10.組み分けと闇落ち主人公



 無事? アイン魔法魔術学園に到着した俺。

 随分と遠回したけど、結局は原作の流れ通りになってしまってる……これが歴史の修正力ってやつか……。


 俺はスネイア先生に大広間まで案内される。

 そこは東京ドームくらい広い大広間があった。で、でけえ……。


 長い机が4列並んでおり、そこには数多くの学生達が座っている。


 僕心ぼくここの舞台であるアイン魔法魔術学園は6年制の学園である。


 14歳で入学して20歳で卒業。


 あ、そうそう今のマルコイは14歳ね。


「マルコイくん!」


「ロイ」


 長机の横を歩いてると、茶髪の少女が声をかけてくる。


「良かった、退学とかじゃなくって」

「ああ、問題なかったよ。心配させて悪かったな」


 ほっ、と安堵の笑みを浮かべるロイ。

 地味な印象があるけど、結構笑うと可愛いのだ。胸もでかいしな。


「あ、そうだ。【組み分け】は終わったのか?」


「え、うん! わたしは【赤鷲寮】だった!」


 この学園、海に浮かぶ孤島ということもあって、学生達は寮生活を送るとなる。


 寮は4つに別れている。


 赤鷲。青鮫。緑象。そして黒獅子。


 生徒はこの4つのどこかの寮に所属する。


 寮にはカラーがある。色という意味ではなくて、校風というか、その寮が何を重んじているのかみたいな。


 赤鷲は勇気。青鮫は知性。緑象は調和。そして黒獅子は血統。


 当然のごとく、原作でマルコイは黒獅子寮に所属することになった。


 まあ自分が名家の生まれであることに何よりも誇りに思ってるようなやつだったからな。

 順当に行けば俺は黒獅子寮に行くことになるだろう。


「おいドラコ。さっさと来い。貴様の組み分けがまだだ」


 スネイア先生から既に嫌われてる俺としては……あんまり黒獅子寮に行きたくない気持ちに並んでもない。


 スネイア先生は黒獅子寮の管理教員を務めている。


 まあ管理教員に嫌われてようがどうでもいい。


 俺はなるべく【あいつ】と関わらなければ、それでいい。


 あいつ、つまり、本編の主人公ハリスだ。


 ハリスは僕心ぼくここ本編では、赤鷲寮に所属する。つまりロイや、もう一人のヒロインと同じ寮だ。


「マルコイ君、一緒の赤鷲寮だとうれしいね!」


「ソーデスネ……」


 ロイには悪いが、俺は絶対に赤鷲はいやだった。


 だってハリスがいるんだぜ?

 なんでわざわざ地雷原に飛び込むようなマネしなきゃいけないんだってばよ……。


 大広間の上座には、1つの大きなクリスタルが鎮座していた。


 それは【組み分けのモノリス】。


 巨大な長方形の結晶板。

 これに手を置くと、その人の適性をモノリスが調べて、その人にあった寮の色に変化する。


 赤鷲寮なら赤色に、黒獅子寮なら黒に変化するのだ。


 スネイア先生とともに俺はモノリスの前までやってくる。


「……見ろよ、マルコイ・ドラコだ」

「……闇の魔法使いの一族の?」


 一番手前には、組み分けを終えた一年生達が座っている。


 みな俺に注目していた。

 魔法使いの間ではドラコ家のマルコイといえば有名だからな。


 傲慢で、プライドの高い嫌なやつって。


「……どこに所属するんだろう」

「……どーせ黒獅子だろ」

「……黒獅子って闇の魔法使い達が多く所属してるんだろう?」

「……絶対黒獅子にはなりたくないわ」


 とまあ、黒獅子寮はヤベえ奴らばっかりが集まっている印象だ。


 将来的に闇落ちしたり、犯罪に手を染めるような奴らが多い印象である。原作を読んだ限りだと。


「……さっさとモノリスに触れるのである。ドラコ」


 スネイア先生からにらみつけられる。

 すっかり嫌われてしまった……。


「はいはい、っと」


 俺はモノリスに触れる。

 その瞬間、俺の脳内に声が響いてくる。


 ーー問い。目の前に金が落ちている。君はどうする?


 モノリスに触れた瞬間、魔法が発動。

 精神世界にてモノリスと対話することになる。


 それによって適性が振り分けられるのだ。


 ええっと、金が落ちてる?

