えっちなファンタジー小説で主人公から女を奪おうとする悪役ヤリチン貴族に転生した俺、まっとうに生きようとしてるのに、主人公から女をことごとく奪ってしまう。なんで!?
16.闇落ち主人公、さらに絶望し闇のシモベとなる
16.闇落ち主人公、さらに絶望し闇のシモベとなる
マルコイのメイドに強く拒まれた、元主人公のハリス。
「うそだ……」
彼がいるのは夜の森の中。
思い人のアリアドネから拒まれたショックからまだ立ち直れていない。
「ありあ……アリア……ボクの……ボクのアリアぁ……」
あんな風に拒まれたことなど一度も無かった。
アリアが自分に向けていたのは、明確な拒絶、そして嫌悪感。
愛しい女性、大好きな彼女から……あんなふうに嫌われるのが辛かった。
「なんで……どうしてぇ……」
ハリスは考える。なぜ彼女に拒まれることになったのか、と。
そのときだ。
【くく……それはマルコイってやつのせいだ】
右の額がじくじくと、燃えるように痛んだ。
ハリスの右の額には炎のような痣がある。
彼は手鏡を取り出す。
【ハリスよ】
「ノアール……」
闇の魔法使いノアール。
かつてこの世界に闇をもたらした、最強にして最悪の魔法使い。
ノアールは死んだはずだったが、実はその魂は滅していなかったのだ。
そしてハリスという器のなかに、その魂の一部を保存したのである。
「ノアール……マルコイのせいってどういうことだよ……」
【簡単なことさ、ハリス。ハリス。あいつはおまえから大事な女を寝取ったのだ。目を閉じてごらん?】
ハリスは言われたとおりにする。
すると視界に何かが映った。
それはマルコイたちの部屋である。
【我の使い魔が見ている映像を、資格共有している。つまりこれは本物の、実際の映像である】
寝室の中にはふたりの美少女がいる。
アリアドネ。そして金髪の美しい同級生。
【アリアと、そしてあの女はハーマイア。本来なら君の女になる予定だったキャラさ】
ハーマイアもアリアも下着姿で、マルコイに迫っている。
ベッドに横たわる彼に、美少女達が覆い被さる。
「アリア! くそ! 中で何が行われてるんだ!? 音が聞こえないぞ!」
【残念ながら外から撮影してるのだ。音までは拾えない。しかし見ればわかるだろう……?】
彼が何かを言う。
すると女達がとろけた表情でうなずき……。
そして裸になって抱きつく。
「やめろ……やめろぉおおおおおおおお!」
愛しいアリアが、マルコイにキスをしている。アリアが情熱的なキスをする。
一方でハーマイアはうっとりしながら、自分も自分もとばかりに、待っている。
やがてアリアとのキスをマルコイに、ハーマイアがキスをする。
そしてアリアは下着すら脱ぎ捨てると……。
「待って! 待ってアリア!」
アリアはいっていた。
魔法で服従されていないと。
つまり自分の意思で、【行為】に望もうとしているということ。
【アリアの言うとおりだよハリぃ……ス】
ノアールがささやく。
【アリアは服従の魔法で操られていないのさ。彼との行為が気持ちよくって、彼とまたしたいと思って、自分の意思でやってるのさ、ああほらみてごらん……】
目を、背けたかった。ぎゅっと固く閉じる。
だが目をつむっても、そこで繰り広げられてる【悪夢】から覚めてくれない。
「やめろおぉ! やめろぉおおおおおおおおおおおおおお! そんな顔するなぁ! アリアぁああああああああ!」
ハリスは絶望の涙を流す。
彼女は自分の意思でハリスを拒絶し、自分の意思で、マルコイと行為に及んでいるのだ。
つまりアリアドネの心も体も……
全部、マルコイに取られたということだ。
「うぷ……うぐ……うげぇええ……!」
アリアとマルコイとの行為に耐えられなくなり、目を開けて吐瀉する。
視界が元に戻り、夜の森がそこに広がっている。
だがさっきよりも闇が深いように感じた。
頭がふらふらする……あり得ない……信じたくない……。
だが……実際に彼女はマルコイと、恋人のようなキスをして、そして体を重ねていた。
【これでわかったろう? アリアもハーマイアも、おまえの女キャラたちは、みーんなあの悪役キャラのマルコイに取られてしまったのさ】
ひひひ、とノアールがささやく。
「ぼくが……ボクの方が……先に好きだったのに……!」
アリアを取られた悔し涙を流す。
【そぉだよなぁ。原作でのおまえは、昔からアリアのことが好きだった。マルコイよりもずっと前からなぁ】
「そうだ……なのに……どうして……?」
【教えてやろうか?】
手鏡の中で、ノアールが微笑む。
【全部マルコイが悪い。もっと言えば……マルコイが最初に、アリアと寝たのが悪い】
ノアールの言葉にハリスが耳を傾ける。
【アリアは今服従の魔法をかけられていない。だが、あの日、マルコイがおまえの女を抱いたあの日、マルコイは禁術……【
「なっ!? マルコイが禁術を!?」
