13.魔法威力テストで俺何かやっちゃいました?


 アイン魔法魔術学園に入学した俺。


 今日は魔法の授業で、魔力測定を行った。

 結果、俺は測定器をぶっ壊してしまったのである。


「ありえませんわ……水晶を破壊するほどの魔力量なんて……」


 本編キャラであるハーマイア・エマワトリンが呆然とつぶやく。


「わたくしよりも凄いというのですの……!」


 キッ、とハーマイアが俺をにらんで、俺の近づいてくる。


「なんだったのですの、今のは!」


「あ、いや……その……」


 まずい、絡みたくないって思ってたら向こうから絡んできた!


 そうだ、ハーマイアは魔法に自信があるんだ。


 自分が優等生じゃなくては気が済まないタイプである。


 そこに俺が自分より上をいく結果を出したから、自分の地位が脅かされるって思ってるんだろう。


 だ、大丈夫だって、そんな気さらさらないし……。


 ここはこうするか。


「た、たぶん測定器の故障だろ?」

「故障……」


「そ、そうだよ! 故障! 絶対そうだって! あんたがナンバーワンだよ」


 ハーマイアは疑いの目を俺に向けてくる。

 だが自分に言い聞かせるように……。


「そう、ですわよね。絶対に壊れないはずの測定器が壊れるなんて、そんな莫大な量の魔力……人間が所有できるわけないですわ」


 といちおう故障で納得してくれたみたいだ。

 よ、良かったぁ。


 しかしあまり魔法で目立っちゃ駄目だな。

 ハーマイアに絡まれてしまう。


 俺は平穏無事に過ごしたいんだ。

 あまりハーマイアには関わらないでおきたい。


 よって魔法の授業は、手を抜こう。うん。あんまり本気でやったらいかんな。


    ★


「つ、次は魔法の威力を測定する」


 グラウンドに的が出現した。

 かかしのような的がずらりと横並びになっている。


「あの的に下級火属性魔法を打ち込むのだ」


 先生が的に向かって手を伸ばす。


「我が右手に集まれ魔力よ! 我が意思に答え顕現せよ炎よ! つぶてとなりて敵を討て! 【火球ファイア・ボール】!」


 こぶし大の火の玉が出て、ばしゅっ、と的にぶつかる。


 ……てか、今の何?


 原作だとみんな【火球ファイア・ボール】とか、【即死デス】だとか、魔法の名前だけで発動させてなかったっけ?


 呪文なんて要らなかったような……。


「さぁ諸君らも火球を使ってあの的に当てるように。あてたものにはSPを加点しよう」


 まあ何はともあれ、的あてだ。

 これもあまり目立たないようにしないとな。

 魔法。この学園にて生徒達が習う技術。

 だが原作・僕心ぼくここで魔法とはみな名前を呼んで杖を振れば発動するものだった。


 しかし……。


「我が右手に集まれ魔力よ!」だの、「敵を討て!」だのと、みんな妙ちきりんな呪文とやらを唱えている。


 あれ、あれぇ~……?


 いや、僕心ぼくここを、原作を読んだ人たちならわかるよね?


 みんな【武装解除パージ】とか、【浮揚レヴィテーション】とか。


 杖振って、魔法の名前しか呼んでなくない?


「わ、我が右手に……えっと、」


 ロイは呪文に手こずっているようだった。


 だよなぁ。

 あんな長ったらしい呪文をとなえるの、むずいよな普通。


「ふぁ、【火球ファイア・ボール】ぅ」


 ロイの杖先から、へろへろとした火の球が出て、途中で消えた。


「あらあなた、何かしら今の? 全然なってませんことよ」


 ハーマイアが得意顔でロイに言う。


「す、すみません……」

「まったく、しょうがありませんわね。わたくしがお手本を見せてあげますわ」


 そう言って、ハーマイアが杖を取り出す。


「我が右手に集まれ魔力よ、我が意思に答え顕現せよ炎よ、つぶてとなりて、【2つの】敵を討て! 【火球ファイア・ボール】!」


 ハーマイアの杖先から火の玉が二つ出てきた。


 それは結構な早さですっとんでいき、的にどがんどがん、と連続で命中する。


「す、すげえ!」「魔法を2連続で出しただと!」「しかも見ろよ、的が焦げてるぜ!」 

 生徒達がハーマイアの魔法に驚いている。


 先生も感心したようにうなずく。


「威力、速度。そして何より2連撃の魔法。さすが学園主席だな。ハーマイア・エマワトリンにSPを5点プラスだ」


「「「おーー! すげえ!」」」


 生徒達からの賞賛を浴びて、ハーマイアはフッ、と得意げに笑う。


 いや……でもなぁ。

 そんなに威力高いか?


 僕心ぼくここのアニメだと、もっと威力出せてたはずなんだが。


 さっきの長ったらしい呪文にしてもそうだ。

 原作にあんな無駄な詠唱なんてなかったぞ?