 そりゃ交番に届ける……いや待て!


 ここで交番に届けるって、正義の行いっぽくないか?


 そうだよ、正義の赤鷲寮の寮生みたいな回答しちゃ、だめだろ。


 俺は赤鷲はいやだ。ハリスと同じ寮なんてまっぴらである。


 ということは……黒獅子っぽい回答をすればいいわけで。


「着服します! 金は見つけた者のもんです!」


 ーー問い。目の前で子供が崖から落ちそうになっている。君はどうする?


 その後もこのような問いかけが数十と続いた。


 やがてモノリスの質問が終わると、精神世界から現実へと戻ってくる。


 この間、現実ではほとんど時間が経過していない。


「手を離すがよい。モノリスがくみ分けを開始する」


 スネイアに言われて俺は手を離す。


 やめてくれよ、赤鷲はいやだぞ。

 赤鷲だけはいやだからな。


 モノリスが4色に明滅する。

 赤→青→緑→黒……と。


 じ、じらすな。

 

 ほんとやめてね赤鷲はやだよ。赤鷲だけはやめてよ……。


 黒でいいから! 黒こい! 黒! 黒!


 ーー赤。


「ふぁ……!?」


 モノリスが示した色は、赤。

 つまり……赤鷲寮。


「あいえええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 なんで!? 赤鷲なんで!?


「せ、先生! やり直し! やり直し希望!」


 スネイアにそう嘆願するが、彼女はフンッ、と鼻を鳴らす。


「モノリスの組み分けは絶対だ。さっさと赤鷲のもとへゆくがいいドラコ」


「しょ、しょんにゃぁ~……」


 なんてこった……まさかハリスと同じ寮だなんて……。


 てゆーか! 原作だとマルコイ・ドラコは黒獅子寮に入ったじゃん!


 血統を重んじる性格のマルコイだぞこちとら!?


 どうしてマルコイが赤鷲なわけ!?


 困惑覚めやらぬなか、俺はとぼとぼと赤鷲寮生たちの座る机へと向かう。


「……うそだろ」「……なんでマルコイが赤鷲に」「……うわ、くんなよ」


 赤鷲寮生たちもみな、俺が黒獅子に行く門徒ばかりに思っていたから驚いているようだ。

 ……そのうえ、マルコイの悪評は周知の事実となっているから、みんなすんげえいやそうな顔してくる。


「やった! マルコイ君と同じだ! えへへ、うれしいなぁ!」


 唯一ロイだけが歓迎ムードだった。

 手招きするロイの隣座ると、周りの生徒達は俺から距離を取る。


 ふええ……嫌われ者だっぴ……。


 いやそうですよね! 原作ファンの人たちもマルコイのこと嫌いな人多かったし。


 僕心ぼくここ本編のキャラ達もマルコイを嫌ってから。


 はあ……黒獅子ならまだ、ここより居心地良さそうだよな。周りも血統主義者ばっかりだし、ドラコ家って名家だし……。



「……見ろよドラコ家の落語者が赤鷲にいったぜ」

「……らっきー、黒獅子に来なくて~」

「……あんな追放されたやつと一緒にされたら、こっちまで家の名前が汚れるものね」


 黒獅子から、そんな声が聞こえてきた。


 ふえええ……黒獅子でも嫌われてるのかよぉ……!


 そうか……そういえば俺、原作とは違って家を追放されてたんだっけ……。


 もう針のむしろじゃねえかよぉ……はぁ……。


 針……そうだ、ハリスは(雑な方向転換)?


「あれ? ハリス……いなくね?」


 赤鷲の寮生を見渡してもハリスの姿はなかった。


「なあロイ。ハリスは?」


「ハリス……?」


「ハリス・ホグワード……じゃなくてハリス・ドラコ。あいつも赤鷲だろ?」


 原作だとそうだったけど。


 するとロイは、ふるふると首を振る。


「違うよ」

「え?」


「ハリスって人なら……あっち」


 ……そのとき、俺はとんでもない者を見てしまった。


 ロイが指さす先には、黒獅子の寮生達がいる。


 その中に紛れて……。


「ハリス……! お、おま……なんでそこいるんだよ!?」


 主人公がいたのは、本来悪役のマルコイが所属するはずだった……。


 黒獅子寮だった。

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