35.さらばハリス、ようこそハニィ
ノアールによる騒動からしばらく立ったある日。
講堂に全校生徒が集められていた。
俺はロイ、ハーマイアと一緒に、赤鷲寮の寮生たちと席に着いている。
スネイアが前に出て言う。
「……ガンダルヴ学園長から貴様らにお言葉がある。諸君、傾注するように」
ガンダルヴが入れ替わるようにして、朝礼台に立つ。
「今日は誠に残念なお知らせがある。黒獅子寮の【ハリス・ドラコ】くんだが……このたび学園を去ることになった」
ざわ……と寮生たちに動揺が走る。
取り巻きのグラップラとバーキンは特に戸惑っている様子だった。
確かに黒獅子の席は一つ空いてる。
……また、赤鷲の席が一つ空いてることも付け加えておこう。
「ハリスは闇の魔法使い、ノアールと手を組んで悪事を働いていた疑いがあったらしい」
「ノアールと!」「まじか……」「ハリス……やべえな」
まあそこは事実だから変えようがない。
「大変遺憾ながら、ハリスは騎士団に引き渡し、しかるべき処罰を受けることになった。非常に残念だが、これは決定事項だ」
生徒達にはまだ動揺しているようだ。
だがいずれバレることだったんだ。
しょうがない……。
「さて、残念なお知らせはこれくらいにして、今度はうれしいお知らせをしよう。我が学園に転入生が来ることになった」
「「「転入生……?」」」
事情を知らない生徒達が首をかしげる。
一方で俺、ロイ、ハーマイア達はなんとなく察していた。
「では紹介しよう。入ってきたまえ」
入り口の扉が開くと、金髪の美しい少女が入ってきた。
誰もが溜息をつくような美少女である。
一方「あれ?」「なんか……」「見覚えが……」と気づいてる生徒もちらほら。
ガンダルヴ学園長の隣に彼女が立つ。
「紹介しよう。【ハニィ・ポッタァ】くんだ」
……そこにいたのは、どこかハリスの面影を残す美少女、ハニィ。
……というか、ハリス(女体化バージョン)だった。
「ハニィ?」「おいあいつハリスじゃね?」
「なんかハリスに似てるよう……?」
ほらやっぱり何人か察してるよ……。
まあ黒獅子の連中は一緒に居た時間が長いからな、気づいても仕方ない。
特に取り巻きのグラップラとバーキンは、
「うほー! KAWAIIーーーーーーーー!」
「ちょうタイプぅ! うきょきょきょ!」
……全く気づいてる様子がなかった。
おまえら取り巻き失格だぞ……。
「えー、ハリスくんに確かに非常に似てるが、彼女はハニィだ。みんなも間違えないように」
ガンダルヴが念押しをしているが、まあバレてるやつにはバレてるだろう。
「ハニィくんは赤鷲寮に入ることになった。諸君、仲良くしてあげること。以上!」
そう言って朝礼は終わるのだった。
★
「なんで女体化するんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ハリスの叫び声が響く。
ここは俺の秘密のヤリ部屋。
「聞きましたわよ。スネイア先生の魔法薬を飲んだら女になったと」
とハーマイアが言う。
ノアール戦が終わって、俺とハリスは学園へと戻ってきた。
そのときには既に体が女になっていたらしい。
「でも……薬飲んでなんで体が女の子になるのかな?」
ロイが首をかしげる。
すると背後にいるスネイアがフンッ、と鼻を鳴らす。
「……副作用だ」
「「「副作用ぅ!?」」」
ハリス達が驚愕する一方で、スネイアはそっぽを向いて言う。
「……ノアールの魂を分離する薬は、非常に高度な魔法薬だったのだ。本来長い期間かけてつくる薬を、短時間で作った。その弊害が出てもしかたないだろう」
「つまり……調合をミスして、意図しない副作用を起こしたってこと?」
ロイの言葉にスネイアが「まあそうなるな」と悪びれもなく言う。
「いや……だとしてもなんで女体化なんだよ! ぼくを女にする意味ないだろ! どうしてくれるんだよスネイア先生!」
