20.禁断の森の調査
あくる日の夜、俺は禁断の森の中にいた。
「ご主人様♡」
「……なに?」
俺の隣には金髪の美少女(奴隷)のハーマイアが居る。
彼女は目を♡にして言う。
「野外プレイに、わたくし興味がありますの……♡」
「……さいですか」
「このマントがあればそれも可能ですわね♡」
状況を説明しよう。
先日、俺は授業中、
グリッタも言っていたが、飛竜は森の奥に居るはずだった。それが浅いとこにくるのはおかしい。
だから原因を突き止めるべく、透明化マントをかぶって森に調査に来たのだ。
……それと、もう一つ。俺は確かめねばならないことがある。
それは1巻のラスボスについての調査だ。
原作1巻のラスボスは、ノアールの意思に取り憑かれた教師がボスになっていた。
教師はノアールに生命力を捧げるべく森のモンスターを狩っていた。
原作でもハリスは森で教師と遭遇し、あとになってボスの目的が判明し、最終的にバトルという流れになった。
原作通りならば、今のこの森にはボスである教師がいるはず。できれば早めに悪の芽はつぶしておきたい。
……一人で調査しようとしたらなぜかハーマイアがついてきたのだ。まったく面倒な……。
「すごいですわね、かぶるだけで見えなくなるなんて。森のモンスターもこのマントがあれば気づかれませんわよね?」
「いや、それはない」
「え?」
結構、
単純に見えなくなるだけなのだ。
つまり……。
「ぎぃしゃー!」
茂みからゴブリンが顔をのぞかせ、こちらに襲ってくる。
「【
緑の閃光があびせられゴブリンが死亡する。
「も、モンスターはどうしてこちらに気づいたのでしょう?」
「マントは見えなくなるだけで、匂いとか音は普通にしゃだんできない。五感に優れるモンスターだと結構見破られることがあるから注意な」
人間の場合もまたしかりだ。魔眼持ちの先生に見破られるなんて展開もあったし。
「では、ここでマントをかぶっている意味は?」
「……まあ、要人のため。一年生は夜間外出禁止だしな」
それと森でボスの教師に出くわさないための措置だ。
「……しかし【
なおのこと闇の軍勢の手に渡らなくて良かったわ。
てゆーかハリスにこれどうやって返そう……。
あいつの私物だしな。
ややあって。
俺たちは森の奥へと進んでいく。
道中何回か戦闘があったものの、透明化【
「さすがご主人様ですわ! 大量のモンスターを一撃で倒していくなんて!」
「そりゃどうも」
「……あまりうれしそうではない?」
「まーズルみたいなもんだいしな、これ」
原作では大賢者の
だが俺は偶然それを手に入れた。
そして原作なら自らの命を捧げてやっと一回打てる魔法を何度も連発できている。
「原作者が知ったら怒るだろうなこれ……」
と、そのときである。
ぐちゅ……ぐち……ぐちゅ……
「ごっ、ご主人様……なにか聞こえませんか?」
「……ああ、聞こえるな。肉を食らってるような音だ」
これは原作にもあった展開だ。
ノアールに支配されたラスボスが、栄養補給のために、モンスターを襲っていた。
「……慎重に行くぞ」
こくん、とハーマイアがうなずく。
俺は忍び足で音のする方へと向かう。
「! ……いた」
黒いぼろ布を頭からかぶったラスボスが、倒れ臥すオークの肉を食らっていた。
やはり原作通りだ。てことは、こいつはあの【教師】だろう。
今のうちに、捕まえておくのがベストだ。
「……ご、ごしゅじんさま」
【
「ご主人様! 後ろ!」
ハーマイアに言われて後ろを振り返る。
「ブロォオオオオオオオオオオオオ!」
巨大なオーク……ハイ・オークのお出ましだった。
くそ! タイミングの悪い!
オークは感覚が鈍いとされている。だがやつらは鼻がきく。なにせ顔面が豚だから。
俺らに気づいたハイ・オークが拳を振り下ろす。
俺は
どごぉん! という音とともに地面が打ち砕かれる。
ここで【
だがハイ・オークは俺たちに狙いを定めたようだ。
「グロロロォオオオオオオオオオオ!」
なぜあいつじゃなくて俺を……いや、待て。
そうか、こっちにはハーマイアがいる。
オークは女の肉が好物なんだ! くそ!
「やるしかねえ」
飛び上がって回避した俺たちめがけて、オークが拳を振る。
俺はその拳の上に着地。腕を
倒れ臥すオークの腹の上に着地して、【
バランスの悪い足場で【
【
ゆえに足場が不安定な場合は使わないのが鉄則である。原作ではな。
「お、お見事ですわ……! ハイ・オークなんて一人では倒せません。教師でさえも……」
「ああ……だが……くそ……逃げられた」
気づいたら黒い布の男が消えていた。
この騒ぎだ、逃げても仕方ないだろう。
戦闘の際に脱げたマントを回収。
ラスボスが食っていたオークの死体の元へ行く。
……この光景も原作通り。
ならラスボスはやはり……。
『ぎしし……ぎしししし……』
「!? こ、今度はなんですのぉ……!?」
泣きそうになっているハーマイア。
森の木々がガサガサと揺れる。
そうか、原作だとここは【あいつ】の縄張りか。
『ぎし……おめえら……ここ……おでのなわばり……あらすやつ……ゆるさぬ』
どさっ、と枝の上から落ちてきたのは……。
「き、きゃあああああああああああああああああああああああああ! ば、化け物グモぉおおおおおおおおおおおおおお!」
「雲じゃないよ、アラクネだ」
一見すると巨大な蜘蛛。
だが下半身が蜘蛛なだけで、上半身は人間の女みたいな感じ。
アラクネ。たしかSランクモンスター、だったかな。
強力な麻痺毒と、即死性能を持つ前足。
「な、なんで冷静ですの!? こんな化け物を前に!」
「いや、だって……こいつは敵じゃないから。なあ、ラクネア」
ぴた、とアラクネが動きを止める。
『ぎし……? ど、ど、どうしておでの名前を知ってるんだ……?』
「そりゃ……」
原作で読んだからな、とは言えない。
「グリッタと俺はマブダチだからな」
アラクネのラクネア。
このモンスターはかつてグリッタが学園に通っていた頃、こっそりと育てていたモンスターだ。
それを学園に見つかってしまい、処分されそうになったところを、グリッタがここに逃がしたのである。
ラクネアは赤ん坊の頃から
『ぎし……ぎしし……』
ラクネアが俺に近づいてくる。
すんすん、と鼻を鳴らす。
『ほんとだ。おめ、グリッタの匂いする。体から、グリッタの汗、ぷんぷん』
それは多分えっちしたからですよね……。
シャワーで洗い流したけど、嗅覚に優れるモンスターだと気づくのかな。
『ぎし……おめ、グリッタの男か。なら縄張りあらした、許す』
「あ、あはは……ど、どうも……」
『ぎし……最初、おでの名前知ってる、おめ……妖しい。ぶち殺そうとした。でも、グリッタの男。殺すわけにはいかない』
やべえええええええ!
え、間一髪だったって事?
グリッタとセックスしてなかったら死んでたって事?
あ、危ねえ……。てかそうだよな、向こうからしたら初対面なのに、名前知ってたら妙だって思われるもんな……。
「す、すごい……さすがご主人様ですわ!」
きらきら……とハーマイアが目を輝かせる。
「Sランクの化け物を従わせてるなんて! すごい!」
いやまあ……別に従わせてるわけじゃないんだが……。
『ぎし……おめ、子供。なんで禁断の森きた?』
そうだ、ラクネアなら知ってるはず。
「調査だよ。なあ……ラクネア。この森に頻繁に人が入ってきてないか?」
『ぎし、そうだな。ここ数日、おでのなわばりあらすやついる。おでめーわく』
怖い見た目しているが、結構びびりなんだよなこいつ。もちろん人間に対してだけだけど。
さて、俺は確信を得るために尋ねる。
「そいつは、大人の男だな?」
1巻のラスボス。名前は【クィンティ】。
闇魔法の授業の先生だ。
クィンティは体をノアールに支配されており、大賢者の赤石を手に入れるべく画策していた。
クィンティがこの学園に所属していることは確認済みである。
もしも原作通りなら、ここでラクネアはうなずくだろう。
『ぎし? 大人の男じゃない。大人の女だ』
「なっ、お、大人の……女?」
原作と違う! 大人の女……?
一体誰が……。いや、原作となぜ違うんだ?
「何をぼさっとしてる! 死にたいのかドラコ!?」
ぐいっ、と誰かが俺の襟首をつかんで引き寄せる。
どさっ、と地面に尻餅をつく。
「! あ、あんたは……スネイア先生」
本編の重要キャラ、セリム・スネイア先生がそこにいたのだった。
こいつは女教師……ま、まさか……。
いやでも、こいつは味方陣営のはず。
なら、どうしてここに?
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