12.【ハーマイア・エマワトリン】優等生を魔力測定で凌駕



 アイン魔法魔術学園に入学した俺。


 翌日。俺はメイドのアリアドネとともに、寮の食堂へと向かう。


 大広間はイベントごとがあるときに使われる。まあパーティ会場みたいなもんだ。


 基本的に寮生の食事は、寮の食堂で取ることになっている。


「さてメシメシ……っと、食券の券売機とかないのか?」


 食堂の受付に、生徒達が何かを呈示している。


 カードみたいなもんを受付のおばちゃんに渡す。しゃりん♪ という音がすると、食堂のおばちゃんから食事を受け取っていた。


「なんだあのカード……?」


 他の生徒達もカードをおばちゃんに呈示して料理をもらっている。


 スマホみたいなもんか? でも俺もらってないし……。


 と、そのときだった。


「そこのあなた? 何かお困りでして?」


 声のする方を見やると……。


 金髪の美少女が立っていた。

 腰まで伸びる金髪に……そして、ドリルのように先端がくるんとまいてある。


 金の髪に金の瞳。そしてドリル! そして巨乳。間違いない……。


「は、ハーマイア・エマワトリン……」


 彼女は僕心ぼくここのメインヒロインの一人だ。


 ハリスを支えるもう一人のヒロイン。

 容姿端麗、成績優秀な優等生である。


 自信に満ちあふれた表情の彼女が、ぴくっ、とこめかみを動かす。


 あ、やべ……。そうだ。


「あなた、ちょっと失れ……」

「悪い。ハーマイア=【フォン】=エマワトリンさんだったな」


 フォン。つまりハーマイアは貴族の娘だ。

 いや、正確に言えば【元】貴族だが。


 エマワトリン家はかつて貴族だったのだが、没落してしまったのである。


 ハーマイアはお家を復興するために凄まじい努力をして、奨学金を借りてこの学園に入学している。苦学生なのである。


 そして彼女は貴族であったことにとてもプライドを持っていた。正直どうしておまえ黒獅子や青鮫寮じゃないんだって、原作ファンの間でも物議をかもしていたっけか。


 ともあれ、彼女にとってフォンを抜くということは、地雷を踏み抜くに等しい。


「それでいいのですわ」


 ふすー、と満足げに鼻を鳴らすハーマイア。

「それで、何をお困りですの?」


 ……正直あんたと関わりたくないのでござる。


「いや、別に困ってないから。大丈夫だよハーマイアさん」


「遠慮なさらず。それとわたくしのことはさんづけなんてしなくてよろしいですわ。同級生、しかも同じ赤鷲寮の仲間ですもの」


 うーん、いい人。

 あんまり遠慮しすぎるのもあれか。目立つし、より向きになって関わってきそう。


 ここはサクッと頼ってバイバイしよう。


「みんなどうやってメシ買ってるの? なんかカードみたいなもん持ってるし」


「あら? 【生徒手帳】をもらわなかったのですの?」


「せいとてちょー……?」


 そんなものもらったっけ……?


「すみません、こちら、学園長から預かっておりました」


 アリアドネが慌てて懐からカードを取り出す。


 それはスマホみたいな大きさ。だがペラペラのカードだ。


「これは生徒手帳。情報端末にもなっておりますの。表面に触れてみてくださいまし」


 画面には俺の名前、年齢、所属する寮と学年。


 そして……【SP】の文字が。


「このSPってなんなの?」


「スクールポイントの略称ですわ」


「すくーる、ぽいんと?」


S Pスクール・ポイントは生徒を評価する、点数みたいなものですわ。たとえば試験で良い成績をとったり、授業で優秀なことをすると、教師からSPが配布されますの。それはこの学園島でのお金になります」


「へー……金にねえ」


 学園生活での評価が金、つまりは生活の向上に繋がるのか。すげえなこれ。


「学期末には所有するSPが最も高い生徒、寮にボーナスがもらえますのよ」


「貯めておくといいってことか」


 生徒手帳で買い物ができる訳か……。


「って、あれ? 俺SPが0なんだけど」


 何度見ても0。おかしい……。


「SPは加点されることもありますが、減点されることもありますの。素行が悪いと減点の対象となりますわ。赤点を取るとか」


「いや素行も何もまだ俺入学したばかり……あ」


 心当たり、ありまくりだ。

 学園の備品である暴虐の大樹を木っ端微塵に吹っ飛ばした。


 さらに無断で学園島に侵入……。


「点数は教師が加点減点できますの」

「……これ、スネイア先生にめっちゃ引かれたんだろうなぁ」


 そうでなきゃ初日から0点なんてありえない。

 飢えて死んじまうだろうが……!


