32.主人公VS闇落ち主人公



 学園の地下にて。


 俺はノアールに支配されたハリスとの魔法決闘フェーデに挑む。


 魔法決闘にはルールがある。

 勝った方が相手の言うことを聞く。


 俺はこの決闘に勝って、ハリスに、ノアールの分離薬を飲ませればいい。


 一方でノアールは俺を倒して大賢者の赤石せきせきを我が物にしようとするだろう。

「ではいくぞ……【闇槍ダーク・ランス】!」


 ハリスが杖を俺に向けてくる。


 影から無数の槍が照射される。


 俺に向かってかなりの速度でやってくる。


 身体強化エンハンスを使って俺はそれを避ける。


「【火球ファイア・ボール】!」


 今度は無数の火の玉。

 俺はそれもひらりとかわす。


「【風刃ウィンド・エッジ】! 【闇槍ダーク・ランス】!」


 風の刃と闇の槍が交互に押し寄せてくる。


 俺は魔力刀ブレイドを使ってたたき落とした。


「はっ! どうだい……やっぱ無詠唱魔法だよなぁ。ここのやつらはみんな呪文使ってるようだけど」


 ぼぼぼ、と彼の周りに、火の玉、風の刃、雷の刀、そして闇の槍が出現する。


「この世界では基本1人1属性。2属性持ちは天才と呼ばれ、3属性持ちはいないとされてる……が。ハリスは違うんだよなぁ」


 ばっ、とノアールが杖を持ち上げる。


 4属性の魔法攻撃が襲ってくる。


 身体強化で耐える。


「ハリスは全属性持ち! 一方でおまえは無属性魔法のみ。禁術も使えるが……使えるかい? ハリスに?」


 にぃ……とノアールが邪悪に笑う。


 【即死デス】は当然使えない。

 【強制発情ラスト】、【絶対服従マリオネット】は使える……だが。


「おまえが使えるものを、おれが使えないとでも?」


 そう、ハリスもまた禁術を使える。

 しかも俺より闇魔法の適性を持っている。


 つまり同じ魔法がぶつかり合ったとき、俺は負けてしまうという。


 ……と、【やつは思っている】。


「さぁほら! かかってこいよ! お得意の近接戦闘でさぁ!」


 ノアールは全属性の魔法を無詠唱で放ってくる。


 一発の威力は弱い。だが手数が段違いだ。


 魔力量の少なさを、消費魔力の少ない下級の魔法を連発することでカバーしている。


 じりじりと、俺は削られていく。


 魔力刀と身体強化で防いではいるものの、基本的に俺には遠距離がない……。


 と、やつは【思っている】。


「くはは! 避けてばかりじゃ勝てないねえ!」


「……なあノアールさんよ」


「あん? なんだよ」


「おまえ……この世界のことがらに、目を向けてきたか? マルコイの活躍を、物語を」


 ふんっ、とノアールが鼻を鳴らす。


「いちおうな。だがそこまで詳しくは見てねえよ。原作レイプなんて見てて気持ちいいわけねーだろ。原作厨なめんな」


 ああ、やっぱりな。

 

「良かったよ、おまえが、原作厨で」

「あ゛? なにいってる……」


「いや、なんでもないよ。さて……やるか」


 準備は整った。

 満身創痍の俺。一方で余裕綽々の原作厨。


 魔法使いという面において、ハリスの方が上を行っている。


 当然だ。マルコイには魔法の才能がないのだから。


「いい加減諦めろって。マルコイじゃ勝てん。原作を読んでるならわかるだろ? ハリスに、魔法の天才にはかなわないんだって」


「……そう思ってるなら、それがおまえの限界だ、ノアール」


 ちっ、とノアールが舌打ちをする。


「もういいや。死ね。【火炎連弾バーニング・バレット!】」


 中級魔法を打ってきた。

 無数の炎のつぶてが俺に襲いかかる。


 俺は身体強化を使って、ハリスにツッコんでいく。


 両手で最低限の部分をガードしつつ特攻。


「はっ! バカが! 接近して【絶対服従マリオネット】を使うつもりだろ! 甘いんだよ!」


 ……よし!


絶対服従マリオネットの射程は3メートル! だが打ち合いになれば適性の高い俺の方が勝つ!」


 ノアールまで残り……5メートル。


 4メートル……。


 だが、そこで接近を辞める。


「なっ!?」

「【強制発情ラスト】!」


 絶対服従マリオネットの射程外から、俺は【強制発情ラスト】を発動させる。


「ば、バカな……【強制発情ラスト】だと……こんなぐぁあああああ!」


 ノアールがその場で崩れ落ちる。


 びくんびくん、と体をけいれんさせる。


「ば、ばかな……【強制発情ラスト】が男にきくだと!?」


 そう……


 こいつは原作厨。

 つまり原作で起きたことしか知らない。


 【強制発情ラスト】は、作中では男の魔法使いが、女に使っていたものだ。


 男の俺が、男に使うとどうなるか。

 それをこいつは知らない。


 だって原作しか知らないからだ。


 原作に書いてあること以上のことを、こいつが知ろうとしなかったからだ。


「同性同士での【強制発情ラスト】も発動するんだよ。その場合は、麻痺パラライズと同じ効果になる。知らなかったのか?」


「し、しらねえ……よ! こんな使い方……原作に書いてない!」


「そう、原作以上を知らなかった。それが、おまえの敗因だ」

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