19.学園長から秘密のアイテムをもらう
早朝、俺は学園長ガンダルヴの部屋へと連れてこられた。
博物館と図書館を足したような部屋のなかを見渡す。
「こっちだよ。おいで、コーヒーを入れてあげよう」
スーツ姿に眼鏡の美女、ガンダルヴ学園長。
原作では凄い魔法使いであり、彼女はこの世界の賢者とも言われている。
部屋の隅にあるソファセットに座る。
「さて、君の体に起きてることを説明しよう」
「はい、俺急に体が熱くなって……」
禁断の森で、凄まじい量の魔力を放出した。
その後ヒロイン達と寝た。なんだったんだろうか。
「結論を言おう。マルコイ。君の体が大賢者の
「赤石と……同化?」
「うむ。知っての通り君の左目に収まっている赤い石、大賢者の赤石は莫大な魔力を生み出す魔道具だ。それを君は体の一部にはめている状態。が、時間が経つにつれてその石が君と同化しだしている」
「俺自身が、赤石になりかけてる……ってことですか?」
「その通り。その弊害として君の体は以前よりも多くの魔力を生み出すことになった。と、同時に、ため込んだ魔力を持て余してるのだ」
原作の設定によると、人間の体には、大気中の
人間の魔力は生まれてから一定とされているが、子供の頃魔力を鍛えていれば魔力量は増える。
だが、子供の期間を過ぎると魔力は鍛えられない……という設定があった。
「俺自身が生み出す魔力量が増えてるんですね」
「そう。そして君の体はまだその生み出した魔力を処理し切れていない。このままでは暴走し、最悪からだがはじけ飛んで死ぬ。水を入れすぎた水風船のようにね」
俺の脳裏に体がはじけ飛んで死ぬイメージがよぎる。
ふええ……怖いよぉ……。
なんだってマルコイは破滅とセットなんだよ!
「じょ、状況は把握しましたけど、でも俺が女子たちとその……やったのはどういうつながりが?」
「魔力を吐き出そうと、君の体が無意識に女を求めたのだろうね」
「よくわからないのですが……」
ガンダルヴ学園長は立ち上がって、俺の隣に座る。
ふわ……と大人の女のにおいがした。
「君、尿意を催したとき、どうする?」
「どうって……トイレに行きますけど」
「それと一緒さ。人間はため込んだ尿を尿意という形で脳に伝え、そして排出する。魔力もまたため込んだものを外に吐き出せと脳に命令を伝えた。その結果、ああして暴走を引き起こしたってことだ」
「魔力のため込みすぎによって、脳が性欲をかき立てた……ってことです?」
「そう。魔力を外に出す行為、これを一番手軽に、かつ快楽的に行う手段。それが男女の性行為なのさ」
魔力移し。これは女に男の魔力を移す技術。
一番効率の良い写し方は粘膜接触、つまり男女の場合はセックス……らしい。
だから! そんな設定、ラノベに書いてなかっただろうが!
いや、でも……しょうがないか。
一般向けのライトノベルは中高生も読むし、こんなエロラノベみたいな設定は付けられないか。
そんなのやったら書籍化できないだろうし……。
「君の暴走は魔力を外に吐き出そうとする無意識の行動さ。今後も定期的に訪れるだろうね」
「ええー……困るんですけどすっごく……」
突発的に意識を失って女を襲うって事だろ?
