21 28日目
数日後。仮本部のコンテナ。持っているのは、キンキンに冷えた地元限定の缶ピール。相崎善行は、これ以上ない笑顔を爆発させていた。
「忙しいなか集まってもらったのはほかでもない。札幌市豊平区のここに
16年前、米国フェニックス市にが発生してからこれまで、500を越える
「当仮事務所も、33日をもって引き上げる。コンテナを東京まで運ぶにあたって、処分できるものは処分する。せっかくの北海道で観光ひとつできなかったのは名残惜しいが。せめてもの慰安タイムを楽しんでくれ。カンパーイ!」
緩みきった赤い顔。ぷしゅっとひいたプル。相当量のビールが缶からふきこぼれた。
「ふりまわすな! かかったじゃねーかよ!」
中に残った半分をあまりをひといきで飲み干す。
「ぷっは~ がははははっ」
ツマミはムシって口に放り込む。”鮭とば”だ。北海道にきてハマっからは毎日のように食べてる相崎のマイブームだ。卯川が、繰り返し使えるペーパータオルで服にかかったビールをふきとる。
「あと何回乾杯すりゃ気がすむんだ。12回目だぜ」
机上のPCやらモニターやらの機器は片付けられてる。うたげ開始の時点では、食べきれないほどの中華とフレンチのオードブル、飲みきれないくらいのビール、ワイン、日本酒などがたっぷりあった。会議と称した祝賀会も60分を経過。にわか宴もたけなわである。つまみは、巨大が手配した地元の干物類のみとなった。
「俺の自腹だ、乾杯に制限はない! いろいろあったが、ひとりも欠けずに終わった。こんな目出度いことはない。飲めぇ!歌えぇぇ!! 自腹バンザイーー 者星いねーが、いねぇヤツは知らん」
「遅いけどよ。
いて然るべき人間が三人も不在。打ち上げの体をなしてないが、相崎は気にしてない。
「すっかり出来上がったチーフの完成だ」
「ねぎらうってんなら、居酒屋でいいから店に連れていけってんだ」
握りつぶしたアルミ缶を箱に押し込む。次のビールを開けると、またまた乾杯と腕を上に掲げて中身をこぼす。こんどはその腕を、サブチーフへほうへ降ろしていった。
「東京へもどったらいくらでも連れてってやる。そんなわけでサブ。詳細よろしく」
唐突に指名された射妻エリカが、いきなり? という目でにらみ返す。
男どもをシカトし、巨大と、東京に戻ったタイミングで隊員となる新人ちゃんと3人で、アツい論議をかわしていたのだ。
「なにが“そんなわけ”よ」
「サブチーサブチー。1番テーブルご指名っスよー」
「テーブル拒否したいけど、仕方ないわね」
ちなみ論議テーマは”最近の男どもは見る目がない件”。上司の水入りで、楽しい楽しい雑談は終わった。あからさまに不機嫌だ。
「酔ってんなぁサブ」
「誰がよ、ひっく。こんなんで誰が酔うか、眼鏡デブ!」
「眼鏡デブ……オヤジにも言われたことないのに」
ちゃちゃをいれた卯川も撃沈された。
ワイングラスをそっと置いて、無駄のない動きでスッと立ち上がる射妻エリカ。CAにも負けないキレイなそろい足で、どこからかファイルを取り出す。女教師のようにページをめくる姿がサマになる。
「……コホン。2つあるコンテナのうちひとつは、移動事務として設計されてるので、基本的な、机、椅子、書棚は固定して運べます。PCや精密機器、用紙などは別移送。後から購入した応接セットは、ニトリの汎用品なので、リサイクル業者に引き取ってもらう手筈となってます。もう一台の武器管理コンテナは、そのままでも移動できます。ただし火器はすべて固定。火薬類はより厳重に取り扱うためと在庫紛失の予防を兼ね、ロックの際は全員がそろって……なんでしょう」
「ほーい委員長」
赤顔したチーフが、話しの腰を折った。
「なんですか。質問は話が終わってからにしてください」
「用紙は処分するからなー。移送費を増やすわけにいかない。たかが紙ごときに」
新人ちゃんをのぞいて、さーっと、全員の酔いが覚めた。巨大などは、あっちゃーという顔で帰宅の準備をはじめだす。卯川と恵桐が、敵前逃亡は重罪だといって、左右から腕をとった。
「た・か・が・紙? いま、たかがとおっしゃいましたか。チーフ?」
「言った。あと9箱も残ってる。
「むだ資材!? それを売る? 紙の偉大さをおしえてあげなくていけませんね! 人類がいかにして多くの記録を安く残そうと苦心してきたか。その起源は……」
どん。27歳のクールビューティが机に足をかけた。スカートがめくりあがるが、卯川と恵桐の男たちは、急いで椅子を回転させて背中向けとなる。世の中には、見えてはいけないものがあるのだ。
「サブチーエリカが
「チーフもいいかげん、紙代を諦めればいいのに。本部でもやってたよな」
鼓膜を震わす最低のデシベルで巨大がささやく。
「わざとっすよ。わかっててやってんスから。犬も食わないヤツです」
「……そうなのか。あの二人できてたのか」
釣られて声を潜めた恵桐万丈と卯川玄作。さらされた新介錯に、新人ちゃんもあっちょんぷりけ。密やかに、巨大が「こんなことが」と続ける。女子会3人よりも数オクターブ低い。
「そこな4人! なんの話をしてるの」
「ひっ」「ほわッ」「……」「ぎゃあ」
恐ろしいとはこのことである。背後では相崎が、いい気味だとせせら嗤った。
「いい隕石はなぜ落ちてくるって、話あってたんスよ。そうですよね卯川さん恵桐さん」
「そ、そうだぞ。JAXAや研究者ばかりに思考を預けておけんからな。はっはっは」
「それで?」
「ひっ」
「それで……それで……え、あ、ガーディウスはどこからくるかって」
「どこから来るの? 茶ロン毛」
「それは、それは自衛隊か人工衛星がみつけると、研究者がテレビで語って」
「話が戻ってきてはいないかしら、眼鏡くん」
「そ、そうかな」
射妻は、グラスの赤ワインをぐいっと飲みほすと、隅に置かれた用紙の1箱を抱えてどんと、卓上に載せた。段ボールの上蓋をめくると、中から20ページほどの冊子を取り出して配った。宴会は終わった合図だ。
「いい機会だからよく考えてみましょう。私は、
宴会は終わったが、かわりに長い一日がはじまる。者星にくっついていけばよかった、と悔やむ巨大だった。
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