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「それで、お前ら、俺たちのいないところでナニしてたんだ?」


 おしゃれな雰囲気のあるイタリアンのお店で、僕の奢りで食事をする壬生さんたち。…あれ?壬生さんも奢りなんだっけ?いや、彼女のお代を奢るのはまったく問題ないのだが、なんだかちょっとだけ違和感があった。


 すでに食事を終え、テーブルの上には空になった皿だけ。百崎さんと宗像さんが頼んだ料理がそれほど高額ではなかったのは、彼女たちなりの優しさなのかもしれない。


 …壬生さんは高額の料理を注文していたが。うん、大丈夫だよ。それも僕の奢りさ!


「偶然、四条さんと会って、ちょっと話してたよ」


「あん?あいつもいたの?なんで?」


「さあ?なにか買い物でもしてたんじゃない?」


「あらあら。それは本当に偶然ねえ。でもそれだと、根東くんは強引に来沙羅だけ連れ出して一体なにをしたかったのかしら?」


「え?あの、うん、まあ、正直いうと、やらなきゃ良かったって思ってるよ」


 本当はエレベーターで残りのキスを消化するつもりだったのだが、突然の闖入者によって阻まれ、結局目的は達成できなかった。


 ええ、そうですよ。なんの成果もありませんでしたよ!ちょっとキスの回数が増えただけさ。


「…司、お前、運ないな」


「そ、そんなことないよ!壬生さんって彼女がいるだけで毎日がハッピーデイだよ!」


「もう、根東くんったら。私もハッピーデイだよ」


 僕の隣で食事を済ませた壬生さんがにっこり笑顔を向けてくれる。壬生さん、君はなんて良い人なんだろう。食後のコーヒーも奢ろうか?


「ふーん、そんな益体のないことのために、私たちを置いてけぼりにしたの?なんだか意地悪したくなっちゃうね」


 宗像さんと百崎さんはテーブルを挟んで僕らの正面の席に二人並んで座っている。より正確に言うなら、僕の前の席に宗像さん、壬生さんの前に百崎さんという配置だ。


 だからだろう。微笑を浮かべつつも、どこか冷ややかな眼差しをする宗像さんがテーブルの上で手を組みつつ、同時に足を伸ばそうものならば、当然ながら僕の体に彼女の綺麗な足が当たることになる。


 宗像さん、それはまずいよ!隣に壬生さんがいるんですよ!


 彼女の柔らかな、そして綺麗な足が僕の爪先から膝、そして太腿へと徐々に這い上がってくる。


 確かに宗像さんと百崎さんとのキスは解禁になったのだが、だからって急にこんな悪戯をする?


「うん?どうしたの根東くん?」


 僕の異変に察知したのか、壬生さんが心配そうな顔をする。


「いや、大丈夫。ちょっとお腹いっぱいで苦しいだけ」


「そんなにたくさん食べたかしら?」


「その代わり、ん、水をたくさんんん、飲んだから…ん」


 すりすり。裸足の宗像さんの足が、僕の太腿の上に乗っかり、すりすりとその足をこすりつけてくる。


 ああ、まずい。いや、居心地は最高なのだ。宗像さんのスベスベとした足が僕のふとももを擦ることで、ズボン越しに彼女の足の感触が伝わってきて幸せな気分になれる。


 行為そのものはとても最高なのだ。だが場所とタイミングが悪い。こんな食事中に絶頂なんてキメたらただのヤベー奴だよ。


 宗像さんを見れば、にやにやと愉快そうな顔をする。柔らかそうな長いウェーブの黒髪をもつこのフェロモン系の美少女もまた、やはり壬生さんの友人なのだ。


 宗像さんという女性は、話してみると優しい女性だということがよくわかる。ただし、まったく無害というわけではない。みんなにバレないように、テーブルの下で僕を苦しめる。いや、気持ち良いには気持ち良いんだけどね!


「じゃあ、そろそろ次に行くか?」


 そんな僕のピンチにまるで気づく気配がないままに、百崎さんが言う。彼女の言葉に釣られて店を出る準備を始める。


 よし、これでようやく宗像さんの足攻撃から開放される。…しかし、なんの仕返しもせずに終わって良いのだろうか?


