31 雁刃先
倭沢の撃ったレーザーは、巨大の胸を直撃した――ように見えたが、わずかにKATUの動きが勝った。巨大をかばい、以前、
「ばっ……」
威力は減失した。だが跳ね返った熱線は、倭沢の袖に黒い孔をあけ、後ろにいた
一瞬のこと。何がおこったか理解がおいつかない。曲芸的な反射をみせたKATUも、驚いてる。
「班長補佐!」
倒れそうな
「どうすれば」
「これを使え。少しはマシだ」
恵桐が、常用のサバイバルキッドから応急包帯を取り出して渡した。受け取った射妻は、腹をぐるぐる巻きに押さえたが、白い包帯は赤く染まっていくばかり。
「救急車だ! 頼む! 急いでを呼んでくれ!」
壊れたドアを蹴破った川が、二階外から下で警備する警官に怒鳴った。倭沢が遅れながらも事態に気づく。
「
ふり返りながら銃の狙いはKATUへとシフトした。無戸籍をのぞけばどこにでもいそうな少年を脅威と認識したのだ。
「焦ったな倭沢。すこしでも彼に注意しておけば防げたかもしれない」
「コイツに、気づいてたのか!」
「巨大になった巨大(ぶぶ)の速さにくっついてきたんだ。タダ者のわけがないだろ」
「言えよ、お前は!」
レーザーの跳弾による被害は、事故ともいえるし故意の傷害ともいえる。通常は警察が調べ、裁判で確定される案件だが、コトは平時常識がおよばない域にあった。倭沢の罪を問うなら、傷害致死ならぬ殺害未遂致傷害罪か。
ギリリと歯ぎしりした倭沢。銃を握る手が小刻みにふるえる。自らの落ち度と、事態を俯瞰する相崎の態度に、腹が立った。
・ 対人外生物異物特別法 6条
その他。危険生物の捕獲。攻撃および
ちなみに1条は、
「補佐! 救急車がくるまでじっとしてください!」
「平気よぉ。これくらい、かすり傷。救急車もいらないわよ」
「重症なのに、なんで動けるんです」
「ありがとう。君の腕の中にいたいけど、それは、こ・ん・ど・ね」
者星が床に寝かせようとするが、
「ナナ! 大丈夫なのか」
「へいきへいきの平蔵ちゃーん、なんてね」
「補、佐……?」
「
しゅるると、甘い香りの煙があがる。床にこぼれるほどだった血が止まると、
「信じられない……いや、”隠す意味がない”は、こういうことか」
相崎は立ち上がり、場所をあけるように壁に移動した。
「はーい。ここからは、私たちの話。現地人はひっこんどいて」
「な、な……?」
「平蔵ちゃんもよぉ」
「だが」
「ひっこんどいて、ねっ」
どんっ。
軽く踏みしめただけなのに、床に穴ができた。傷は完全に消えていた。
「わかった」
倭沢はひきさがり相崎の横に並んだ。囲んでいた3人も壁にさがる。救急車をキャンセルだな、と卯川がつぶやいた。
「やってくれたわね。私、回復は得意じゃないのよ」
「ふ化総力だ!」
「不可抗力!」
巨大は、立ちあがろうとするKATUの肩を座らせた。
「それ。ウソっすよね」
「うっそよーん」
「ひかり、こいつ」
「座っていて」
威圧する性別不明のナイスボディ。巨大は小首をかしげて微笑む。三つ編みが揺れた。
「こうして話すのは始めてかもです。いまさらはじめましてもないっスけど」
「いつ、気づいたのかしら」
「ソルトレイクの時に。親が教えてくれました。その時はなんのことかわからなかったけど。こんな時がくるなんて。手がふるえがとまりません、ってやつっス」
「親? あーっカカシレポート! あれってあなたの親の仕業だったのね。未来を担ってくれる子供たちの誕生をはばむのって、無粋にもほどがあるわ。おかげで、ふ化は大失敗。あなたが子供だというなら、責任とってほしいわ」
壁の花AとBが、もとい。相崎と射妻が外野でつぶやく。
「ソルトレイク、カカシレポート。エリカ。なんの話をしてると思う?」
「さあ。どちらも
壁に巨大が返答した。
「話しますよ。昔話の続きだし。でもその録音アプリは停めてほしいっす」
「ダメか? ビデオも撮りたいくらいなんだが」
「世界が混乱して収拾がつかなくなりますよ。急速な拡散はナシって約束できるならかまわないっスが」
「私は拡散大歓迎。この子みたいなケチくさいこと言わない。む・し・ろ 混乱させてあげたいわ♪ 平川だっけか。あの面白いレポーターを呼んでね」
しゅどっ!
巨大が拳をふるった。恵桐が停めようとしたが遠く、拳は
「あらららららー。手が早い子ね。暴力はいけないって親に教わらなかった?」
体重をのせた拳を
巨大の息が荒い。つかまれた拳をひきぬくと、椅子を蹴り倒して距離をとった。一緒にひっくりかえったKATUは、後ろ周りにくるんと立った。
敵意をむき出して巨大は吠えた。
「出ていけ。いますぐ地球から出ていけ! 繁殖したいなら生物のいない別の星でやれ! あたしの星からいなくなれ!」
いつものふざけた調子はない。噛みつかんばかりの形相は、熊から仔を守る親狐のようだった。
「ひかり……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます