35 巨大、破れる
遠くふり飛ばされたガーディウスは、刺さった瓦礫を引き抜いて、光で回復する。シンプルとなった思考。敵の形状から戦いかたを模索する。
リーチがケタ違いだ。
ひとまず分かったのは敵が鈍重ということ。長く自在な舌が補うようだが、後ろに回り込んで傷を与えづつければ、勝機をみいだせそう。たいていの生物は背後が盲点だし、それくらいしか思いつかない。
マンションの陰に隠れ、次の陰へと素早く移動。
「甘いわよん♪」
突如の炎塊。宙をいくガーディウスの勢いが停まる。熱にゆらいだ空にあるのは大きく嗤う魔法少女。発生した下降気流によって地面に堕とされると、痛みにもがいてる間もなく、列を成して大岩が落下ししてきた。
『おお…… 敵の連続攻撃。魔法少女が炎を岩頭が岩を吐きだした。ガーディウスは、大量の石につぶされて、山の下に埋もれてしまった!』
細い気道から平川のアナウンスが通ってくる。どこかのテレビかラジオのボリュームがMAXなのだろう。
初動をまちがえた……。
『絶望的かガーディウス? いや敵は長い舌で待ち受けてる。反撃の警戒してるということは致命傷には至ってないと読んでるのか。私たちも希望を持ちましょう。えー少々お待ちください』
『避難勧告がだされた千歳から、記者の一報がはいりました。3つの
詳細は不明ですが、先例のない事態なのでいっそうの警戒が必要であると告げております。第一航空団もいますが、いかんせん、対地向きはなりません。7旅団の戦車連隊が出動してます。先ほど出撃したフリートの到着が待たれます――ガーディウスに目を移しましょう。あ、山が沈没。訂正。陥没していって……爆発した!』
岩の山が爆発したかのように四方へと弾け跳んだ。散弾の粒というは大きすぎるが、岩のパーツが、粉々になりながら拡散する。源がほぼ足元である
「いッ目が、めがあが、ああああぁぁぁ……」
下方を向いた魔法少女を眼を直撃すると後部を貫いた。醜悪な少女づらは苦痛にあえぐ。ぶらんと延びた手で頭を押さえ、しばらくの間、痛みと戦いはいしたが沈黙となった。煙の回復は役にたたなかった。頭は役目を終えた松ぼっくりのようにカサカサに腐って、ごとん、砂地に落下した。
「巨大ちゃん。やってくれたわね」
『新しい頭です! まるで絵本にありそうな悪魔の顔が現れました! 敵の頭部はいくつあるのでしょうか』
「ぬははは。吾輩の出番じゃな」
窪みからはいだしたガーディウスは見上げる。稲妻が発生、数メートルズレはしたが、次の稲妻が落ちてくる。
「そーれ、そーれ、降るぞ降るぞー。逃げろや逃げろ、黒こげじゃぞー ぬはははは」
前、後ろ、右に左と。ステップでかわしはするが、避けた先をめがけ、稲妻がはしる。直撃を被ってないのは偶然にすぎない。当たらなくても、びりびりと、余波でシビレがやってくる。
「どうした当たるぞー。当たれば死ぬぞー。逃げろや逃げろー。ほーれほれっ」
微妙にずれて落ちる稲妻。正確ではないぶん予想しづらい。しかも、本体からの蹴り攻撃と鞭のよう舌が唸る。深海魚の口からだららーと流れ出る水が、シビレ範囲を拡張する。
動きがぎこちなくなると、稲妻が右のくるぶしを直撃。膝から焼かれて下が黒焦げとなった。
……ッ。
『ガーディウス、とうとうつかまりました! 見ていられません』
たまらずその場に倒れるガーディウス。ごつごつした足が、容赦なく踏みこんでくる。たった10メートル身体よりずっと大きな足。それが踏んだ。何度も何度も。
「ひ、ひかりっ!」
這うことも頭をうごかすことさえできず、黒い足の裏と地面とのスキマに、人のいなくなった入口がぼんやり見える。手前で叫ぶKATUだけが、妙に鮮明だった。
こっち来ないでよカツ君。
「ひかりを踏むな! このお」
走るKATUの両腕が小型バス並みに大きくなった。横にふりかぶって
アレを。こんなときに買った。
ガーディウスは、いつもの擬態ではない新しいクリプチを使う。表面を透明するものだ。素早く薄く広がるとクラゲのように包み込んだ。姿を見えなくしてこの場を離れる、はずだったが。身体が動かなかった。
光回復を施しているが矢継ぎ早の攻撃に追いついてない。身体をずらす程度すらも。
「あなた、使いどきを間違えてるわよ」
ぐは……。
居場所のわかる透明に意味はない。念入りに踏まれたガーディウスの内臓が潰れた。
「くっそ。はなせ」
KATUも舌に巻き取られた。自身を数倍大きな腕だ。コントロールが不完全どころか降り回された。あげくに俊敏さもなくなり、デカいイモムシとなり下がっていた。それを埋め込むように地面に叩き込むと、水だらけにして落雷を浴びせる。
「巨大ちゃんに可愛い手下ちゃん。がんばったけど終わり。ストレッチくらいに役だったわ。じゃあ私あの子たちに合流しなきゃいけないからいくわ。そこで大人しく見ててね。人間世界の終末を。さ・よ・な・ら」
ドッシン ドッシン ドッシン
『超巨大
ドッシン ドッシン ……
「お嬢。しこたまやられてしまいましたな。ぷぷ」
巨大家に仕える執事がいた。メイドに持たせたトレイにはティーセット。カップにポットのお茶を注ぎ、優雅に口へと運ぶ。暢気な空気が、殺伐なゾーンを四阿と錯覚させる。
「して。いかがされます?」
巨大は、幼少のころ母親から繰り返し聞かされた物語を思い出していた。ぶら下がった4つの首。長い舌。バカみたいなデカい体躯。首を落としてたとしても別のが成り代わる。巨大に匹敵する異常な回復力。想定したパワーと異能のひとつひとつが自分を上回る。あらゆることに力がおよばない。折れかかった首でわずかにうなずいた。
「承知しいたしました。カツ殿にあれを」
すべてが言ったとおりだ。
母は正しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます