29.原作知識で罠をサクサク突破



 1時間後、俺は学園内にある、隠し部屋の前までやってきていた。


 そこは学園の奥の奥に存在する、誰も使わない女子トイレ。


『マルコイよ。これから何をするのじゃ?』


 俺の視界には半透明の幼女が映っている。


 俺の左目、大賢者の赤石せきせきに宿る意思ミルツだ。


「ハリスを取り返すために、学園の地下へ向かう」


 原作1巻でも同じ流れがあった。


 しかし原作では地下にある赤石を取りに行く、と言う流れ。


 今赤石は手元にある。つまり、俺が地下にいるノアールの元へ赤石を持っていく、ような逆の展開になっているのだ。


『地下になにがあるのじゃ?』

「本来は赤石を守るために、学園の先生たちが凝らしたトラップの数々が設置してあるんだよ」


『トラップ! だ、大丈夫なのか……おぬし一人で?』


 原作ではハリスはロイ、ハーマイアと協力して、学園側が仕掛けたトラップを突破していく。


 だが今俺は一人しか居ない。

 ミルツが心配になるのも無理ないだろう。


「確かにここの学園の先生が仕掛けたトラップは、結構レベルが高い。なにせ赤石は重要なアイテムだ。おいそれと取られちゃまずい。先生達が知恵を絞って、侵入者を排除するトラップを作ったからな」


『で、ではなおのこと……おぬし一人ではまずいのでは?』


「いや……大丈夫」


 そう、大丈夫なのだ。


「チート持ってるから、俺」

『ちー……?』


 とにかく、俺は臆せず、ノアールの元へと向かう。


『ただの女子トイレにしか思えないのだが?』

「ここに、秘密の入り口があるんだよ」


 女子トイレの手洗い。


 そのなかの一つだけ、蛇の模様の書かれているものがあった。


 俺がその模様に触れて言う。


「【我、試練に立ち向かうもの。されど悪人にあらず】」


 ごごご……とトイレの壁が動いていく。


 壁のタイルが左右に割れていく。


『なんと……こんな通路が。しかしよく合い言葉なんぞ知っていたな?』


「だから言ったろ? チート持ってるんだって」


 原作ではこの合い言葉を手に入れるために、ハリスは色々と調べたりした。


 だが俺は原作を知ってるので、カットできる。


 チートとはすなわち、原作に対する知識だ。

 キャラ達が苦労して手に入れる情報を、俺は易々と知っている。


 確かに原作者からすれば異分子であり、明らかに不必要なキャラクターだろう。


 申し訳ない……。


 左右に開いた壁の中に大きな穴が開いてる。

 俺は臆することなくそこへジャンプする。


 なかはウォータースライダーのように、スロープが奥へ奥へと続いていた。


 俺は滑り台さながら、下へと降りていく。


 長い長い坂の先に、大きめのホールがあった。


「さて、第一の試練だな」

 

 俺はホールの奥へと進んでいく。

 そこには……。


『なんと! 首が三つある化け物じゃ!』


 三つ首を持つモンスター、ケルベロスだ。


 見上げるほどの巨大な体を持ったそいつが、部屋の奥に座っている。


『あんなのどう戦うというのだ!?』


 【即死デス】で一発だろうが、しかしあれはグリッタの飼い犬だ。


 俺は懐から魔道具を取り出す。


 ガラス玉のようなそれを、俺は静かに、コロコロと転がす。 

 

『あんなガラス玉を何に使うのじゃ?』


 玉はケルベロスの足下までやってくると、静かに音を奏でる。


 それはハープの音色を奏でだした。


 ケルベロスはうとうとしだすと、そのまま寝息を立て始める。


『おお! 寝よったわ!』


 俺はケルベロスの元へと到着。


『何をしたのじゃおぬし?』

「このケルベロスは、ハープの音色を聞くと寝るんだよ」


 俺はこの門番であるケルベロスのことも、弱点のことも知っていた。


「この魔道具には音を入れておけるんだ」

『ははあ……なるほど。こいつがいると知っていたから、ここへ来る前、色々と仕込んでおったのだな?』


 他にもトラップが待ち受けている。

 だが、俺はそのトラップの突破方法を全部知っているのだ。


 突破に必要なアイテムをそろえてここに来たのである。


 トラップについて知っている俺と、知らなかったハリス達。

 

