36最終話 3年後……
相崎がひとりごちる。
「本日の札幌も別段の異常なし。平常運転と」
そんなリーダーの態度に、サブチーフのエリカが不満を述べたまうた。
「アラートが鳴りっぱなしじゃないの。どこをどうみて異常なしよ」
「いつものことだろう。全域が
あの日。ガーディウスが
拡散したタマゴは、なぜか北方面。現地に急行中の
戦術ディスプレイの数センチ上には隊員たちの3Dアイコンが並ぶ。善行は、指をくるくる回しながら、呼びかけた。
「
アイコンがスライド、中央の
『こちら臨時のバイト職員。石山にいます。
「カツか。
『問題ありません。そう
女性の「誰がさーちゃんよ」と声がして、右から出た足がKATUを蹴った。
「
利益を生み出すフリートには潤沢な予算が組まれている。後付けの決済も大幅に認めらてはいるが、隊員による車両破壊がなんども承認されるはずもない。つい先月も大破したばかりなのだ。
「なんとかするさ平蔵が。キミの心配は紙のほうだろ」
「いよいよ入手が難しいのよ。A4用紙一枚が20年前のタバコより高いって。ホーマックで298円で買えた時代に戻りたい」
「何歳のころだ。社名もとっくに違ってる」
「はあ。とっとと北海道を離れておくべきだったわ」
「俺を選んだエリカが悪い」
「ふふ。そうね。図に乗らせてあげるわ」
フリートのコンテナが東京への移送を撤回されて、3年の月日が流れた。2棟のコンテナ事務所は5棟に拡張された、数か月後には、新造ビルへと本部は移った。いまや仮本部でも支部でもない。ここが
装備も一新される。バックヤードの手で改良に改良を重ね、人体に影響およばさず害悪だけを狩り獲る、対
組織の改編。人員も新たに加わった。
「モーニン相崎! 朝からアツいねっ」
「なにがモーニンだチャーリー。高給取りのヒーローさまは、重役出勤のクセが抜けないんですかね」
「言うな若造。老体に朝はキツイんだぜ」
「老体ていえる歳かよ」
陽気な男は、米国から派遣された監察官だ。この地に残された
「それで、ぼくのヒーローちゃんは?」
「ああ……巨大いるか?」
『……』
返事がない。ビューに映ってるのは、夜店で売ってるガーディウスのお面だ。車載カメラの前にぶらさがってるのだ。
「出現さきは盤渓なんだがな。だれか――つーか、応答しろ巨大! 南区で油売ってるのはナビでバレバレなんだぞ」
お面の隣りの画面で若い男が謝った。者星ハヤトだ。
『申し訳ありませんチーフ。あいつ焼き窯職人に会いに行ってます。渋いイケメンがいるとかなんとか』
「者星。手綱をしっかり握っておけよ。お前の女だろうが」
『その件に関しては、ぼくも多少なり後悔しているわけでして』
エリカが深く、赤べこみたいにうなずいた。横目でみる相崎の顔が渋い。
「同感するわ。東京へ戻ろうと考えたりしてない。行こうか? 私と一緒に」
『それはごめんなさい』
すかさず断る者星に、相崎の顔が複雑なものに代わる。
南区の北ノ沢トンネルの果て、盤渓窯という焼き物工房にいた。強引な巨大に引っ張られて、者星もそこにいた。
側には上質なコーヒーやランチが楽しめるキッチンカーもいて、辺鄙な場所のわりに賑わっていた。
「せんぱーい! 嘘でしたっスよ嘘。イケメンなんて真赤な偽造ビザ。ウェブにあった写真を信じた自分がバカでした。あたし、先輩一筋ですから。うヴ……」
勢いよく戻ってきた巨大の口に、者星はソフトクリームを突っ込む。
「それでも食べていろ。わかるだろうが抹茶ではない」
「ふぐぐ、女性の口に物を入れる。んま。そんなプレイをお望みとはつゆ知らず。ぐが」
者星はあごを押さえ、彼女の咀嚼を手伝ってやった。冷たい頭が頭痛すると騒ぎながら、ようやく食べ終わる。ちなみに者星は、巨大が来る前に美味しくいただいてる。
「この近くに
「
それが、
孵化した生命体は小さくその数こそ知れないが、ほとんど食べ物のない状態で、孤独にひっそり成長。大きくなって姿を現したヤツを
手あたり次第に融かして食べる
8メートル射程の火魔法を使う
とにかくあたりかまわずぶつかりまくる
「
肩を落とした巨大がシートに座りなおす
「……嫌いなんスよねあれ。ぶつかってくるし」
巨大や者星は意外に手こずり、巨大化しないと倒せないこともあった。七光は、変身するのが好きではない。者星は、ポジティブな提案をする。
「燃鉱物の
「そうっすね」
隊員の育成には時間がかかる。だが、
「
「……うん」
「まったく。超のつく金持ちなのに。資金の融通を嫌うとはな」
「個人と会社は別なんです。それにあそこは育った家。自分の力で取り戻したい」
「それなら行くしかないよな。
「レッツゴーっすよ。”あんぶれら”に先を越されるまえに」
者星がアクセルを踏む。ピックアップトラックは緩やかに走りはじめた。
空は雲ひとつなく青かった。隕石が落ちてくる兆候は、もうない。
おわり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます