すぎンンッ💓うん、もっとしないとダメぇ💓」


 三人が三人、それぞれの形で僕を誘惑する。しかし、その誘惑に乗ってはいけない。僕には今、やらねばならぬことがあるのだ。たとえどんな手を使っても!


 とにかく僕はカーテンが開くたびに時間を無駄にしないためにも大好きな彼女にキスをお見舞いした。なんか途中から唇の感触が変わったような気がしたが、おそらく気のせいだろう。


 水着選びが終了した時、なぜか壬生さんだけでなく百崎さんと宗像さんもはあはあと呼吸を荒げ、ぽーと蕩けたような表情をしていたが、なぜだろう?


「強引でも、ハアハア、いいって言った、ハアハア、私が悪かったのかな?」


 水着から私服に着替え終わった壬生さんが、ぽつりとなにか呟いた。一体なんて言ったのだろう?


 しかし、すごく大変な買い物だった。しかし、これはこれでなんだか凄く楽しいなあ、と思う自分もいた。


 正直、大変ではある。だがこの三人に囲まれるなら、頑張る価値はあるな。


 残りのキス、48回。


「根東くん…残り57回だよ」


 おっと、計算ミスがあったようだ。ちゃんと数えてたつもりだったのだが、さすが壬生さんだ。正しく計算してくれてありがとう!


「もう…強引すぎるんだから、今日は特別に許してあげるね💓」


 頬を赤く染めた壬生さんになぜか尻を抓られた。なかなか痛かった。僕がなにか悪いことしたのだろうか?


 理由はよくわからないが、とりあえず壬生さんから許しを得たようだった。

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