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「いや、だから違うんです。私はちょっと学術的な興味として未確認物体を研究してみたいと思っただけで、これはあくまで科学的フィールドワークの一環なんです。決してやましい気持ちやいかがわしい気持ちなどの他意はないんです。でも謝れって言うならはい、あの、すいません、ごめんなさい」
冷房がよく効いている涼しい生徒会室だというのに、椅子に座って謝罪の言葉を口にする四条さんは、なぜか汗をたっぷりとかいていた。
あの真面目そうな雰囲気のある生徒会長の四条彩夢さんが、まさか生徒会室をヤリ部屋として他人に貸すだなんて前代未聞である。いや、そんな場所で始めようとした僕らにも問題はあるのだが、やっぱり貸す側にも問題があるので、弁明があるなら聞いてみた。
「いえ、あのこちらこそ、神聖な生徒会室で性なることをして申し訳ないです」
「そ、そうですよ!なにを考えてるんですか!ここは性徒会室、淫行をする場所じゃないんですよ!」
うん?今の発言、なんか違和感があったな?
「いや、じゃあ貸すなよ。彩夢さあ、自分が支離滅裂なこと言ってるって気づいてるか?」
「はぅ、本当に申し訳ないです」
「いいのよ、彩夢ちゃん。私、あなたの気持ち、わかるわ。だってあんなに大きい上に、テクまであるのですもの。気になるよね」
「そんなに凄いんだ!」
一時は申し訳なさそうにシュンとしていたのだが、宗像さんにフォローされた途端に目をランランと輝かせて僕の方を見る。
ふむ、テクか。
「あのさあ、さっきから気になってたんだけど、なんでそんな僕の性事情について四条さんが知ってるの?」
「「「…」」」
なぜ黙る?なにかとんでもないことを聞いてしまったのだろうか?
いや、心あたりならあるのだ。というかアレが原因だよね?
「あのさあ、うちの学校の裏サイトって知ってる?」
「「「!」」」
僕がその言葉を口にした途端に三者三様ですっと僕から視線をそらした。
あれ、こいつらじゃね?なんか人の噂を勝手にネットでバラまいてるの、こいつらじゃね?
いや、そうだよ。だって四条さんはともかくさ、僕の性事情について知ってるのなんて壬生さんを除いたらこの二人しかいないわけだし。絶対この二人が犯人だよね!
「違うんだ、司」
まるで自分は冤罪だと言わんばかりの態度で百崎さんが弁明する。
「やれって言ったのは来沙羅なんだ」
ぐはッ!僕の彼女が主犯なの?
「来沙羅がね、この噂をネットで書き込んだら絶対面白いことになるよね、キャハハって言いながら裏サイトに書き込んでたの」
と真実を教えてくれる宗像さん。
マジで?そういえばあの人、もともとは遊び人だったわ。清楚な見た目だからつい忘れがちだが、基本は楽しいことを優先する人だった。壬生さんは、面白ければやっちゃうタイプの人なのだ。
それに加えて最近の壬生さんはいろいろ溜め込んでいたからなあ。感情が荒ぶるあまりやっちまったのかもしれないね。
それもこれも、壬生さんにいらぬ感情を抱かせてしまった僕の不徳の致すところだ。謹んでこの状況、受け入れようじゃないか。
「事情はわかったよ」
「本当わりーな、司」
「ごめんね根東くん、つい自慢したくて」
え?ぜんぜん悪びれてない…まあ、いいけどさ。
「うん、もういいよ、許すよ」
僕の彼女がやったことっていうのもあるが、それ以上に宗像さんと百崎さんとはいろいろやっている関係なだけに、彼女たちを一方的に批判するのはちょっと憚られた。
…まあ、そもそも僕みたいな人間にとやかく言われる筋合いなんて無いよね!
「それにしてもあの裏サイトって管理人の招待制なんでしょ?よくアクセスできたね」
「ああ、だって管理人って彩夢のことだし」
「ちょ、なんでバラすの!」
「彩夢ちゃん、ここまできたら一蓮托生だよ」
てっきり四条さんは巻き込まれただけかと思っていたが、がっつり犯行グループの一員だった。
「そうなんだ、四条さん。君があんないかがわしい裏サイトを」
「ち、違うの!」
四条さんは椅子から立ち上がり、必死な剣幕で否定する。一体なにが違うのだろう?