ハリスからの罵倒を受けても、スネイアはどこと吹く風。
「知るか。何をわめいている? 貴様は女となったことで、おとがめ無しになったんだぞ?」
「そ、それは……そうだけど」
ハリスは、ノアールに操られていたとはいえ、モンスターを率いて学園を襲った経緯がある。
本来なら罪に問われるし、殺人未遂ってことでアースガルド収容所送りにされるとことだったろう。
また、闇の魔法使いノアールが完全に消滅した今、次の闇の帝王になれる素質があるのはハリスだ。
闇の魔法使いたちの残党が、ハリスを求めて、襲いかかってきたに違いない。
だからハリス女体化は、【非常に】都合が良いんだ。
ガンダルヴは、ハリスが学園を去ったと表現したが、ダミーの死体を用意しておいた。つまりハリスは社会的に完全に死んだわけだ。
【不自然なほどに】、ハリスにとって、都合の良いことばかりが起きる。
「偶発的とはいえ第二の人生を得たのだ。女として生きるがよい」
「いやだよ! ぼくは男だぞ! ばれるでしょ! 元男だって!」
「最近ではぼくっ娘というやつがあるのだろう? 問題ない」
「大ありだよ! はぁ……最悪ぅ……」
がっくり落ち込むハリスに、ロイとハーマイアが慰める。
「まあまあ♡ これからご主人様の性奴隷として、いっぱい可愛がってもらいましょう♡」
「そ、そうだよ! よろしくね、ハリス……じゃなかった、ハニィちゃんっ」
ロイとハーマイア、そしてハリス。
三人が原作の通り、友達になったわけだ。
「…………」
スネイアは何も言わずにヤリ部屋を出て行く。
「ほんとスネイア酷いよね。あんな不完全なもの飲ませるなんて」
「そうですわ。だいいち魔法薬の先生のくせに配合をミスするなんて、ダメダメですわね」
ロイとハーマイアがスネイアを非難する。
「まー、それくらいにしてやれよ。怪我の功名、女になったことで、ハリスはこれからも光の下を歩いて行けるんだからさ」
俺がそう言うと、ハリス達がうなずく。
まあ一応納得してくれたか。
「俺ちょっと出てくるな。すぐ戻るから」
俺はスネイアの後を追う。
ヤリ部屋からでた彼女は廊下を一人歩いていた。
「なあ、先生」
「……なんであるか?」
「あんた……わざと配合ミスったんだろ?」
ぴたっ、とスネイアが足を止める。
やっぱりそうだったのか。
「魔法薬のスペシャリストであるあんたが、ミスするなんてあり得ない。しかも副作用がでることを予期できないはずがない」
「…………」
「あんたはハリスを生かすために、わざと女体化させたんだろ?」
男のまま地上に戻ったところで、収容所送りだった。
いくらガンダルヴの権力が凄いとはいえ、殺人未遂の罪を犯したハリスの罪を、無かったことにはできない。
スネイアはわかっていたんだ。
だから、配合ミスを装って、女体化させた。
ハリスの日常を守るために。
「……なんのことだ?」
スネイアは振り返って、俺をにらみつける。
「副作用はわがはいの落ち度だ」
「助けたのは、ハリスがリリアの息子だったからだろ?」
「ふん。誇大妄想がすぎるぞドラコ。別に誰のためでもない」
どうやら素直に自分の功績を認めないつもりのようだ。
「いいのかよ。あんた、嫌われもの扱いされて」
「もとよりわがはいは、生徒達からの嫌われ者だ。今までもこれからも、それは変わらぬ死、どうでも良いことだ」
ハリスが生きてることに比べれば、とでも思ってるんだろう。
「要件はそれだけか? さっさとお友達のもとへ戻り、仲良く学園生活でも謳歌するのだな」
スネイアは一人去って行く。
「俺は、わかってるから」
ぴた、と彼女が足を止める。
「たとえあんたが、周りから嫌われようと、俺はあんたが良いやつだって、わかってるから」
少しスネイアの肩が震えた。
だがこちらを振り返ることなく、歩み去って行くのだった。
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