32 5億歳
「みんな聞いたぁ? あたしの星ですって。いうわよねー」
舞台女優のようなおおげさな身ぶりで、美しい生物がまぜっかえす。
「毎度あなたの親が嫌がらせしてくれてたようだけどね。コロニーとして目をつけたのは、私たちのご先祖が先ですからね。つまりそっちが侵略者。立場をわきまえてほしいわ」
それに巨大は答えない。
「たくさんの星を滅ばしてきたんだろう。命を根絶やしにする繁殖は無機質な星で勝手にやればいい。この星に迷惑をかけるな!」
巨大の右腕に光がまとった。殴りかかる恫喝だ。
壁では、成り行きをみまもる原住民たちが、緊張感なくつぶやき合う。
「倭沢さ。お前んとこの補佐とうちの新人、なにを言い争ってるかわかるか?」
「なんできく? お前こそすべてを知ってる風なのに」
「ふりだよふり。俺にそんな才能はない」
「ふり……はぁ、昔からそうだったな。夏休みに何かしようってクラスを盛り上げるだけ盛り上げて、肝心のなにかは俺に丸投げ。仮説の域をでないが、分からないこともない」
「聞かせろ」
倭沢が持論を語りだす。射妻らフリートたちも耳を傾けた。
「知ってのとおり俺は、
射妻が大きくうなづいた。
「最初それが者星だと思い。次に大きくなった巨大と決めつけたのは知ってのとおりだ。話はとぶが、16年前のソルトレイクでは、正体不明の人影が確認された。が、事後の調査では発見に至らなかったため、ガレキの陰が人に見えたのだと結論づけられた」
「SNSにデマとか憶測が飛び交ってたな。子供の俺はワクワクしてマンガ描いてたわ」
これは卯川だ。
「強引だが、ナナだと仮定すれば、彼女が“着弾監察員”になるな。地球の小さな
「飛躍しすぎだと思うが。まあわかった。それで肝心のコロニーというのは」
相崎が、話の軌道を修正する。
「
「ツルが、アムール川やウスリー川流域で繁殖するようにか」
「秋田の鴈がペクルニイ湖で子供を産むようにだ」
「張りあう、なっ」
「ヒジは、くわんッ」
相崎が脇腹を小突いて倭沢がブロックするじゃれ合い。伊妻には、ふたりの子供がはしゃぐ姿が、みえるようだった。
「いまささだけど本当に仲が宜しいのですね」
倭沢と相崎は「腐れ縁だ」と同時に否定。伊妻は笑うしかなかった。
「ゴホン。ナナの星の仲間がはるばる地球までやってくるのは、個体を増やすためということだ」
「子供が生まれのは目出度い。祝福すべきだろうが、巨大の親がなぜ邪魔をした」
「繁殖のせいで地球の生命が危機に瀕した、という言い分らしいが。どうかな」
「どうかな、とは」
「本当に定期的にやってきてるなら、なにか記録があってしかるべきだが、なにもない。そもそも、
「繁殖そのものが成り立たない? じゃ二人は何を言い争ってるんだ?」
「それが分からない」
「結局わらないのか。ふり出しにもどったな」
外野による堂々巡り。的はずれな推論。
「そこっ。矮小な地球の基準で私たちを極めつないでほしいわね」
「5回、絶滅してるらしいっスよ」
「地質学的に証明されてるのが5回。母親が喰いとめに走ったけどダメでした。でも今度は、前とは状況が違う。人間という知性をもった生物に動いてもらったんです」
「ちょっとまって」
話に割って入ったのは者星ハヤタ。
「みなさん、基本的なこと抜けてないですか。絶滅って地球史の話ですよ」
「いまさらですよ先輩。そういう話をしてるんですから」
「ですからって。巨大の母親の年齢はいくつなんだ。ありえない高齢だぞ」
「それは……」
「ざっと5億歳かしら。もちろん地球年齢で。そうよね娘さん」
「ご、5億!? 恐竜が生まれるずっと昔じゃないか」
「……地球に到着してからがそれくらいかと。正確な歳は本人も分からないくらい。たまたま、ブックオフでみつけた地球史の本知ったって笑ってたし」
「なんてことだ。じゃ君も」
「あたしは正真正銘の19歳です。遺伝子とかなりの遺産と記憶は受け継いだだけの」
「そうか。わかった」
ほっとして壁にもたれかかった者星。相崎と卯川はそれを、ニマニマと見守った。
「でも、いまなら母が16年前に打った先手が理解できます」
倭沢があごを触りながら聞いた。
「巨大。君は親が人間を動かしたといったな。なにを理解したのか教えてくれないか」
「はい。なぜかカカシとよばれてる世界の首脳におくったレポートです」
「あれはやられたわ。介入できる立場になる前に、ビジネスができあがってたんだから」
心の底から無念そうであるが、倭沢はまだ納得してない。
「わからんな。記してあるのは活用法だ。異星人退治法など書かれてないぞ」
「母は、繁殖の3種類を分断させたんです。鉱物、小生物、危険生物として」
「繁殖の3種類?」
「人間にとって利用価値の高い鉱物や宝飾向きの宝石が
「ビジネスか。たしかに新種エネルギーの登場で国や経済界は沸き立った。宝石はコレクターの間で高い評価を得てる。人の言うことを聞き固有能力をもつ
「最後に残った危険生物は害をなす敵として始末。その3点の対応法があのレポートです。3つがそろうと、人間でいう性行為におよびます。繁殖の過程で惑星生物に悪影響を及ぼすんです。そうなったら手をつけられません」
「せ、生殖行為っ?」
射妻が顔を赤らめ跳びあがる。
「ひっでぇな。石と小動物と怪物がやりまくる。斬新すぎて薄い本にもならんぞ」
卯川は口元を引きつらせ、スマホに音メモ。
「虚構だ。非科学的すぎる。愚かすぎて話にならん」
「そうとも言い切れないんじゃないか倭沢。俺たちは地球以外の星を何もしらない」
「男と女なんて単純なふたつ性じゃなくて、私たちの性は3つ。男(精子)に相対する危険生物、女(卵子)に相対する鉱物。そして、子宮・胎盤に相当する小生物。地球生物の常識を当てはめようなんて、おこがましいにもほどがるわ」
「母は、人間の習性を利用して3つを分断させた。繁殖システムの弱点を突いたんです」
「それが本当ならすごい。世界の終わりを紙切れで守ったってわけだ」
「聞いたみんな! 紙の勝利だわ!」
テンションが急上昇の射妻。巨大が水を差す。
「そこは電子メールでも送ってます」
「いま言わないでほしかった」
「すみません。でも世界のあらゆるトップに送ったそうです。首脳、富豪、国王、代表、テロのリーダー。科学者は外しました」
「科学者を外したのはどうしてだ」
「さあ」
「即時性が落ちるからだろうな。研究優先じゃ時間がかかる。知恵の回る人だ」
ドアの壊れたプレハブ部屋で最古の神話にさえない事実が明かされる。原住民たちは、巨大・
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