【ああ。【
しばし考えて、ハリスは結論を出す。
「そうか……アリアはあのとき禁術を使ってマルコイとやった。その気持ちよさを覚えている……だから、マルコイのことを好きになった……」
【そう! そのとおりだ! 賢いなぁハリス。その通りだよ。つまりあの女がほれてしまったのは、マルコイとキメセクしたからなんだよ】
「きめ……なにそれ?」
初めて聞くような単語だったが、ノアール【気にするな】とスルーする。
【とにかく、マルコイがあの日、あの夜にアリアとセックスしたから、アリアの心も体もあいつのもになってしまったのだ】
「……だからなんだよ。結局ボクのアリアは、マルコイに取られたままじゃないか」
一拍の間を置いて、ノアールがささやく。
【もしも、やりなおせるとしたら、どうする?】
やり直す……。
ノアールの甘い言葉に、ハリスは完全に騙されていた。
「どういうことだよ!?」
【我は時間遡行魔法を使える】
「時間遡行……」
【ま、ドラえもんのタイムマシーンみたいなものだ……っと、こいつにはわからないか。とにかく昔に戻ることができるんだ。やり直せるんだよ、最初から。アリアとマルコイのセックスを、無かったことにできる】
衝撃の事実に、ハリスは驚く。
そして……飛びつく。
「そんなことができるのか!?」
絶望に沈んでいた彼の元にさした、一筋の光明。
アリアとの関係をやり直すことができる、という甘い【罠】。
飛びつくしかない、すがるしかない……。
だがハリスは忘れている。
彼が今、頼ろうとしている男が、闇の魔法使いだということを。
【できる。だがそのためには、我が完全復活する必要があるのだ】
「あなたが復活するためには、どうすればいい!?」
【我に忠誠を誓うのだ。そして、我の言うとおりに動け。そうすれば……すべてがおまえのものだ】
ハリスの前には選択肢がふたつある。
ノアールの言うことを聞くか、否か。
相手は闇の魔法使い。どんな悪いことをしてきたのか、子供ですら知っている。
そして、目の前の男はハリスの両親を殺した張本人。
……だが。
今のハリスは、アリアを渇望している状態。
アリアとの関係をやり直せる。
すべてなかったことにできる。
【時間を戻して、マルコイがアリアを組み敷く前に救い出すのだ。ピンチを救ってくれたアリアはおまえのことを好きになる。そしておまえは幸せな学生生活を送る……そういう
「ふ……ふふ……あは! あははははは!」
ハリスは狂ったように笑う。
その目には闇が宿っていた。
「ノアール様ぁ……!」
様、とハリスはノアールに対して言う。
「ボクはあなたに、絶対の忠誠を誓いますぅ……!」
彼の頭には、両親の敵とか、闇の魔法使いとか、そういうのはない。
ただアリアとやり直したい、それだけの感情に支配されている。
「あなた様の言うとおりに動きます! あなた様の復活に、死力を尽くします!」
【くく……ならばお辞儀をするのだ。我の前で、頭を垂れよ】
ハリスは手鏡をおいて、跪く。
その瞬間、ハリスの額の痣が……さらに大きく、そして濃くなった。
ずぉお……と炎の痣が広がる。
【ハリス……良い子だ。これより我の言うとおり行動せよ】
「かしこまりました、ノアール様! して、まずは何をすれば?」
完全にハリスは、闇の魔法使いの眷属になってしまった。
【大目標としては、マルコイの殺害だ】
「やったー! では今すぐ」
【落ち着け。直接殺すのはまずい。我の存在がばれてしまってはいけない。今は魔法で存在をごまかしているが、勘の良いやつがこの学校にはいるからな】
「そ、そうですか……」
今すぐにでも憎いマルコイの息の根を止めてやりたい。
だがそんなマルコイの心を見抜いたノアールが言う。
【落ち着け。おまえの目標は時を戻すこと。今のアリアは、マルコイの使用済みの中古だ。時を戻して新品にしたほうがいいぜ】
後半何を言ってるかわからなかったが、しかし確かに、今のアリアはマルコイに身も心も取られてる状態。
すべてをゼロからやり直すほうがいい、というのは理解できる。
「で、でも……マルコイは殺すんですよね?」
【ああ。でもやるなら暗殺だ】
「暗殺……ですか」
【ああ。大丈夫、心配しなくても暗殺の計画はたくさんインプットしてあるから問題ない】
憎くてしかたないマルコイ。
今すぐ殺したい気持ちになるが、だがそれではだめだという。
【大いなる目標のためには、多少の我慢も必要だ。わかるな?】
「わかり……ました」
【よし。では始めようか……間違ったこの
ハリスは立ち上がって、森の奥へと進んでいく。
ノアールが小さくつぶやく。
【……どこの誰かは知らないが、てめえは
彼は落ちていく。深い闇の底へと……。
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