28.連れ去られたハリス
……ふと目を覚ます。
「マルコイ様!!!!!」
起きてすぐに視界に入ってきたのは、泣きそうな顔のメイド少女。
「アリア……」
「良かった! 良かった! やっとお目覚めになられたのですね! 良かった……ほんとうに……」
アリアは大粒の涙を目に浮かべながら、俺にしなだれかかってくる。
ぎゅーっと力一杯俺を抱きしめてくる。
なぜここまで大袈裟に……?
「もう二度と目を覚まさないとおもってましたので……」
「え? ど、どういうこと……?」
最大出力の【
アリアはこういう。
「マルコイ様は一週間、お目覚めになられなかったのです」
「は……え? い、一週間ぅ!?」
そんなに時間が経っていたのか!?
そりゃアリアもこんな大袈裟になくよな……。
「ああ……マルコイ様……本当に良かった……本当に……」
体にしがみついて涙を流すアリアを見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。
そんなに心配させてしまったなんて……。
「悪かったな」
「いえ……あなた様がご無事なら、それでいいのです……それで……」
きゅっ、と俺を抱きしめるアリア。
近くで見ると本当に美人だな……。
「ふん。ようやく正常に戻ったか、ドラコ」
部屋の入り口には、黒髪の美人先生スネイアがいた。
スネイア先生は鼻を鳴らしながら俺の元にやってくる。
「すまん……あのあと、どうなったんだ? ってかここって……?」
「ここは貴様の、秘密の部屋のなかだ」
周りを見渡すと確かに、見覚えのあるヤリ部屋だ。
「なんで……?」
「とりあえず、服を着ろ」
先生が顔を赤らめて俺に言う。
「服って……えええ!? ぜ、全裸ぁ!?」
すっぽんぽんの状態の俺がベッドに横たわっていた。
そんでもって、俺の周りには全裸のハーマイアとロイ、そしてグリッタが倒れてる?
「なんで!?」
「ま、魔力供給だ」
「ど、どういう?」
「貴様は魔力枯渇状態になった。それも今までにないほどに枯渇していたのだ」
たしかにからっけつになるほどに魔力を失っていたが……。
「魔力を求めて貴様は暴走し、5人を相手にむさぼりだしたのだ」
「まじかよ……」
魔力が体にたくさんあっても暴走するし、魔力が枯渇しても暴走するのか。
結局暴走するのかよ……。暴走しすぎだろ俺……。
「ってか、ん? 五人って」
ハーマイア、ロイ、グリッタの気絶してる三人。
たぶんアリアともやっていただろう。となるとあとは……。
「わ、わがはいはするつもりはなかったぞ! き、き、貴様が野獣のように襲ってきたから、仕方なく!」
なるほどあとひとりはスネイア先生だったか……。
「やるためにやり部屋に移動していた、ってこと?」
「それだけではない」
赤くなった顔のまま、こほんと先生が咳払いして言う。
「時間が無いからな」
「時間が無い?」
「ああ……あと数時間で、ハリスが死ぬ」
……突然、何を言ってるのだ?
ハリスが死ぬ?
どういう……。
「まず、貴様が気を失ったところから話そう」
俺は魔力の使いすぎと、【
「【
ちなみにこのヤリ部屋、外界とは物理的に遮断されているが、魔力は例外なんだそうだ。
魔力、そして精神力に限っては、この部屋の中で回復や、魔力移し可能だそうだ。
「貴様がモンスターを退けている一方で、ハリスの体を借りたノアールが、脱獄したのだ」
「なっ!? ど、どうして脱獄なんて!?」
すると黙っていたアリアが、深々と頭を下げる。
「……申し訳ありません。わたしのせいです」
「アリアの?」
ふん、とスネイア先生が鼻を鳴らす。
「そこの小娘がノアールの人質となったのだ。ここを出さねば殺す、と」
スネイアがあの場に居たはずだが、生徒の命には代えられないと、ノアールを逃がしたのだろう。
断腸の思いだったろうな。
スネイアはハリスのことを守りたいと思ってるのだから。
「……スネイア様、申し訳ありません」
「ふん。もう貴様の謝罪は聞き飽きた。今は過ぎたことより、これからの事を考えるのが建設的だ」
口は悪いけど、多分アリアに気を遣ってる気がする。
スネイアというキャラクターは、見た目以上に優しい人なのだから。
「脱獄したハリスは、貴様に手紙を残した」
スネイア先生から手紙を受け取る。
【親愛なる
6時間後……。
「そうか。俺の精神力と魔力を回復させるために、秘密の部屋に」
外との時間の流れが異なる。
部屋の中の1時間が、外では1分。
ここで7日(168時間時間)は、外では約3時間。
あと数時間で死ぬというのは、俺があと三時間でやつのもとへいかないと、ノアールがハリスを殺す(自害する)ということか。
「いったい、あのノアールは何を考えているのでしょう? マルコイ様に一人で来いだなんて」
多分、俺の左目の、大賢者の
一人で持ってこい、と。
……原作再現でもしたいのかよ、あの
「貴様以外がいけば、その瞬間ハリスは死ぬ。だからわがはいは動けなかった」
ふん、と忌々しそうにつぶやく。
ノアールは俺の赤石を使って、何をしたい?