 いまだ宗像さんの綺麗な足は僕の太腿をすりすり擦って快感を与えてくる。


 ふむ。僕が触ってはいけないなんてルールもないし、別にいいか。


 僕は指を伸ばすと、彼女の足の裏をつつーと弄ってあげた。


「ひゃん!」


「おや、どうしたんですか、宗像さん」


「もう、意地悪なんだから」


 僕の仕返しは効果抜群だったのだろう。宗像さんは可愛い悲鳴をあげるとビクンと体を震わせ、上半身を反らせる。その時、彼女のたわわなおっぱいが見事な揺れ方をした。


 よっぽど効いたのか、宗像さんが恨めしそうな顔をして頬を膨らませる。もしかしたらやり過ぎたかな?ただ怒った顔も可愛かった。


 お店から出る時、僕は宗像さんにそっと近寄って、「ごめんね」と謝った。すると、「今度、仕返ししちゃうぞ」と返事を受けた。


 一体どんな仕返しをするのだろう?その言葉に背筋にぞくりと悪寒が走った。


「で、これからどうする?」


 お店から出た僕ら。しかしこれといって予定がなく、百崎さんがそんな疑問を口にする。


 別に遊んでもいいのだが、ただ僕には残り41回のキスをしなければならないという使命があるだけに、遊んでばかりもいられない。


 うーん、なにか良い方法ないのだろうか?


「ねぇ、せっかく水着を買ったわけだし…」


 そう言って提案をしてくるのは、宗像さんだった。


 あ、まずい。絶対なにか仕返し的なことをするつもりだ。それは彼女の悪戯っぽい目を見れば明白だった。


「ラブホで水着鑑賞会しようよ」


「うん、いいね。そうしよう。根東くんも良いよね」


 壬生さんが僕にサディスティックな眼差しを向けて僕に同意を促してくる。これは断っちゃダメな流れか?


「う、うん、わかった」


 時刻は13時。17時まで残り4時間というこの状況で、僕らはラブホの一室で一緒に水着鑑賞会をすることになってしまった。


 またラブホに来てしまった。ラブホってそんな高い頻度で何度も行く場所なのかな?なんか壬生さんと付き合うようになってからしょっちゅうラブホに行ってる気がするよね。


 そんなにたくんさんラブホに行ってるのに、壬生さんと一緒にラブホに行くのはこれが初めてだというのだから妙な話だよ。


 三人以上で利用できるラブホを検索したら、意外と近くにあったので、僕らはそのラブホを利用した。


 そこは青いライトが怪しく部屋を照らす、淫靡な雰囲気のある部屋だった。


「おい、ここの風呂、かなり広いぞ。あとで一緒に入るか」


「あら、いいわね。そうしましょう」


「じゃあ着替えようか」


 四人でラブホに来ているということもあってか、まるで女子会みたいなテンションではしゃぐ壬生さんと宗像さんと百崎さん。そんな彼女たちの様子に、ドキドキと心臓のテンションが上がってしょうがない。


 だ、大丈夫だよね。今日は水着の鑑賞会をするだけで、それ以上のことはしないよね!いや、それはそれで十分にエッチなことなのだが…


 いや、それ以上にどうやってここでキスをしたらいいんだ?


 ここのラブホは広いといっても隠れられるようなスペースはほとんどない。幸い、お風呂場にはちゃんとした壁があるので、マジックミラーで中の様子が丸わかりということもない。


