24-1 家庭環境
者星ハヤタがいるのは北区周辺。”半ゴ虫”と手足4本づつの爬虫類
破壊すさまじいかった町は、復興の喧騒に満ちていた。亀裂だらけの斜めに建っている鉄筋ビルが、数棟、ホコリ防止の水をかけられながら、ユンボやブレーカーで解体されていく。一時の落胆を乗り越えた住民の、再出発の強い息吹があった。
「チーフたちは昼から打ち上げしてるけど、僕はそんな気になれない」
ゆっくりと車を走らせる。フリートの車と気づいた子が、ありがとうと手をふる。がんばれよと者星は手をふりかえしたが、胸がズキリと痛んだ。何にガンバレというんだ。
商業と住宅が入り混じった町は、無事だった小学校を拠点として、少なくないボランティアが活動していた。汗にまみれ、ガレキを片付けていく彼ら彼女らの献身ぶりに、者星は、元気を分けてもらえた気がした。一緒に汗を流して片づけたい。休日でもあれば参加するのだが、フリートは
悔やまれることだらけだが。文句を言っても始まらない。
「バックヤードや北大研究チームが拾い集めて、何も残ってないだろうけど」
ここにきたのは再確認だ。
目立つピックアップ車を学校に停める。眼鏡型の拡大鏡をかける。怪しい物体が落ちていないか、前かがみでゆっくり隈なく探していく。カブトムシの甲羅に似た、黒い異物を発見。
「ここにいたか! 探したぞ」
放射能汚染の心配はないので専用容器ではなく、丈夫な透明袋に入れる。
「ままーあのおじさんへんだよ」
「しっ、目を合わせるんじゃありません」
変なおじさん扱いにも慣れてしまった。巨大が、イケメン探しに行きたがるのは、たいてい、この仕事の最中だ。
「うむ。きちんと不審者を気にかけるとは、将来有望だ子だな。ん? 怪しいヤツ」
ボランティアの中に、場違いな男をみつける。いかにもな目つきの悪い男がはいりこんでいる。者星のことではない。
「ガレキを片付けて恩を着せ、金でもせしめるつもりか」
者星はいぶかったが、それにしては空気が自然で和やかだ。せしめるどころか、文句を言われてる。
「運ぶのはオレがする。かえって邪魔。そこで休んどいて」
壊れたテーブルの足をもちながら、重い疲れた、と根をあげる男。それを整った顔立ちの男の子が、ぞんざいな言い草だが、休ませようとしていた。
髪が特徴的な黒っぽいグレイの中学生くらいの子。
日が高い。時間は午後になったばかりだ。
「キミ。近所の子か」
近くの学校は、市の指定でボランティア拠点に利用されてるが、同じく市のお達しで、授業は再開されていた。中学生がぶらついている時間ではない。
「ああん? フリートがまだうろつきやがってんのか」
チンピラのほうが、不信感むき出しで答える。
市民感情が悪いことは承知してる。ネットでも、死傷者がでるのは
「事後監察みたいなものです。それでその子は」
「じごかんこう? 観光? そんなに
チンピラの聞き違いを、者星は軽くスルーする。
「聞きたいのはその子のことです。あなたは、この子の父親ですか」
「はぁ? どこをみてそう思ったあ?」
「仲がよさそうだったし年齢も釣り合います。違うんですか」
「俺はこいつのオヤジじゃねぇ」
そこで子供が無表情に口をひらいた。
「世間もそうみてるんだよオヤジ」
子供は、痩せた男よりさらにガリガリ。発育旺盛な年齢なのに、満足な食事を与えられてない。他人にうとい者星でもわかった。
「るせぇカツ。俺はてめぇのオヤジじゃねぇ」
ガラの悪い男に絡まれる公務員。はた目にはそう映るはずだが、大人たちや、ボランティア人たちは、テキパキと動いている。何人か、女性が暖かい目を投げていった。男はこの辺では知られており「オヤジじゃねぇ」は定番のやり取りらしい。
「埒があかないな。学校の時間だろうって、僕は言ってるんだけど」
「学校? ほらオヤジ。みんな学校へ行くんだよ」
「あそこはな、仕事を満足に覚えられねぇ頭が悪いか、イジメたりイジメられたりが好きなヤツがいくとこだ。な?」
「……さぼりかと思っていたんですが。通学させていないんですね」
「フリートにや関係ねぇだろ。いらん事ふきこむな」
「お名前をうかがっても?」
「んなこと聞いてどうすんだ」
「児童相談所に通報します。管轄外ですが見過ごすわけにもいきませんので」
「じじ、児童相談? てめー、人ん家の家庭にクチだすな」
そのチンピラが殴りかかってきた、者星は実体のない空気のように、ふわりとかわした。目の前にいた相手が突然消えたようになり、男は足をもつらせ、くるんと転んだ。
「っテぇな。どこ行きやがった……そこか! 消えたり出たり、クソお化けの親戚かよ」
痛めたらしい腕をさすりながら立ちあがり、懲りずに、もう一回、なぐろうと腕を振りかざす。者星が強いとわかり慎重になる。ゴラッ、こいやッ と威嚇しつつ、者星の出方をうかがい、拳をふる。
隙をつこうとしてようだが無駄である。者星は、柔道と剣道の有段者。逮捕術は講師もしていた。少々、ケンカが強くても敵うものではない。者星は欠伸をかみころした。
「いったいぼくは、素人相手になにをしてるんだろう」
「どこが素人ってんだ。みてやがれ、殺人拳をみまったる」
そんなことが数分。
あたりにちらほら野次馬ができはじめころ、さきほどの女性が月島の頭を、塩ビパイプの破片でこつんと叩いた。
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