「仕方ありませんわね。わたくしのSPを分けて差し上げます」


「え! 良いの!?」


「もちろん。持たざるものに手を差し伸べるのも、持つ者の役目ですからね!」


 ちょっと鼻につく言動だけど、普通にいいやつやん……。


 結局俺はハーマイアにおごってもらうことになった。

 ちなみにアリアドネの分も。


 あとでちゃんとSPを返さないとな……あと、SPの補充も……。


    ★


 食事を終えた俺は、アリアドネと別れて教室へと向かう。


 授業は寮ごとに受けるみたいだ。

 A組B組みたいなくくりはないみたい。


 俺たちは学園内にある体育館みたいな場所までやってきた。


 制服から短パンTシャツという、動きやすい服装に着替えている。


「それでは今日はまず、魔法力測定を行う」


 魔法学の男性教諭が俺たちを見渡して言う。

「魔法の基礎といえば、なんだかわかるか?」


 スッ……とハーマイアが手を上げる。


「ではミス・エマワトリン。答えたまえ」


「魔法の基礎は【魔力】と【呪文】ですわ。強い魔法を使うためには、より多くの魔力量、そして長い呪文を要す、ですわ」


「その通り。ミス・エマワトリンにSPを5点!」


 おお、と歓声が上がる。


「すげえ」「あっさり答えるなんて」「さすが入学試験主席合格は違うなぁ」


 寮生たちから感心され、得意げな表情のハーマイア。


 なるほど、こうやって授業で当てられて言い答えを出すと、SPが加点されるのな。


 ちなみに1SPあたり100円くらいの価値があるそうだ。


「まずは魔力を測定する。この水晶を使ってな」


 先生の隣には足の長い台座があって、そのうえにボーリング玉のような水晶がおいてある。


「これは潜在する魔力量を数値として算出できる。このように」


 かっ、と先生が水晶玉に魔力を込める。

 すると表面に【30】という数値がでる。


 たしか僕心ぼくここでも魔力値測定は行われた。


 魔力値は年齢とほぼ=とされている。

 先生はみたところ三十路っぽいので、まあ平均値なのだろう。


 ハリスは確か100くらいあって、天才だって騒がれていたな。


 ちなみにマルコイは年齢と同じ、つまり14とか15とか、そんな感じだった……。


 ……いや、でも待てよ。

 俺の左目は今、大賢者の赤石せきせきになっている。


 膨大な量の魔力を秘めた赤石をその身に秘めているんだぞ?


 これで計測したら……とんでもないことになるんじゃ?


『ミルツ。起きてるか、ミルツ?』


 俺は赤石の意思であるミルツに心の中で話しかける。


 この子は一日のほとんどを寝て過ごしている。

 まだ子供だから、とはガンダルヴ学園長がいっていた。


『ふぁー……マルコイどうしたの?』

『赤石の魔力量って、抑えられるか?』


『? できるけど』

『じゃあもう、めっっっっちゃ魔力量抑えて』


『べつにいいけどー、なんでそんなことするの? ただでさえ、封印の魔法具のせいで魔力量おさえられてるのに』


 あ、そうなんだ。

 でもいや、赤石は半端ない魔力量だったはず。セーブするにこしたことはない。


『目立ちたくないんだ』

『ふーん、わかった』


 生徒達が次々と水晶に触れていく。


 14、15……。


「おお! 魔力値30! さすがエマワトリン!」


 ハーマイアが30をたたき出した。

 通常の倍か、普通に優秀だな。


「では……ミスタ・ドラコ。君の番だ」

 

 先生に言われて俺は水晶の前に立つ。


 大丈夫、魔力量は抑えられてる……。


「こ、壊れるなんてことないですよね?」


「安心したまえ。絶対に壊れないよう作られてるからな」


 なら大丈夫か……。

 よし……いくぞ……。そーっと、そーっとな……。


 かっ……!


「え!?」


 水晶が突如としてはげしい光を放ち始める。


「こ、これは!? 水晶にひびが……!」


 びきびき、ばきばき……!

 ぱりぃいいいいいいいいいいいいいいん!


「「「ええええええええええええ!?」」」


 粉々に砕け散った水晶玉を見て、寮生たちが驚愕の表情を浮かべる。


「す、すごい……水晶玉が壊れるなんて……すさまじい魔力量だ!」

 

 先生もまた驚いていた。

 てか、俺もだよ!


 なんで!? ミルツ!? どうなってるの?


『セーブしたよぉ……めっちゃ』


 めっちゃセーブしてこれなの!?


「うそ……ですわ……ありえない、ですわ……」


 ハーマイアが呆然とつぶやき、そして、キッ……と俺に敵意のまなざしを向けてきた。


 あ、あれぇ……俺、やっちまったかこれぇ……。

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