11.主役と悪役が入れ替わってる件



 組み分けを終えた俺は、大広間にて夕飯を食べていた。

 長いテーブルの上には豪華な食事が並んでいるが、正直何を食っているのかわからない。

 

 俺は食事から目を離し、遠くに座っている彼を見つめる。


「……ハリス。なんで、黒獅子寮に……?」


 僕心の主人公ハリス。彼は本来、黒獅子にいるべきキャラクターじゃない。

 そこには俺、マルコイが座っているはずなのだ。


「…………」


 ハリスの様子を見やる。

 制服を着た彼は机の前に座って食事をしている。

 誰とも話している様子はない。


 周りはしきりにハリスに話しかけようとしている。

 そりゃそうだ、こいつは生き残った男子なのだ。

 闇の魔法使いノアールの攻撃を受けて、なお。


 彼の右の額には【炎のような痣】が存在する。

 ノアールから魔法を受けたときにできた印。

 黒獅子寮にはノアール信者、また闇の魔法使いの家計の子息たちが多く在籍している。


 ゆえにノアールの寵愛をうけたハリスに興味関心が集まっているのだ。


 しかし、ハリスは周りからの声をすべて無視して、淡々と食事をしてる。


「……!」


 かと思いきや、ハリスと目が合った。

 その目は妙に血走っていた。憎しみのようなものを見て取れた。


 憎しみ? なんでや。俺何かやっちゃいました?

 ハリスとは実家で決闘したくらいで、他には何もしてない。

 恨まれるようなことは何も……。


 ハリスには聞きたいことが多い。

 なぜ黒獅子寮にいるのか。なぜ、おまえが俺を恨んでいるのか。

 気になる。


「どーすっかね」


 これからどうしよう。

 気になることをしかし、わざわざハリスに聞くのは変、というか不自然だ。


 だってハリスが黒獅子に所属するはずでないことは、原作を読んだことがある俺しか知らない。


 彼に直接どうして黒獅子なのかと聞かれても、わからない、と答えるだろう。

 また、俺が家を出て行ってから今日まで何があったのか、そんなの聞いて何になる?


 俺は決めたのだ。

 ハリスとは関わらない、と。本編に関わった結果、マルコイは破滅エンドを迎えるのだ。


 別々の寮にいるのは、むしろ好都合じゃないか。

 同じ寮ならいざしらず。


そうだよ、関わらない。聞いても藪蛇になるだけさ。

俺は考えたすえに、今まで通り、本編キャラであるハリスにはかかわらないよう決めたのだった。


    ★


 夕飯のあと、俺たちは寮監督生(寮のリーダーのようなもん)につれられ、赤鷲寮へと向かう。


 校舎裏に石造りの立派な寮があった。

 中央に大きな建物、そこから廊下が伸びて、それぞれの棟へと続いている。


 ここには1~6年生の寮生がみんな泊まっている。

 六階建てで、一番下が一年生、最上階には六年生が寝泊まりしている。


 寮は個室になっていた。


「お帰りなさいませ、マルコイ様」


 桃色の髪をした美しいメイド、アリアドネが俺を出迎えてくれる。

 もともとはドラコ家につかえていたメイドだったが、俺が追放されたのと同時に、こいつもついてきたのでる。


「おう、アリア」

「いろいろ大変だったと伺っております……」


 遅刻からのタオパイパイからの、学校の備品破壊だからな。

 そりゃ心配するよな。


「問題ないって。大丈夫だからさ」

「はい!」


 ふぅ……なんだか今日は色々あったな。


「もうお休みになられますか?」

「おう、そうな。寝るわ」


 アリアドネが俺にパジャマを着せてくる。

 この学園には貴族も多数通うので、別にメイドのアリアがいても問題ない。


「それじゃお休み」

「はい♡」


 そういってアリアが、一つしかない部屋のベッドに寝転ぶ。

 ふぁ!? ど、どういうこと?


「あ、アリアさん。どうして君はここのベッドに?」

「わたしもここに住みますので♡」

「ふぁあああああああああああああ!?」


 え、住む?

 一緒に!? なんで!? 冒険者時代は別々の部屋取ってたのになんで!?


 ぽっと顔を赤らめながらアリアが説明したところによると……。


 簡単に言えば、部屋が余っていないらしい。

 黒獅子寮ならば貴族の坊ちゃん嬢ちゃんがおおいので、侍女の専用部屋が用意されている。


 しかしここ赤鷲寮には貴族より庶民のほうが多い。

 当然ながら庶民派侍女なんて持ってないため、専用部屋がない。


「学園長様より、ともに寝泊まりするようにとのご指示がありましたので♡」


 おいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

 何言ってるのあの女ぁ!