簡単だ。
原作を再現……つまり、ノアールの復活をもくろんでいるのだろう。
復活して何がしたいのかはわからない。
ただ、自分の復活のために俺の左目をもらおうとしているのは確かだ。
断れば、ハリスが死ぬ……。
「…………」
「マルコイ様。これから、どういたしましょうか?」
これからの方針……か。
そんなの決まっている。
「スネイア先生。分離する魔法薬はできてる?」
「ああ。部屋に入る前に既に作っておいた。わがはいの研究室に置いてある」
「よし。それなら問題ないな」
俺はベッドから降りて部屋の出口へと向かう。
「お、お待ちくださいマルコイ様! どこへ向かわれるのですか?」
焦った表情でアリアが俺を引き留めてくる。
「ハリスを助けに行くんだよ、ひとりで」
「危険です! それに罠かも……」
「かも、じゃなくて罠だろうな」
ノアールが指示しているのは、恐らく、僕心1巻のラストバトルが行われる、学園の地下の事だろう。
あそこにはかなりの罠が仕組まれていた。
原作ではハリスがロイとハーマイア、3人が力を合わせて、突破していた。
しかし今回俺は一人。
「罠と分かりながら、どうして……? ハリスを助ける義理が、いったいどこにあるのですか?」
義理、ね。
確かに、
原作のノアールは強い。完全復活してないとはいえ、かなりの魔法の使い手であることは容易に想像できる。
一人で行けば返り討ちに会うかもしれない。
「でもいくよ」
「どうして!?」
「好きだから、かな」
アリアが目をむいている。
「好き……」
「ああ俺は、ハリスも、ロイも、ハーマイアも。アリアもグリッタも、ガンダルヴも。みんな好きだから」
キャラクターだけじゃない、僕心という作品全体のことを、俺は好きだ。
今俺がやってることは、原作者の意図とは違うかもしれない。
勝手に違う流れを作っている、俺に腹を立ててるかもしれない。
それでも、
みんなに不幸になってほしくない。
「好き……」
「ああ。っても、理解してもらえるとは、思ってないけどよ」
転生者である俺の都合は、原作のキャラであるアリアには、理解できないだろう、そういう意味で言った。
「いえ、わかります」
「アリア……?」
彼女は頬を赤くして、がし、と俺の手をつかむ。
「そういうのも、アリですね!」
「ん? そ、そういうの……?」
「わたしはマルコイ様がどうなろうと、あなたに忠誠を誓った身、ついてまいります!」
あれぇ? なんだろう、急に話が通じなくなったような……。
一方でスネイア先生が顔を赤くしながら言う。
「き、き、貴様ぁ! お、おお、男もいけるのか!?」
「は? 何言ってるのあんた……?」
「は、ハリスまで変態の道に引き入れることは、ゆるさんぞ!?」
いやなにを……って、まさか?
さっきの俺の発言、好きって意味を、
え、じゃ、じゃあさっきの俺のちょっとかっこいいセリフも、男も女もみんな好きだって言ってるのと同じってこと!?
いやぁああああああああああああ!
とんだど変態発言じゃねえか!
「ま、マルコイ様がどんな変態でも大丈夫です!」
「わがはいは許さぬぞ! き、きさまのような変態に、リリアの忘れ形見をゆずるものかぁ!」
あああああどうしてこうなるんだよぉおおおおおお!
ちくしょう! でももう誤解を解く時間はねえ!
「ちょっといってハリスとやってくる」
「「やってくる!?」」
「決闘! 決闘な!」
俺は服を着て秘密の部屋を出ていく。
なんか大事なものを失った気がするが……。
それでも、もっと大事なもののために、俺は戦う。
まってろ、ノアール、そしてハリス。
俺が、お前を助ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます