27.モンスターの大群



 俺たちの通う学園に、オーガが出現した。


 学園入り口にて。


「ご主人様……!」

「ハーマイア、それにロイも」


 本編キャラたちが、俺の元へとやってくる。

「無事だったか」


「ええ、わたくしたちはなんとも」

「それより、大変だよ! オーガが他にも校内にいるんだ!」


 オーガが他にも、だと?


 俺はロイに案内してもらう。


 食堂にもオーガがいた。


即死デス】を使ってワンパンする。


 原作だとオーガは一匹だけ現れた。

 だが二匹目が今目の前で伸びている。


「……向こうにも転生者がいる、となると、展開を逆手に取られてる可能性が」


「どうかしましたの?」


 向こうが俺の裏をかいてくるのならば、次に何が起きるのか。


 俺は魔力探知を行う。


 赤石が体になじんだからか、人間と魔力のモンスターの、魔力反応の区別がつくようになった。


 禁断の森から、無数のがあった。


「ロイ。先生に言って生徒達を避難させてくれ。まだ終わってない」


「終わってないって……?」


「モンスターが森からこっちに来てる……! 早くしろ!」


 ロイは顔面蒼白となって駆け出す。


「ハーマイア、おまえはモンスターを減らすのを手伝ってくれ」


 彼女は俺からの魔力供給を受けている。


 ここの一般性とよりも高い魔法力を秘めているだろう。


「わかりましたわ!」


 俺はハーマイアとともに学園を出て森へと向かう。


「! こんなに……たくさん……」


 ぞろぞろと数え切れないほどのモンスターが押し寄せてきた。


 おそらくノアールのやつが森に仕掛けを施しておいたのだろう。


 モンスターが一斉に襲いかかってくるように。


「ハーマイアは結界で学園を守れ」


「あなたはどうするのですの!?」


 青い顔で彼女が俺に尋ねてくる。


「俺は、倒してくる」


 身体強化エンハンスを使って走り出そうとする。


 その腕を、ハーマイアはしっかりと握った。

 その手は冷たく、そして振るえている。


「危険です! 先生を待ちましょう!」

「ガンダルヴは応援に来ない。他の教師たちは生徒の避難誘導してる。やれるのは……俺だけだ」


 俺だって怖いさ。

 大量のモンスターを前に、戦えるのは一人しか居ない。


 でもやるしかない。

 今この場で、何が起きているのかを把握できているのは……。


 原作を知っている、俺だけなのだから。


「死にはしないさ。あと頼む」


「……わかりました!」


 ハーマイアに結界を任せて、俺は森へとツッコむ。


 俺は杖先から魔力撃を発動。


 ずがぁああああああああああああああああああああん!


 巨大な魔力の塊がモンスター達を吹っ飛ばす。


「よし」

 

 近くまでやってきていた、足の速い魔物達は今ので消し飛んだ。


 俺は素早く動いて、魔力反応の元へと向かう。


「ぐぎゃ!」「ぎぎ!」「ぎゃーす!」


 ゴブリンの大群を魔力刀ブレイドで切り伏せる。


「グロロォオオオオオオオオオオオ!」


 オーガの群れも魔力刀で蹴散らしていった。

 目玉や脳天にビームサーベルをぶっさせば大抵なんとかなる。


「お、おおい! マルコイ、だいじょうぶか!」


 森でヤリを片手に戦っている女がいた。


「グリッタ。無事だったか」

「ああ、なんとかな。おまえさんも無事で良かった」


 グリッタが瀬戸際で孤軍奮闘してくれていたらしい。


 モンスターの数に反して、学園まで到達した数が少なかったのは彼女のおかげか。


「おまえさんも避難した方がええ」

「いや、それはこっちのセリフだ。グリッタ。撤退してくれ。ラクネアと一緒に」


 ラクネアとはグリッタが飼ってるアラクネだ。


「ば、莫迦なこというでねえ! 大事なおめえを残しておめおめ帰れるか!」


 ハーマイアといいこいつといい、どうやら随分と気に入られているようだ。


 原作と、ほんと違った展開になってきてるな……。


「大丈夫だ。というか、むしろおまえ達がいると邪魔だ。俺の本気が出せない」


「! 本気……だと……?」


「ああ。まもなくハーマイアの結界が完成する。それまでにラクネアと避難してくれ」


 グリッタが俺の眼をジッと見つめる。


「……死ぬ気じゃ、ないんだな?」


 どうやら俺が自分を犠牲にしてみんなを救おうと思っているらしい。


「当たり前だ」


 だが俺は死ぬ気は無い。


 ……二度も死んでたまるものか。


「わかった。後は任せる」


 ぴゅいっ、と指笛を鳴らす。

 がさがさ……と茂みが動くとラクネアが姿を現した。


 下半身が蜘蛛の化け物であるが、しかしグリッタと心を通わせる相棒である。


『ぎしし……さっき古竜いた。にげろ……おめえら……』


「なっ!? こ、古竜だと!? SSランクじゃねえか!」


 グリッタが声を張り上げる。

 SSランクとは、現状最高の強さを持つモンスターのことだ。


 かつてはSSSランクなんてものがあったが、それは魔王やノアールといった、規格外の強さの持ち主。


 今ふたりともこの世に居ない。現状の最高の強さ、それがSSランク。


「……大丈夫、なんだな?」


「ったりまえよ」


「わかった。おおい、ラクネア! おれたちは避難するぞ!」


 ラクネアがうなずいて、グリッタとともに去って行く。


 あとには俺だけが残された。


『マルコイよ、おぬし……何をするきなのじゃ……?』


 俺の視界に、大賢者の赤石せきせきの意思……ミルツが現れる。


「【即死デス】を使って森の魔物を掃討する」


『なっ!? なんと……だ、だが【即死デス】は射程1mほどしかないぞ! 広範囲の敵を倒す魔法ではない』


「ああ……だが、おまえが居れば大丈夫だ」


 俺は左目に手を触れる。

 ガンダルヴからもらっている、眼帯。


 これは赤石の存在を秘匿するため、隠蔽の魔法がかかっている。


「原作通りの設定なら……隠蔽の魔法は、見た目以外のものも隠せるんだ」


『な、何を言ってるのだ……?』


 すると学園全体を覆うような、巨大な結界が発動する。


『おお! 見事な結界じゃ!』

「ハーマイア……やったな。あとは……俺の番だ!」


 俺は近くの木を引っこ抜いて、頭上へとぶん投げる。


 ホウキがないから、こうする!


 俺はぶん投げた樹の上に乗って上空へと向かう。


 そしてある程度の高さで飛び降りて、眼下に杖を向ける。


 左目の眼帯を……はずす。


 その瞬間、俺の体から、今までの比じゃないレベルの魔力が吹き出す。


「ぐ……あぁああああああああ!」


 熱い! 体の中からマグマが吹き出してるみたいだ!


 これが……大賢者の赤石の、本来の魔力量。


 そう、あの学園長、この眼帯に魔力量を抑える機能があることを、俺に黙っていたんだ。

 外すと膨大な魔力に体を焼かれ、最悪死ぬ可能性があるからと。


「はっ……! 俺は死なないよ!」


 赤石から放出される莫大な量の魔力を無理矢理杖にねじ込む。


 魔法は魔力を込めて発動する。

 込めた量に応じて射程、そして威力が増す。

 なら赤石からえられるこの魔力量を、ありったけ注ぎ込んだら?


 射程が1mの【即死デス】も、広範囲に打てる!


 今学園はハーマイアの結界で守られている。


 俺が上空から【即死デス】を使っても、死ぬことはない。


「うぉおおおおおおおおおおお!」


 練り上げた魔力を一転集中。

 そして……。


「【最大出力マキシマム即死デス】!」


 緑色のはげしい閃光が、学園を覆うようにして降り注ぐ。


 学園を除く、周囲一帯に即死の光が降り注いだ。


 それは生物の命を刈り取る、最悪の呪い。


 だが今はみんなを……原作キャラ達を守る最高の矛となる。


 果たしてその効果は……。


 俺はそのまま地上へと落下。


「ぜええ……はあ……み、るつ……魔力の反応は……?」


『アア、モンスターは全滅じゃ。人間は無事だ。まったく、おぬしはたいしたやつだよ……』


 良かった、土壇場だったが成功したみたいだ。


「おーい!」「ご主人様ー!」「まるこーーい!」


 ロイ、ハーマイア、グリッタが俺の元へ駆けつけてくる。


 倒れ臥す俺を心配そうに見てきた。


「大丈夫なんですの!?」

「ああ、問題ない……」


 ほぉ……とみんなが安堵の表情を浮かべると、俺に抱きついてきた。


「良かった! マルコイくんが無事で!」

「うぉおお! おまえはすごいやつだ! あんな大量の化け物をたおしちまうだから!」


 ……ドット疲れが押し寄せてくる。


 駄目だ……まだやることが残ってるんだから……。


 だが、俺は疲れて目を閉じる。

 どうやら魔力が一時的に枯渇したようだ。


 そのまま俺は深い眠りへと落ちるのだった。

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