 ハリス達が苦戦するのは当たり前だ。


 でもそれが正規のルートであり、原作者の書きたかったものでもあると思う。


「悪いな、カミマツ先生」


『む? 誰じゃ? ここの教師か?』


「いや……この世界の創造主だよ」


 ケルベロスの足下には床下収納のような扉がある。


 俺はやつの足をどけて扉をオープン。


 ひょいっと、下へ向かって飛び降りる。


 結構な高さがあったが……ずぼっ、何か柔らかいものがクッションになった。


『む! こ、これは……!?』


 うぞうぞ……と俺の周囲には大量の蛇がいる。


『た、た、たいへんじゃ! 蛇のトラップじゃ! しかもこいつは猛毒の種! このままでは死ぬぞ!』


「問題ないよ」


 俺は懐から、次のアイテムを取り出す。


 小瓶だ。


「せい」


 俺は小瓶を空中に放り投げる。

 魔力撃で瓶を破壊。


 するとぱらぱら……と【粉】が降り注ぐ。


 すると……。


 しゅぅううう……と音を立てて毒蛇が蒸発した。


『んなっ!? ど、どうなっとるんじゃ!?』


「これは擬態スライムだ」

『ぎたい……スライム?』


「ああ。一見蛇に見えるが、これはスライムが擬態した姿だ」


 蛇だと思って気絶したり、また引き返すようのトラップである。


 原作ではハーマイアがこの罠を知っていたので突破できた。


「何もしなくても問題ないんだが、蛇は勘弁。こいつらは塩をかければ蒸発するんだ」


 スライムがすべて蒸発すると、奥に扉が出現する。


「次だ」


 扉を開けると、そこは小さな部屋となっていた。


 部屋の中央にはテーブルが一つ置いてあって、その上には、10コの魔法薬が鎮座している。


『なんじゃここは?』

「なぞなぞの部屋だな」


 部屋の真ん中には1枚の羊皮紙が浮いてある。


『なになに……【この部屋の出口には炎のトラップが仕掛けられている。耐火ポーションを飲まねば焼けて死んでしまう。ただしいポーションはこの10このうちのどれかだ】』


「そこにヒントが書いてあるだろ? その情報から正しい薬を選ばないと、部屋から出ていけないって仕組みだ」


『なんと……なかなか難しいぞこのなぞなぞ。ええと……赤い瓶の隣がげどくポーションで……』


 俺は羊皮紙を無視して、一番端の小瓶を手に取る。


 そして躊躇なく飲む。


『お、おい! 何をしてる!? まだなぞなぞを解いてないのだぞ!? 何をテキトーに……毒が入っておるとも書いてあったのに!』


「問題ないって。これが正解の耐火ポーションだから」


 俺は出口の前までやってくる。


 炎が地面から吹き出す。


『あぶなぁあああああああああい!』

「平気だぞ」


『うぇええええええええええええ!?』


 火にあぶられていても、俺は平然としている。


「答え、知ってるからさ」


 原作でもこのなぞなぞはあった。

 ハリス達は結構悩んでいたが、しかし知恵のものである(原作では)ハーマイアがなぞなぞを解いて出て行った。


 原作通りの並びだったので、正解が同じだと気づいたのである。


『お、おぬし……何物……?』


 俺は扉に手を置いて答える。


「ただの……部外者てんせいしゃだよ」


 そして扉を開くと……。


 そこには、巨大なチェス盤が広がっていた。

『チェス……?』

「さて、こっからが本番だな」


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