26.尋問



 医務室にて、俺はスネイア教授達と協力し、ハリスを追い詰めた。


 その後、ハリスは手錠をはめられて、学園の懲罰房へと収監された。


 学園に懲罰房なんているのか、と思ったが魔法を使って悪さする奴らが結構いるからな。


 その生徒達を反省させるために、牢屋が存在するのである。


「うそだ……ありあ……ぼくは……ありあ

……」


 ハリスは拘束され懲罰房のなかでひとり、ブツブツと独り言を言っている。


 スネイアはフンッ、と鼻を鳴らす。


「一応礼を言ってやらんこともない。ドラコ」


 ベッドの上じゃないスネイア先生は、原作通りの嫌みな先生だ。


「で、これからどうするんだ?」

「口の利き方がなってないようだなドラコ……」


 俺が人差し指を立てると、ばっ、と先生が俺から距離を取る。


「の、ノアールの意思を分離させる薬は現在、作っている最中だ。ハリスはこのまま捕縛し、わがはいが薬を作る。ドラコ、貴様には手伝ってもらうぞ」


「わかってるって」


 俺の隣に立っているのはメイドのアリアドネ。


「そんなことより、この粗チンをさっさと【アースガルド】送りにした方がよろしくないですか?」


 アースガルド。それはこの世界に存在する大監獄だ。


 滞在人達が行き着く先とされている。


 そこには【恐るべき】看守がいて、入ったら最後、二度と外には出れず、正気を失うなうとされてい。


「てか粗チンって……可哀想だろ」

「事実です。マルコイ様のビッグマグナムと比べたらハリスなんて文字通り針みたいなもんです」


 あそこの大きさで馬鹿にしてやんなって……。


 ふん、とスネイア先生が鼻を鳴らす。


「……無論我が輩とてアースガルドへ送るべきだとは思っている。だが」


「悪いのはノアールであって、ハリスじゃない。だろ?」


「……ふん。貴様と意見が合致するのは非常に不服だが、まあその通りだな」


 スネイア先生はハリスの母親を愛しており、その息子であるハリスのことも気にかけてくれているのだ。


 分離しないとハリスもろとも【あれ】の待つアースガルド送りにされる。


 そうなればハリスの心は永久に消え失せてしまうだろう。


「とは言えアースガルドにずっと黙ってはいられないだろ?」


「……ああ。だから、アースガルドの看守がここへ来るまでが勝負だ。その間にハリスを元に戻す」


 と、そのときだった。


「く……くくく! くははは! そんな悠長なことを言っていていいのかな、おまえらぁ……?」


 ハリスが顔を上げてこちらを見ている。


 だがその表情は……ハリスらしからぬものだった。


 にやぁ……と邪悪に笑って口をゆがめている。


「ノアール……!」


 闇の大魔法使いノアール。

 世界に破壊と混沌をもたらした、ハリスの母親を殺した張本人。


「……!」


 スネイア先生が懐から杖を取り出してハリスに……ノアールに向ける。


「おいおい殺すのか? 愛しいリリアの息子を? 殺せないよなぁ、おまえは、二クラレ口をたたきながらも、リリアの忘れ形見を陰から守る、そういう【キャラ】だもんなぁ……」


 ぐっ、とスネイア先生が言いよどむ。


 ……キャラ?


 なんだこの違和感は……。


「よぉ、マルコイ……いや、招かれざる異世界人。会いたかったぜ」


 ! 異世界人……!?


「どういうことだ……?」


 にぃい……とノアールが笑う。


「おまえの同類だよ」


 同類……異世界人……そして、キャラ。


「まさかおまえも……!」

「ああ。まいったぜ。こういう原作世界に転生するってやつは、だいたい転生者は一人ってのがお決まりだもんなぁ」


 ……そうか。

 そういうことか。


 原作との微妙な差異。

 それは俺がいるからだと思っていた。


 でも違った。

 異分子は、もう一人居たんだ。


「……なんの話をしているのだ、貴様ら?」


 スネイア先生がいらだったように言う。


「わかるぜぇスネイア。愛するハリスの体を勝手に使ってしゃべってるのが、気にくわないんだろぉ?」


「黙れ!」


 スネイア先生が杖先を向けてすごんでも、ノアールは全くおびえてる様子もない。


「殺してみろよ? なぁ? このなきみそ女」


 なきみそ女とは原作で使われていた、スネイアの蔑称だ。


 ぎり……とスネイアが怒る……。

 だが、俺は違和感を覚える。


「スネイア先生。様子がおかしい」

「なにがだ!?」


「こいつがあまりに余裕ぶりすぎてる。まるで……時間を稼いでるようだ」


「へえ、察しが良いな。さすが。だが……もう遅い」


 どがぁあああああああああああああああああああああああああん!


「な、なんでしょう!?」


 アリアが驚いて頭上を見上げる。


 上の階から爆発音が聞こえた気がした。


「くく……なぁ同郷マルコイ。おまえも僕心ぼくここを知っているなら、ハロウィンのくだり、覚えてるだろ?」


「ハロウィン……まさか!」


 俺は左目におさまっている、大賢者の赤石の力を使う。


 魔力を探知する能力を使う……。


 城の中に、特大の魔力反応だ!


「先生! 大鬼オーガだ!」


「なに……? オーガだと……?」


 この世界に存在する亜人型のモンスター。


 巨大な体を持つ鬼である。


「なぜわかるのだ」

「俺にはわかるんだよ! オーガが城に攻めてきてる……今すぐガンダルヴに連絡を!」


 だがノアールがくっくっく、と笑う。


「悪いがそれも無理だぜぇ」

「なぜ!?」


「今ガンダルヴは学園島の外に居るからなぁ」


 俺たちの学園があるのは学園島といって、本土から結構距離のある場所の離島だ。


僕心ぼくここでもあったろ? ガンダルヴが肝心なときにいないって展開が?」


「おまえが、展開を早めたのか……」


 原作を知っているからこそ、向こうはそれを逆手に取ってきたのだ。


転生者おまえがやってることを、転生者おれがやらないとでも思ってるのか?」


 僕心ぼくここの原作だと、ガンダルヴは島の外に闇の魔法使い達が現れたと言うことで、応援にかり出されて戻ってこない。


 ノアールがその展開を利用したとなると、しばらくは帰ってこないだろう。


「ウォロロロロロオロォオオオオオオ!」


 オーガの悲鳴がここまで響いてくる。


「さぁどうする? こんなとこで油うってる暇あるのかい? 生徒達がオーガの餌食になっちまうぜぇ?」


 ガンダルヴ不在、オーガの襲撃。

 そんな中でハリスの解除薬を作る必要がある。


 そしてこのノアールに支配されてるハリスを置いておくことはできない。


「スネイア先生、ここは任せる。俺はオーガをやってくる」


「ドラコ……」


「大丈夫。【即死デス】がある。解除薬に必要な素材ってあとなんなんだ?」


「……オーガの牙と肝臓だ」


 なんだ、実に好都合じゃないか。


「俺が行ってくる」

「私もついて行きます!」


「駄目だ。危険すぎる。おまえは寮生と一緒に避難しろ。もちろんここに居るのも駄目だ」


 ノアールが何をし出すかわからない。


 魔力移しで多少強くなっているとはいえ、彼女は一番非力だ。


「いいな?」

「……わかりました」


 俺はスネイアに後を任せてその場をあとにする。


 身体強化エンハンスを使って廊下を走る。


「きゃああ!」「たすけてぇ!」「おいどけよ!」「いやぁああ!」


 案の定生徒達が大混乱を起こしていた。


 みんな一斉に逃げ出すもんだから、廊下が人いっぱいになってる。


「そういうときは!」


 俺は壁に向かってジャンプ。

 そしてだだだっ! と走る。


「し、信じられねえ!」「壁走ってやがる!」「なんだあいつ!」「ドラコよ!」「マルコイ・ドラコ!」


 驚く生徒達をよそに俺はオーガの元へとひた走る。


「ウロォロロロオオオオオオオオオオオオ!」


 棍棒を持ったオーガが玄関入り口で暴れ回っていた。


 原作ではハリスが浮遊魔法で棍棒を浮かせて倒す。


 だが今ここにハリスはいない。


「ウロォロロォオオオオオオオ!」


 棍棒を俺に振り下ろすオーガ。


 俺は魔力刀ブレイドで棍棒を切り刻む。

「ウォ!?」


「悪いが、容赦はせんぞ」


 俺はやつの腕に載って高速で駆け抜ける。


 オーガの頭上へと到着し、【強制発情ラスト】をかける。


 びくん! と動けなくなったところに……。

「【即死デス】!」


 緑色の閃光が走ると、オーガは一瞬硬直して、倒れ臥す。


「す、すげえ……」「オーガを一撃で……」

「マルコイすげえ……」


 とりあえず被害は最小限に収まったな……。

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