エピローグ
ハリスが女体化して数日が経ったある日。
深夜、俺は禁断の森にある、暴虐の柳(へし折ったやつな)のもとへ、ハリスを呼び出した。
「よぉ、ハリス」
「……マルコイ。大丈夫なの、ここ?」
暴虐の柳は、近づいた人間を叩き潰すような凶暴性を持った植物だ。
しかし今は大人しくしている。
「ああ、大丈夫だよ」
「そっか……」
女になったハリスは凄い美人だ。
胸も大きく、流れるような金髪をしている。事実寮の男子からはめちゃくちゃモテてる。
だが彼はあまりうれしそうじゃなかった。
まあ当然だ、中身は男なんだから。
「それで、話って何、マルコイ?」
「いやおまえ……どうしてずっと俺を避けてるんだよ」
転入してから数日、ハリスは俺を露骨に避けていた。
声をかけようとすると逃げるし、俺と目が合うとすぐに目をそらされる。
「そ、それは……」
頬を赤らめて口をもにょもにょ動かす。
なんなん?
「俺たち友達だろ? 言いたいことがあるなら言ってくれよ」
「友達……」
さっきまでの赤ら顔から一転、暗く沈んだような顔になる。
「ぼくは……君の友達になる、資格なんてないよ」
ハリスがぎゅっと下唇をかみしめ、うつむき加減に言う。
「なんだよそれ」
「だって……ぼくはたくさんの人に迷惑をかけた。君にも、君の友達にも、そして……君のメイド、アリアにも」
なるほど、たしかにハリスは色々やっていたな。
特にアリアとの溝は深そうだった。
「アリアが君のそばに居る以上、ぼくは君の友達になるわけにはいかないよ。ぼくは……嫌われてるから」
【やっぱり】、ハリスが懸念しているのはそこなのか。
思った通りだ……。
「なあハリス。おまえの意思を聞かせてくれよ」
「ぼくの……?」
「おまえが俺と友達になりたくないって理由はわかった。アリアを気にしてるってことだろ。じゃあ……今のおまえは、何がしたいんだ?」
しばしハリスが考え事をする。
俺はちらっと【後ろ】を見た。
【向こう】も、様子見のようだ。
やがて長い沈黙を破り、ハリスが言う。
「……アリアに、謝りたい」
良かった。ハリスが俺の思うとおりのやつで。
「アリアに?」
「うん……アリアに、謝罪したい。君のことを鑑みず、身勝手な振る舞いをしてしまったこと……大好きな君を殺そうとしてしまったこと……色々、謝りたい」
辛そうに顔をゆがめるハリス。
「おまえ……後悔してるんだな」
「うん……ずっと……ずっと……申し訳なくって……。ノアールに影響を受けてたとはいえ、ぼくは……なんて酷いことを……君にも……ごめん……」
深々とハリスが頭を下げる。
彼が打ち明けたことがすべてだろう、俺の友達になりたがらない理由の。
だから……。
「だってさ、アリア」
「え!? アリア……!?」
暴虐の柳のそばには、メイド服に身をまとったアリアがいた。
「そ、そんな……どうして!? いったいどこから!?」
アリアは身にまとっていたマントを、俺に渡す。
「これ、本当に便利だよな、透明化マント」
「透明になって聞いてたのか……」
そのとおり。
「騙すようなマネしてすまん。ただ……おまえがアリアに何か言いたがってるだろうことはわかってたからさ。でも本人の前だとどうしても、本音って伝わりにくいと思ってよ」
アリアにマントを着せておいて、そのうえでハリスを俺が呼び出した。
本人が居ないと思っての言葉なら、本心であると、アリアに伝わるだろうからな。
「ほら、ハリス。本人が目の前に居るんだ。もう一度……ちゃんと言ってやれよ」
もしこの段階で、アリアが今もなおハリスに対して嫌悪しているのなら、とっくに帰っているだろう。
でも彼女は黙って、彼の言葉を待っていた。
つまり、話を聞く体勢になっているってことだ。
「…………」
「ハリス。ほら、勇気を出して」
すがるような目線から一転して、ハリスはうなずくと、アリアに深々と頭を下げる。
「本当に、すみませんでした、アリア。本当の……本当に……ごめんなさい」
アリアは黙ってハリスの謝罪を聞いていた。
ふぅ……と彼女は息をつく。
「マルコイ様は、よいのですか? ハリスは暗殺をしようとしたのですよ?」
「ああ、いいよ。俺生きてるし。友達は……多い方がいいしさ」
アリアはしばし逡巡のあと、大きく溜息をつく。
「もう、良いですよ。ハリス……いいえ、ハニィ様」
「! ありあ……それじゃあ!」
「ええ。貴女を許します、ハニィ様」
じわ……とハリスの目に涙が溜まる。
「うぐ……ぐす……うぇええええええええええええええええええええええん!」
ハリスが大声で泣きわめく。
「ちょっ、おまえ……泣くなよ」
「だってだぁってぇ……! アリアに嫌われたのが、つらくってぇ……ゆるしてもらえたのが、うれしくってぇ……!」
そうだよな。
ハリスにとってアリアは、孤独をいやしてくれた唯一無二の存在だもんな。
和解できたら、うれしいもんな。
「マルコイぃ……ありがとぉ……和解の、手引きをしてくれて」
「いや、気にすんな。俺はただ、友達が欲しかっただけ。自分のためにやっただけだよ」
俺はハリスに手を伸ばす。
「改めて……ハニィ・ポッタァさん。俺の……友達になってください」
「はいっ!」
と、そのときである。
「「「いやぁ……一件落着おめでとー!」」」
ぞろぞろと……暴虐の柳のなかから、たくさんの友人達が出てくる。
ロイ、ハーマイア、グリッタ。……そして、なぜかガンダルヴに、スネイア先生もいた。
「おまえら……どうして?」
ガンダルヴがいたずらっ子のようにウインクして言う。
「この柳は学園の地下と繋がっているんだよ? 君なら知っていると思ったんだけどね」
そうだった! 柳の付け根に少しの空間がある。
そこから地下の階段を下って、学園と行き来できるのだ!
「ハニィ、おめでとう!」「これからよろしくですわ、ハニィ!」「おれからもろしくな!」
ロイ、ハーマイア、グリッタが笑顔でハリスを出迎える。
「ふん……ぐすん」
「ふふ、セリムよ。良かったな、愛するハリスが幸せになって」
「うるさい……ばか……ぐすん」
ガンダルヴがスネイア先生の肩を優しくたたく。
うん、これで大団円。やはり物語の終わりは、ハッピーエンドがふさわしい……。
「って、ぐ、ぐわぁあああああああああああああああああああああ!」
突如として俺の左目がうずきだした!
「ど、どうしたのマルコイくん!」
ロイが心配そうに言う。
一方でハーマイアは事情をわかっているのか、「あらあら♡」とうれしそう。
「ちょうど良いではありませんか♡ 新歓もかねて……7Pしましょう」
「な、ななぴー!? なにんだよそれ!?」
ハリスが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ええっと、男がマルコイ1人。女がおれ、ロイ、ハーマイア、アリア、スネイア、そして……」
「わしじゃよ、なんつって」
ガンダルヴがウインクして朗らかに言う。
「以前より興味があったのだよ。マルコイのがどれほど気持ちのかと」
「なんだそれ……ぐわあぁあああああ! ひ、左目が! 左目がうずくぅうううううううううううううう!」
体の魔力が溜まりすぎて、暴走を始めようとしていた。
こ、このままじゃこの場に居る全員とやる羽目になる!
「は、はりぃいいいいいいす! 逃げろ! おまえも巻き込まれるぞぉお!」
ハーマイアがハリスに耳を打ちをする。
一瞬顔を赤くしたあと……ハリスは小さくつぶやく。
「……いやだ」
「ふぁ!?」
「ぼく……仲間はずれは、いやだ」
お、おいおいおいおいおい!
いいのかよ! おまえ男じゃなかったのかよ!
「……マルコイの、ほしい」
びきっ、とスネイアの額に血管が浮かぶ。
「……やはりこの害虫は駆除しないといけないようだな」
「まあまあスネイア。そうはいっても君もマルコイくんとのえっちに夢中なのだろう? いつもひとりえっち……もがもが……」
「だ、黙れ老いぼれ! ぶち殺すぞ!」
いやちょっと! 早くみんな逃げて!
やばいって……もう……意識が……。
「マルコイ様」
「あ、ありあ……」
アリアはニコッと笑って、俺に近づいてハグをする。
「さ♡ みんな可愛がってください♡」
……その後俺の記憶はぶつん、とキレた。
そして目を覚ましたあと、目の前には裸の美少女美女達が気絶していたのは言うまでもない。
あああああああああああああもう!
これ絶対原作者怒ってるだろ!
いや!
ほんと!
まじで!
原作者さま!
めちゃくちゃやりすぎてしまい!
「すみまっせんでしたぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
〈おわり〉
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【★読者の皆様へ】
応援してくださった皆様のおかげでエピローグまで書き切れました。
本当にありがとうございました。
次回作はじめました!
『ハーレム系ギャルゲーの親友キャラに転生した~主人公が個別エンドを迎えたら負けヒロインが全員病んでしまい、俺がフォロー入れたら修羅場になった~』
https://kakuyomu.jp/works/16816927862648674108
頑張って更新しますので、よろしければぜひ!
えっちなファンタジー小説で主人公から女を奪おうとする悪役ヤリチン貴族に転生した俺、まっとうに生きようとしてるのに、主人公から女をことごとく奪ってしまう。なんで!? 茨木野 @ibarakinokino
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