「私はただ前の生徒会長から管理人の権限を移譲してもらっただけなの。誓って私が作ったわけじゃないの!」
「あ、そうなんだ。ごめん、勘違いしてた」
そうだよね、裏サイトってそう簡単に作れるものじゃないよね。
「そうだよ、それに最初は本当にただの健全なサイトだったの。ただこういうサイトって放置するといじめの温床になるって言うから、そうならないようにちょっとエッチなサイトに方向性を変えただけなの。そしたらなんかいかがわしいサイトになっちゃって」
じゃあやっぱりお前のせいじゃねえか。真面目な会長かと思っていたが、想定以上にこの人、むっつりスケベかもしれない。
「でもでも、悪いことばかりじゃないんだよ!」
「あ、そうなの?」
あの裏サイトに一体どんなメリットがあるというのだろう?一応聞いてみた。
「今みたいなエッチな裏サイトになってからね、いじめとかそういう悪い話はまったく出てこなくなったの。エロのおかげでこの学校からいじめを払拭できたんだよ!凄いと思わない!」
「え、それは、うーん、確かに凄いか」
まさかそんな方法でいじめ問題を解決できるとは。確かに凄いといえば凄いか。
でも方法が方法なだけに、とても文科省の役人に提案できる内容ではないよね。
「私ね、思うの」
会長がなんか演説を始めた。どうしよう、聞くの面倒だな。
「いじめをする人って結局、他にやることがない頭の悪い暇人がやるんだと思うの。だって普通、恋愛とかで忙しい人がいじめなんてするわけないもんね」
いや、あの、うん、正論かもしれないが、それ世間で言ったら絶対炎上するよね。
「だからね、裏サイトを通じてエッチな情報をたくさん発信すれば、いじめなんて頭の悪いことを考えるのは止めて、どうしたらエッチができるのか、健全な方向にみんなの考え方がシフトすると思ったんだよね」
ふむふむ、それは果たして健全な方向なのだろうか?まあいじめとかされるぐらいなら、ちょっとスケベになってくれた方がマシかもしれないね。
「えーと、つまり四条さんは、いじめなんてする暇があるなら恋愛でもしてろよって言いたいのかな」
「そうだよ、根東くん。だっていじめをする時間とか、人生の無駄でしょ」
いや、うん、そうだね。四条さんの意見は過激だけど、まあ実際いじめ撲滅という実績があるだけに、否定し辛いね。
「私ね、昔から男の子にいじめられてるの」
なんだか急に暗いトーンで話し始める四条さん。
「根東くんにも前に言ったでしょ?私、野球部の幼馴染がいるって。あの人ね、いつも私の人格を否定するようなことばかり言っていじめてきて、本当に嫌なの」
ああ、そういえばそんな人がいるって言ってたね。でもさあ、たぶんその人って…うん、まあ理由はどうあれ悪口は良くないか。
「さっき生徒会室に来る前もね、今度試合があるから俺のために弁当作れよ、まあお前みたいな飯マズ女の弁当食べる男なんて俺ぐらいしかいねえか、なんて嘲笑いながら言ってきて、本当に嫌な気持ちになったの」
…そう。これはもう手遅れかもな。うん、もうフォロー無理かもしれない。この野球部の幼馴染、ちょっと庇えないわ。だって四条さん、ガチで嫌ってるんだもん。
ツンデレはね、美少女だけの特権なんだよ。男がやるとガチで嫌われるから止めようね。
「こういう嫌な気持ちをする人を一人でも救いたい、そういう願いもこめて今の裏サイトを運営しているの。お願い根東くん、裏サイトの件、黙認して!」
——もし黙ってくれたら、お礼にエッチなことして良いよ、と四条さんはまるで僕がぐへへと言いながら脅迫する野蛮な人でもあるかのような言い方をしてきた。
「いや、そんなことしなくても黙ってくるから、大丈夫だよ」
「本当に?なんだか信用できないな。そうだ、根東くんにエッチなことさせて共犯になってもらえばいいんだ…」
この娘はなにを言ってるんだろうね。一体どんな思考をすればそんな論理が形成されるのだろう?
