17.魔力移しでヒロイン・パワーアップ



 ふぇえ……酷い目に遭ったよぉ……。


 アリアそしてハーマイアに文字通り襲われた俺。


 なんか知らんがアリアがハッスルしまくったんだよな。


 そんで釣られるようにハーマイアも興奮して……はぁ……。


「ど、どうしたのマルコイくん?」


 原作キャラの一人、ロイが心配そうに聞いてくる。


「いや……なんでもない……」


「あ、うん。そっちもなんだけど……」


 ちら、とロイが俺の隣を見やる。


「マルコイ様♡ ふふ……♡」


 俺の右腕に抱きついてる金髪の美少女ハーマイア。


 目を♡にして、さっきからくっついてる。


「ハーマイアさん、どうしたの? なんか朝からずっとくっついてるけど……」


「いや、そっちも気にしないでくれ……」


「う、うん……いいなぁ」


 ぼそっ、とロイがつぶやいて、何やらハーマイアに羨ましそうな視線を向ける。


 さて。


「おういっちねんせい諸君! 今日はモンスター演習にようこそ!」


 俺たちがいるのは学校の外に広がっている森の中。


 ここは【禁断の森】といって、モンスターが出現する森であり、生徒の一般立ち入りを禁止されている。


 俺たちの前に居るのは大柄の、赤髪の女。

 竜人リザードマンのグリッタだ。


「今日はモンスターと魔法使いが遭遇したときの対処方法について学ぼうとおもっちょる」


 はぁ……しかし参った。

 入学してから目立つことばかりだ。


 現に今、俺の周りにはロイしかいない。


 他の連中は明確に俺から距離を取っている。


 まあ、目立ちたくないので好都合ではあるんだけどさ……。

 なんか悲しい……。


「さて魔法使いがモンスターに遭遇したとき、気をつけるべきことはなんだ?」


 スッ、と当然のようにハーマイアが手を上げる。


「決して1人でモンスターと遭遇しないことですわ」


「そのとおり。魔法を使う場合は詠唱を必要とする。だがモンスターは詠唱中にも容赦なく襲ってくるから。唱える前にやられる。ではどうすればいいか?」


 ぴぃ、とグリッタが指笛を鳴らす。


 ぴょん、ぴょん、とスライムが出てきた。

 グリッタは調教師テイマーでもあるのだ。


「魔法使いがモンスターとの戦闘になった場合、こうする。ふんっ!」


 グリッタは杖をスライムに向ける。


 杖先から光の玉が出現して、それが弾丸のように射出。


 バシュッ、と音がしてスライムがふっとんだ。


「これは魔力撃まりょくげき。魔力の塊をぶつける、まあ技術のひとつだな。魔法ではないからモンスターを殺す力は無いが、これならゼロタイムで相手を吹っ飛ばせる。その間に逃げるなり仲間を呼ぶなりする」


 ぴぃ、とまたグリッタが指笛を鳴らす。


 すると無数のスライムが出現する。


「各自このスライムを使って魔力撃の練習をすること」


 生徒達はスライム相手に魔力を飛ばす。


「え、えいっ!」


 ロイの杖からはヘロヘロの魔力がでてきて、途中でぱちん、と消えてしまう。


「だめだぁ……難しいよ……って、あれ? マルコイくんどうしたの?」


「ん? どうしたって」


「いや、魔力撃の練習」


「ああ……」


 俺は学んだのだ。

 俺の左目には大賢者の赤石せきせきという、凄まじい魔力を秘めた魔道具がはまっている。


 魔力撃なんて放ってみろ? 森が消し飛んでしまう。


「ちょっと腰が痛くてな」

「そうなんだ。大丈夫? あとで医務室行く?」


 ロイが心配そうに俺を見てくる。

 なんか申し訳ない……。


「ロイさん。魔力撃はただ魔力を込めればいいというわけではないですの」


 ハーマイアがロイに解説する。


「魔力は気体のようなもの、そのまま放つと空気中に霧散してしまいますわ。大事なのは圧縮」


「あっしゅく……」


「そう。杖先に集めた魔力を圧縮して放つイメージですわ」


 ロイはこくんとうなずいて、杖をスライムに向ける。


 しゅぉお……と杖先に魔力が集中していく。

「えいっ!」


 ばしゅっ……!


 杖先から飛んでいった魔力の弾丸が、スライムにぶつかる。


 数メートル離れた場所までふっとぶ。


「やった! できたよハーマイアさん! ありがとぉ。優しいねぇ」


「いえ、ご主人様のご学友様ですから、優しくして当然ですわ♡」


「な、なんか素直に喜べないよぉ……」


 俺も普通に喜べないよぉ……ふぇえ……。


「おー、ロイ。今のは合格だな。SPを5点あげよう」


 グリッタが様子を見に来たようだ。


「ハーマイア。おまえさん人に教えてばかりで、自分の練習もしたらどうだ?」


「かしこまりましたわ」


 すら、と優雅に杖を抜く。

 多分この感じでいくと次は俺の番になりそうだ。


 さてどう手を抜くか……。


「え!?」

「ちょっ!? ハーマイア! なにやっちょるんだおまえ!?」


 ん? 何かあったのか?


 するとハーマイアの杖先に、なんか……数十メートル級の魔力の弾丸が生成されていた。

「なにこの大きな魔力の塊!? わたしの数十倍もあるよ!」


 驚くロイをよそに、グリッタが焦ったように言う。


「解除しろ!」


「と、止まりませんわ!」

「ええいじゃあ、森に向かってぶっ放せ!」


「は、はい!」


 どがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!


 ……放たれた魔力の弾丸は、スライムを木っ端微塵にした。


 それどころか、森の木々をなぎ倒し、一直線上の更地を作った。


「し、信じられん威力……とんでもない魔力量だ……」


 グリッタが呆然とつぶやく。


「は、ハーマイアさんすごい……で、でも……なにやったの?」


 確かに俺も気になっていたところだ。

 魔力をたくさん込めても、ハーマイアの総魔力量で、あの威力は出せないはず。


「わかりませんわ……ただ、今までに無いくらい、体に魔力が充溢してますの……」


 グリッタはちょっと考えて、懐から小型の水晶を取り出す。


「こいつは簡易魔力計測器だ。三桁、999までの魔力量を計測できる。ハーマイア、おまえさんこれで魔力量を測ってみろ」


 ハーマイアはうなずいて、小型の水晶を手に持つ。


 びき! ぱりぃいいいいいいいいん!


「け、計測器が壊れた!?」

「す、すごい! マルコイくんみたい!」


 グリッタ、ロイ、そしてハーマイアが驚く。

「わたくしの魔力量は30……三桁測れる計測器が壊れるということは、魔力量999以上!?」


 ざわ……とクラスメイト達がざわつく。


「す、すげえ……」「30倍もパワーアップしたってことか?」「いったいどうやって……?」


 た、確かにおかしな話だ。

 グリッタはしばし考えたあと、ふと声を潜めて言う。


「……マルコイ。おまえさん、もしや、ハーマイアとやったか?」


「え!? な、なんだよ急に……」


 まあやったかそうでないかって言われると、やったけど……。


 でもあれはやったというか、襲われたってほうが正しいと思う……。


「そうか、やはり、【魔力移し】をしたようだな」


「「まりょくうつし?」」


 原作でも聞いたことない単語だった。


「ノアールが生きとったころ、戦場で戦う魔法使い達がよくやっとったんだ。消費した魔力を回復させるのには、それまでは睡眠を取るしかなかった。しかし男女の性行為をすることで、魔力を一方に移すことができる」


 え!? なにそれ!? 知らない!

 何で原作に出てこない……。


 いや、そうか!


 原作の僕心ぼくここは、ライトノベルレーベルから出ていた!


 ライトノベルは中高生がよく読むもの。

 そんなえっちな設定を出すわけには行かない。

 

 だから、カットされていたんだ!


「つ、つまり……マルコイくんの凄い魔力を、せ、せ……あ、あれ……で、移したってこと?」


 ロイが顔を真っ赤にしてつぶやく。

 グリッタはうなずく。


「そういうことだ。魔力移しは回数を重ねれば重ねるほど、体の中の魔力量が増え、総合的な保有魔力量が増える。つまり……マルコイとやれば強くなる、ということだな」


 なにそのエロ設定!?


「まあ♡ すごいですわ……マルコイ様♡ あなた様は自分がお強いだけでなく、下々の者も強くすることができるだなんて……素敵……♡」


 ハーマイアは受け入れムード。

 一方でロイは顔を赤くしてうつむいている。


「どうだマルコイ? 今夜おれと寝るのは?」


 グリッタが笑顔で誘ってくる!


「結構です!」 

「まあまあ。これも実技の授業だと思って。なあ?」


「いやです!」


 そんなやり取りを、生徒達がドン引きして見ていた……。


「……やると強くなるだって?」「……マジ?」「……てかハーマイアさんともうやったの?」「……ヤリチンだ。ヤリチンだマルコイ」「……ヤリコイさんだ」


 男子からも女子からも距離を取られた!


 また俺の平穏な学生生活が遠ざかった!


 はぁ……

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