 いっそ壬生さんだけ連れ出してラブホを脱出するか?いや、それもまずいか。だって壬生さん、水着だもん。こんな破廉恥な状態で外に連れ出したらそれこそ逮捕されるよ。


「根東くん」


「は、はい!」


「着替えるから、後ろ向いててね」


「はい!わかりました!」


「えー、私は別に見てもいいよ」


「俺も別に構わないぞ」


「私が構うんだよ」


「チッ、しょうがねえな」


「大丈夫です!ちゃんと壁だけを見てます!」


 僕は後ろを向き、壁を注目した。うん、白い壁だ。それ以外、なんの特徴もない。


 僕が壁を注目していると、後ろから服を脱ぐ衣擦れの音がする。パサリとなにかが落ちる音がして、彼女たちが裸になっていることが音だけでわかった。


「杏、お前、本当にデカいなあ」


「瑞樹だって大きいでしょ。それに形も綺麗だし。羨ましい」


「そうか?来沙羅も良い形してるよな」


「そう?触って確かめてみる?」


「お、挑発するか?いいぜ、乗ってやるよ」


「あん!もう、お返しよ!」


「うわ、馬鹿、そこ触るな!反則だぞ…うん💓」


 壬生さんは一体どこを触ったんだ?くぅ、凄く見たい。一体僕の背後でどんな天国が繰り広げられているんだ?


「根東くん、もういいよ」


 え、本当に!僕は後ろを振り返る。全裸の宗像さんがいたので、再び振り返って壁を見た。


「あらあら、根東くんに全部見られちゃったわ💓」


「ちょ、宗像さん!今のはずるいから!」


「杏、悪戯もほどほどにね。ほら根東くん、もういいよ」


「本当に?」


「本当よ。彼女のいうことを信じなさい」


「はい、わかりました」


 やっぱり信じられるのは彼女だけだ。僕は振り返る。そこにはベッドの上で水着姿になっている三人の美少女たちがいた。


 宗像さんは赤い水着、百崎さんは青い水着、そして壬生さんは黒い水着をそれぞれ着用していたのだが、みんながみんな、露出の高いビキニだった。


 宗像さんの大きなメロンみたいなおっぱいが今にもはみ出しそう。百崎さんと壬生さんの形の綺麗な美乳が、布面積の少ない水着のせいでその形がよくわかる。


「どうかな?根東くん?」


「おい、ちゃんとこっち見ろよ、司」


「根東くん、可愛いかな?」


 なんて凄い光景なのだろう。その圧倒的なエロさの前に視線が奪われる。


「あの、すごく可愛いです、はい」


「そう?もっと近くで見た方がいいんじゃないの?」


「え、あの!ちょっと待って!」


 壬生さんが僕の手を掴み、引っ張っていく。僕はその力に抗えず、ベッドの上に乗っかり、三人の美少女たちに囲まれた。


「根東くん、よーく見て」


 正面にいる壬生さんが僕の腰に手を置き、じっとこちらを見つめてくる。ただでさえモデルみたいな整った顔立ちの黒髪の美少女。そして僕の彼女。水着が黒いせいで、彼女の白くスベスベな肌がより一層、いやらしく見えてそそられるものがある。


「ダメだよ、根東くん。こっちも見て」


 右側にいる宗像さんが僕の顔を掴み、無理やり振り向かせてその素晴らしいボディを見せつけてくる。赤い水着が食い込むムチムチな宗像さんボディはとてもエロく、見応えがあった。


「おい、司、こっち見ろよ」


 百崎さんが僕の顔を奪い取るように掴んで左側に振り向かせ、その健康的な水着姿を見せつけてきた。しなやかでスレンダーな美少女の体が青い水着に包まれて、煽情的だ。


 前に壬生さん、右に宗像さん、左に百崎さんというこの布陣、まるでハーレムじゃないか。


「私が一番可愛いよね」

「私だよね」

「俺だよな」


 そう言いながら迫ってくる水着の美少女たち。だんだんと距離が詰められていき、ついには壬生さんが僕に抱きついてくる。


 それを皮切りに宗像さんと百崎さんも僕に抱き着いてくる。彼女たちの肌の感触が直接伝わってきて、甘く良い匂いがつんと鼻腔を刺激してきた。一人でも最高クラスの美少女。それが三人も一斉に押し寄せ、僕の理性が崩壊しそうだ。


「もう、ちゃんと見てよね」

「根東くんは誰で興奮してるの?」

「司、さっきの続き、するか?」


 ふぅ、と百崎さんが甘い吐息を耳にかけてくる。やばい、これは理性がやばい。彼女たちのおっぱいが僕の体に押し付けられて、なんだか幸せな感触に包まれていく。


 僕は彼女たちの色香に釣られてキスをしようとする。しかし途中でストップした。


 …この展開、まずくないか?