「落ち着け、彩夢」
「きゃ!…痛い」
バシッと頭を叩く百崎さん。本当に痛いのか、四条さんの目に涙が溜まる。
「司は来沙羅の彼氏だぞ。勝手にエロいことすんな」
「あ、ごめん。…え、じゃあなんで二人はさっき…」
「あら。だって私たち、来沙羅公認でエッチする仲だし」
「え、ずるくない?そんなのありなの?っていうかもうやってるの?」
おや、なんだか変な空気になった。
「あの、やってないです」
これ以上カオスな空気を作らないためにも、僕がしっかりしないと。ということで四条さんの質問をちゃんと否定する。しかし、それを許さない二人がいる。
「ん?やってない?あんなにやったくせに、やってないのか?」
「あらあら、それは聞き捨てならないわね。私の体をあんなに辱めたのに、やってないのかしら?」
そうだった。確かに僕たちは本番はやってない。そう、誓って本番はやってない。だがそれ以外のことはがっつりやってた。
「やっぱりやってる!ずるいよ!私だってランカーとやりたいよ!」
「あのランカーって何ですか?」
急に変な単語を出さないでほしい。
「ランカーは裏サイトのエッチ上手いランキングトップ10の人のことだよ。根東くんは6位でしょ?」
そういえばそんなランキングあったね。え、トップ10に入るとランカーって呼ばれるの?初耳なんですけど。
「ちなみに1位は三年の渋谷先輩だよ」
と耳よりの情報を教えてくれる宗像さん。へえ、渋谷先輩って凄いんだ。いや、知らない人なんだけどね。誰だよ、渋谷先輩って。
どくん…おや、なぜ僕の心臓が反応する?なぜだろう、僕の寝取らレーダーが妙な反応を示した。とりあえず、渋谷先輩には警戒しようと思う。
「それはともかく、そうだね、二人ともごめんね。さっきの発言はよくないね。そうだね、僕が間違ってたよ。確かに僕らはエッチなことしてる。ただね、まだ最後まではやってないから。それは本当だから!」
っていうかここまでやっていまだに童貞を死守してるって逆にすごいな。なんでここまでエッチな目に遭ってるのに最後の一線だけちゃんと守られているのだろう?僕の守護霊は守護神か何かなのか?
「そうね、私はいつでも良いんだけど、本当に頑張るよね…そんなことだと」
「そうだな、一体いつになったらできるのやら。焦らしすぎだぞ…そんな態度だと」
——他の男に取られても知らないぞ、と宗像さんと百崎さんが僕の耳元でそっと囁きかける。
ドクン、ドクン、まずい、僕の寝取らレーダーが激しく反応する。ダメだ、せっかく落ち着きを取り戻したというのに、こんな状況で興奮するだなんて絶対にダメだ!
ああ、でもダメだって思えば思うほど、かえって興奮して逆効果なんだよなあ。
やばい。めちゃくちゃ興奮する。ただでさえ最近、この二人との仲が良くなっているだけに、いざ二人が他の男に抱かれるかもしれないと思うと、寝取られの興奮が昂って感情の抑えが効かなくなる。
いやだ、二人を他の男になんて取られたくない、でも取られるところを見てみたい、そんな相反する感情が胸の中で激しくせめぎあって、余計に僕の興奮を煽ってくる。
「あら💓」
「へぇ💓」
まずい、僕が興奮していることがバレたのか、宗像さんと百崎さんの表情が艶やかに変化する。
「ねえ、もう話は終わりでいいでしょ」
「そうだな、彩夢の話はもういいだろ」
——さっきの続き、どうする?と二人の美少女が僕を誘ってくる。
それを合図にするかのように宗像さんと百崎さんが僕の腕を取り、しなだれかかってくる。彼女たちは本当に続きを再開するつもりのようで、胸を押し付けてきた。
「ふえ、え、ちょっと待って、本当にする気なの?」
一番パニックになってるのは四条さんだろう。
「えっと、じゃああの、撮影していいですか?」
いや、意外と冷静かもしれない。そうだよね、そもそも男遊びを見学したいなんて言う人だもんね。むしろこの中で一番ノリノリなのはこの人かもしれないよね。
もう止められない。宗像さんが僕の下半身に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待って。あの、その、撮影だけは止めて!」
結局僕はそれしか言えなかった。とりあえず、四条さんのスマホを取り上げて、撮影だけは断固拒否させてもらった。
「根東くん💓」
「司💓」
宗像さんが僕の耳をはむっと甘噛みし、小声で囁いてきた。
「大丈夫だよ、根東くん。来沙羅と違って、私たちはアゴを外さないで気持ちよくする方法、知ってるから」
「え、そうなの?」
なら、安心かな?