 どうなってるんだ……。


「次、ミスタ・ドラコ」


 俺の番になった。

 さて、どうすっかな。


 ここで説明しなければならない。

 魔法適正についてだ。


 魔法は火、水、風、地、光、闇、そして無属性の7属性ある。


 魔法使いたちはいちおう、全部の属性魔法を【使うこと】だけはできる。


 だが中には得意な属性、不得意な属性という者がある。


 生まれてすぐに得意な属性……魔法適正を調べる。


 たいていの場合、適正する属性は1つだ。

 2つあると天才。

 宮廷魔導師でも3ついくやつは少ない。


 4つはこの世には居ないとされる。


 そんななかで、魔法適正が何もないやつも存在する。それが俺だ。


 適正0の場合は無属性魔法がかろうじて使えるだけ。


 属性魔法なんて、ほとんど使えない。


 出せたとしても、ライターほどの火や、弱値を捻ったくらいのちょろちょろとした水くらいだ。


 つまりまあ、魔法適正0の俺が属性魔法尾【火球】を使うと、さっきのロイ以下の魔法が出るはずである。


 原作の設定ならば。



「えっと……じゃあ、【火球ファイア・ボール】」


 俺は杖を構えて属性魔法を放つ。

 はいはい、ライターくらいの火しか出なくて驚かれるんだろ?


「そんな!」「ばかな!」「あり得ない!」


 ほらね?

 って、あれ、なんか反応が違う。


 ごおぉおおおおおおおお……!


 杖先には人の体ほどの大きさを持つ火の玉が出現した。


 そして銃弾のごとくスピードで飛んでいく。


 どがぁああああああああああああああああああああああああああああん!


 用意してあった的がすべて破壊された。


 な、なんだこれ!? なにこの威力!?


 魔法適正0の属性魔法じゃないぞ!?


「み、ミスタ・ドラコ! なんだ今のは!?」


 先生が大焦りで近づいてくる。


「す、すみません威力がなんかバグって……」

「そっちじゃない!」


「え、そっちじゃないって?」


「君! 呪文の詠唱をしなかったろう!?」


「え、ああ、確かに。それが?」


 信じられない、とばかりに先生が驚きの表所を浮かべる。


 一方でハーマイアは体を震わせながらつぶやく。


「信じられませんわ……伝説の【無詠唱魔法】の使い手がいるなんて……」


「む、無詠唱魔法? 伝説ぅ~?」


 なんだ無詠唱って? と思っていると先生が解説してくる。


「無詠唱魔法とは文字通り、詠唱を用いない魔法のことだ。通常魔法とは詠唱無しではまともに発動しない。詠唱をカットして魔法のみを放つ技術、それが無詠唱魔法。いにしえの時代に失われた技術のひとつだ……!」



 え、ええ!? うそぉ!

 僕心ぼくここに無詠唱魔法なんてなかったぞ!?


 てゆーかそもそも、僕心ぼくここにあんな【我が~】とかあんな長ったらしい呪文、無かったよね?


 一体何がどうなってる……?


「すげえ……」「マルコイのやつ……あんなすごい技術つかうなんて」「てか威力もはんぱないよな……すごすぎる……」


 というか、魔法適正0の俺が、属性魔法を使ってあの威力って。


 じゃあ俺に火の適正があったら、いったいどんだけの魔法が使えたんだ……?


「お、お待ちになられて!」


 生徒達、そして先生の注目がハーマイアに集まる。


 彼女は……怒っていた。


「あなた……マルコイ。マルコイ・ドラコなのですわね」


 ハーマイアが俺をにらみつけてくる。


 あ、そういえば名乗ってなかったな……。


「さすが悪名高いドラコ家のかたですわね」


「え、どういうこと……?」


「とぼけないでくださいまし! いかさまを使ったのでしょう!?」


 びしっ、ハーマイアが俺の杖を指差す。


「い、いかさまって……使ってないよ」


「どうせその杖が魔道具マジック・アイテムになってるのでしょう!?」


 魔道具マジック・アイテム。文字通り魔法を発動させる道具のこと。


 魔力を流すだけで、あらかじめ込められていた魔法を使える、という大変インスタントなもの。


「火の魔法を出す、違法改造した魔道具に決まってますわ! 目立ちたいからってそんないかさままでして!」


 ハーマイアがヒートアップしている。

 

 たぶんよっぽど魔法に自信があったんだろうな。


「いや、落ち着けって。たかが魔法の授業でそんないかさまなんてしないよ」


「たかが魔法の授業ですって!?」


 や、やべえ……! 火に油そそいじゃったか!?


「わたくしが一番になるためどれだけの努力を……」


「は、ハーマイアさん?」


「マルコイ・ドラコ!」


 ハーマイアは自分の杖を、まるで騎士のように構える。


 俺は知っている。このポーズは……。


「あなたに、魔法決闘フェーデを申し込みますわ!」

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