「さ……♡ マルコイ様♡」


 アリアが目に♡を浮かべて、隣をぽんぽんと叩く。

 寝ろってか、隣で? 巨乳美人メイドの隣で!?


「いや、あの、アリアさん。さすがに同じベッドってのは、俺たち年頃の男子と女子だし、間違いがあったら……」


 するとアリアは微笑んで言う。


「間違っても、いいです♡」

「ええ!?」

「むしろ……どうぞ♡」

「どうぞおおおお!?」


 なんでそんなウェルカムなのこの子ぉ!?


 すると頬を赤らめながらアリアが言う。


「すでに一度肌を重ねているではありませんか♡」

「ああそうでしたねぇえええええええええええ!」


 そうだ、そうだよ。

 原作と違って、俺はアリアとすでにやってるんだった!


「マルコイ様とつながったあの日から、わたしはあなた様との一夜を思い出して何度も……♡」


 すっかりメロメロになってらっしゃるぅ!?

 いや、いやいやいや!

 そういうのダメだから! 俺たち学生だから!


 ……けどベッドは一つしかないし、一緒に寝るしか、ないの?

 ウェルカム状態な美女と?


 さ、先が思いやられるぜ……。


    ★


 マルコイとアリアが同じベッドで就寝してる、その様子をはるか遠くから見つめる少年がいた。


「マルコイ……」


 ハリス・ドラコ。僕心の本来の主人公だった少年だ。


 元々は正義感にあふれる少年、だったのだが。


「マルコイめ。アリアと……くそ! くそ! くそぉ!」


 ハリスの瞳にはどす黒い憎しみの炎が宿っている。

 彼がなぜこうなったのか。


 単純だ。


「アリアは、僕のアリアだぞぉ!?」


 ハリスにとってアリアという女性は最重要人物であった。

 両親を事故で失い、ドラコ家に引き取られた後、彼は屋敷でふさぎ込んでいた。

 

 家族を失い傷心のハリスのことを、本当の家族のように優しく接してくれたのがアリアだった。


 ハリスはいつしかアリアに家族以上の感情、簡単に言えばアリアに惚れていた。


 だが、マルコイは愛するアリアを無理やり犯し、さらには自分の女にした。

 それがハリスにとっては許せないことだった。


 だがマルコイは実家を追放されることになった。

 ハリスは歓喜した。邪魔なマルコイが消えて、アリアとまた二人になれると。


 だがアリアはマルコイと共に屋敷を出て行った。

 アリアは、自分ではなく、マルコイを選んだ。


 にくい……にくい、にくい!

 ハリスは最愛の人を奪ったマルコイを憎んだ。

 アリアがマルコイを選んだことを認めたくなかった。

 マルコイに嫉妬した。


 ……そんなハリスの醜い感情が呼び水となってしまった。

 悪を、引き寄せる。


【くくく、そうだ、憎め。憎むがいい。我が器よ】


 ずきん、と右の額が傷んだ。

 炎のような痣がうずく。


 脳内に響き渡るのは男の声だ。


【憎め、憎むがいい】

「……うるさい! 黙ってろ!」


 ハリスが額を手で押さえる。

 その痣の形が変形していた。


 炎のような模様から、【人の顔】のようなものへと。


【マルコイ。あいつは敵だ。奪い返すのだ。女を】


 人の顔のような痣がささやく。

 まるで生きてるようだ。


「奪い返す……」

【そうだ。何も難しいことはない。奪われたら奪い返してよいのだ。やったらやりかえす。そんなのは世の常識。さぁハリス。マルコイを殺すのだ。そして奪い返すのだ、アリアを、最愛の女を】


 ……ハリスの弱った心に、彼は目を付けたのだ。


 ハリスの痣は、人の顔に見えた。

 そしてその顔を知る者は多い。


 闇の魔法使い……ノアール・ダークロード。

 彼の顔がハリスの額に張り付いてるように見えた。


「殺す……マルコイ……奪い返す……」

【ククク、そうだ。おっと殺す前に左目をえぐり取るのだ。やつの目は大賢者の赤石といって、我の復活に必要……】


「殺す! マルコイ! 殺す!」

【聞いてはおらぬか。まあいい。さぁ闇に身をゆだねるのだ、ハリス・ドラコよ! くかかかか!】


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