「そうだぞ、だから任せろよ」
さすが経験者だな。まるでプロフェッショナルのような安心感だ。そういうことなら、うん、大丈夫かな。でもそうなると壬生さんって…
…
…
…
…
…💓
ふぅ。
結論から言うと、凄かった。なにが凄いって、宗像さんって凄いんだなあ、って思った。百崎さんも凄かったが、宗像さんの凄さはもう別次元の凄さだった。
「あれ?」
すべてが終わった後、四条さんの方を見た。あれだけ大はしゃぎして見たがっていたのにやけに大人しいなあと思っていたら、椅子に座って気絶していた。相当刺激が強かったようだ。
それにしても、壬生さんの気持ちを知っていながら、流されるようにしてこんなことをするとは。確かにすごい気持ちよかった、それは認める。それは間違いない。しかし、いくら壬生さんの許可があるからといって、本当に良いのだろうか?でも気持ちよかったしなあ。ただなあ、なんだか罪悪感もあって素直に喜び難い。
できれば今回のことは壬生さんには内緒にした方が良いかもしれないね。僕の心の平穏のためにも…
ぴろん♪
おや、スマホに着信が…壬生さんからだった。
どくん。え、このタイミング?まるで監視されているかのようなタイミングの良さに心臓が跳ね上がった。
え、うそ、違うよね。たまたまだよね。たまたまこのタイミングで連絡が来た、それだけだよね!
僕はおそるおそるスマホを見る。
『私とどっちが気持ちよかった?』
やっべー。これ完全にバレてるじゃないか。でもなぜ?どういうこと?壬生さんは千里眼でも持ってるのだろうか?
「根東くん」
行為の後だからだろう、やけに煽情的に見える宗像さんが怪しい笑みを浮かべてスマホを僕に見せる。
宗像さんのスマホは通話中だった。
「来沙羅はぜーんぶ、聞いてたよ」
んなアホな!壬生さんから許可をもらってるって、そういう意味だったの!
「これでお相子だね、根東くん💓」
それはもしや、合宿の件なのだろうか?そういえばあの時、僕も盗聴してたね。
ふふ、と嗤う宗像さんは通話を切った。
どうしよう?もう壬生さんには全部バレている。僕が行為中にどんな発言をしたのかすらバレているのだろう。となると、壬生さんからのメッセージにはできるだけ早く返した方がいいよね。下手に遅れると、かえって勘ぐられる。
うん、やはりここは彼女をたてる意味でも、壬生さんが一番だよって返信するべきだよね。
僕がスマホで返信をしようとすると、ぴろんと追加で壬生さんからメッセージが来た。
『余計なこと考えないで。根東くんの正直な気持ちを知りたいの』
ええー、完全に見透かされてる。どうしよう?本当に正直で良いの?本当に?絶対怒るよね。
おそらくだが、ここで壬生さんの方が気持ちよかったよ、とメッセージを送ったところで、壬生さんはきっと激怒するだろう。なぜなら行為の最中の声が筒抜けだったからだ。
うん、無理だね。行為中の僕の声を全部聞いていたというのならば、無理だわ。弁明のしようがないよ。
仕方なしに、僕は壬生さんに『宗像さんが凄かったです』と正直に答えた。仕方ないよ、だってそれが正直な答えなんだもん。
やがて妙な沈黙が訪れる。やっべえ、この沈黙の時間、怖すぎるんだけど!
ぴろん♪メッセージが来る。
『わかった。根東くん、一週間後に会いましょう』
え、どういうことだろう?なんだか壬生さんがとんでもないことをしでかそうな気がして恐怖に全身が震えた。僕の寝取らレーダーがかつてないほどの警告音を発する。
なにか最悪なことを始めそうな気がする。それなのに、僕の心臓が早鐘をうって、全身の血液が沸騰する勢いで体内を駆け巡り、僕を興奮させていた。
「司💓」
「根東くん💓」
百崎さんと宗像さんが艶のある声で僕に寄りかかってくる。
「お前、本当にすごいな。好きだぞ💓」
「もう、凄すぎて尽くしてあげたくなっちゃう💓」
僕はそっと彼女たちの背中に手をまわして彼女たちを抱き寄せると、かつてない恐怖に立ち向かうべく、癒してもらった。
なんだかハメられた気分だが、彼女たちに対する恨みなどはまったくない。むしろ嬉しいぐらいだった。
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