 確かに僕は壬生さんからキスの許可はもらった。だから百崎さんと宗像さんにキスをするのは、まあ世間的には憚られる行為かもしれないが、壬生さん的にはセーフということだろう。


 それは良いのだ。問題は壬生さんだ。二人にキスをしたら、雰囲気の流れ的に壬生さんにもキスをしないとおかしくなってしまう。


 …それ、僕の負けにならないか?


 この勝負の敗北条件は制限時間内にキス100回ができないこと、そして百崎さんもしくは宗像さんにキスをしたことがバレること、なのだ。


 …うん、アウトじゃねえか。そしてようやく気づく。


 これ、壬生さんの策略じゃねえか!


 まさか、全部計算に入れていたのか?こういう流れになることを予想して、壬生さんは行動をしていたのか?


 壬生さんがなんか妙なことを言い始めたのも、急に百崎さんと宗像さんへのキスを許可したのも、全部が全部、計算。そう、彼女が勝利するための演技だったということになる。


 それってつまり、壬生さんはガチでこの勝負に勝ちにきている、ということでもあるのか?


 前回の寝取り勝負が終わった時、壬生さんは負けたことに対してやけに真剣に受け止めていた。


 …え?もしかして壬生さんさあ、負けたこと、すごい根に持ってる?


 壬生さんは成績優秀で、スポーツも万能な才女だ。神に愛されてるとしか思えないほどの才能の持ち主でもある。


 そんな彼女は当然だが、負けたことなど滅多にないだろう。たとえ相手が男だろうと打ち負かす、そんな気迫と覚悟が彼女にはある。


 壬生さん、君が勝つということは、それは他の男に抱かれるということなのだよ?これ、そういう勝負なんだよ?わかってるのかな?


 たとえ他の男とエッチをすることになったとしても、それでも勝負に勝ちたいということなのだろうか?


「ねえ、根東くーん」

「続き、早くしようよ」

「おい司、焦らすなよ」


 三人の極上の美少女が迫ってくる。もう一刻の猶予もない。もしかしてこの三人、グルなんじゃねえの?って気さえする。


 どうしたらいい?この三人にキスしなければならないハーレム的な状況で、僕はどう行動するべきなのだ?


 もう時間はない。ラブホから逃げれば制限時間終了で壬生さんの勝ちは確定し、そして最愛の彼女が寝取られる。


 かといって三人同時にキスなんてしたら壬生さんの勝利が確定してやっぱり寝取られる。


 僕は、確かに寝取られに興奮する変態だ。でも、興奮するからといってやって良いことと悪いことの見極めができないわけではない。


 …ダメだよ、そんなの。たとえ壬生さんが寝取られた方が僕的には嬉しいとしても、そんなのは絶対にダメだ。


 このラブホに隠れる場所なんてどこにもない。百崎さんと宗像さんにバレずにキスするなんてどう考えても不可能だ。


 …え、詰んでね?これさあ、もう詰んでねーか?


 僕は壬生さんという女性を甘くみていたのかもしれない。この人は、やると言ったら、やる。それもきっちり計画を立て、確実に目標が実現されるように行動する、そういう人だった。


 壬生さん、君は寝取られることよりも、勝負に勝つことの方が大事だ、とでも思っているのかい?


 熱っぽい眼差しを浮かべる宗像さんと百崎さんとは対照的に、正面にいる黒い水着の壬生さんの目は、あの魔女みたいなドSの目だった。


 嘲笑を浮かべる彼女は、どうやら本気でこの勝負に勝つつもりのようだった。


 黒い水着を身に着ける黒髪の美少女は、ぱくぱくと口を動かして僕を狙っている。彼女は、たとえ寝取られたとしても、友人に彼氏とキスしている姿を見せつけたいようだ。

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