なにそれレ×プ魔じゃん……。普通に嫌なんですが……。
「なら定期的に魔力を抜かねばね。幸いにして可愛い女の子が近くにたくさんいるようだし」
ハーマイアやアリアのことを言ってるだろうか……。
「ラッキーじゃないか。都合の良い女がいるなんて」
「いやでも……だからってさすがに……」
「しないと体が爆発して死ぬけれど?」
なんでいつだって死がからんでくるんでしょうね、
「まあ……その、現状については理解しました。やらないといけないことも、まあ」
ようするに今のままだと魔力を持ちすぎて体が爆発してしまうから、魔力移しを用いて、定期敵に魔力を抜かないとイケナイってことだ。
「だが毎晩君も寮で性行為を繰り返せばさすがに苦情も来るだろう。また、突発的な性欲に駆られることもこの先ある」
「確かに……結構問題がありますね」
「うむ。そこでこのアイテムを君あげよう」
学園長は胸ポケットから、1つの小さなカギを渡してくる。
「これはなんですか?」
「私の所有する
「ぶっ……! は、それ……え、重要アイテムじゃないですか!?」
「このカギを持っていれば、いつでもどこでも秘密の部屋へと行ける。こんなふうに」
学園長は俺からカギを受け取ると、何もない空間に向けてカギを回す。
がちゃり、という音とともに光の扉が開いた。
手招きする彼女とともにドアをくぐると、そこには豪華な部屋が広がっていた。
「ここは持ち主が必要と思った部屋を空間に構築する」
「必要の部屋じゃないですか……」
「おや、知ってるのかね?」
「え、ええ……まあ……」
原作で知ってるからね。
本人が必要、と思ったものを部屋の中に作る。ベッドが欲しいと思ったららベッドが出てくるみたいな。
「この秘密の部屋も必要の部屋と同じ構造となっている。つまり女との性行為に必要だと思われた物が出現する。みたまえ」
超高級ベッドのわきには、避妊具、ローション、ローター、エトセトラ……。
エログッズ満載だった。
「名付けて秘密のヤリ部屋」
「最低だ! 最低だよあんた!」
「しかし外で突発的にやりたくなったときに必要じゃないかい? まさか人前でおっぱじめるわけにもいかないだろう?」
確かにそうなんだけれども!
なんかやだよ!
俺たちは部屋から戻ってくる。
「見ての通り空間魔法を使った非常に希少な魔道具だ。無くさないように」
学園長から渡されたけど……あんまり使いたくないな、この秘密のヤリ部屋のカギ……。
「もう一つ、魔道具を君に貸したいところだけど、あいにくとそっちは持ち主に返す予定でね」
「もう一つ、ですか?」
ガンダルヴ学園長はうなずいて、部屋の壁に掛けてる薄い布を指さす。
「! それって……【透明化マント】……ですよね?」
「ほぅ……よく知ってるね」
知ってるも何も、
文字通り、身につけると見えなくなるというアイテムである。
ハリスはあのマントをかぶり、いくつものピンチや試練を乗り越えてきた。
「このマントがあれば外でもし性欲を催したとしても、かぶってふたりで性行為できる、君にとって都合の良いアイテムだろう。だが……これは借り物でね」
知っている。
これは本来ハリスの父親の所有物だ。
ハリス父からガンダルヴが研究のために借り受けていたものである。
本当は父に返すところだったが、その前にノアールに殺害されてしまった。で、今年のクリスマスにガンダルヴがハリスに返却する、というのが原作の流れである。
「いや、いいですよ、このカギだけで十分」
「そうかい?」
「ええ。本来の持ち主に返してあげてください」
しかし透明化マントって、今思うとやばい代物だよな。
だってあれ、ハリスが正義の男だったから良かった物の、もしも悪いやつの手に渡ったらやばいだろう?
かぶれば見えなくなるんだから、暗殺し放題じゃないか。
ほんと、ハリスが原作で善人で良かったよ。
『ぐへへ……なるほどなぁ……おまえに使われた方がよさそうだなぁ……』
「ん? 学園長、何か言いましたか?」
ふと、男のような声がどこから聞こえてきた。
「いや、別に」
「なんか声がしたような気がしたんですが……」
どうやら気のせいのようだ。
「おっと、話しすぎたようだね。すぐに行くといい。と言っても、今日は休日だ。好きに過ごすと良い」
カギをもらった俺は、学園長の部屋から出て行く。
やれやれ……秘密のヤリ部屋のカギか。
とんでもないアイテムをもらっちまったな……。
俺はその足で赤鷲寮の自分の部屋へと戻る。
「ただいまー」
「あんっ♡ あんっ♡ あーん♡」
……部屋の中でアリアが、その……おっぱじめてた。
自分で自分を慰めてやがった……!
「な、何やってんだよアリア!」
人のベッドでぇ!
「!? ま、マルコイ様!? い、いずこに……?」
へ? なんで?
俺は普通に部屋に入ってきた。だがアリアは俺に気づいていない。
「じょ、冗談よせよ。目の前にいるだろ」
「い、いえ……見えません! マルコイ様のお姿が、どこにも?」
ど、どうなってるんだ……?
『そりゃあおれっちの効果だZE★』
突如、男の声が脳内に響いた。
「うぉおお!」
俺は驚いてその場で尻餅をつく。
すると、ふぁさ……と何か布のようなものが、地面に落ちた。
「あ! マルコイ様! やっと見つけた……」
どうやらアリアに今の俺が見えている様子。
え、え、なんで? 急に見えるようになったんだ?
すると床に落ちてるマントに、くしゃり、としわが寄る。
そのしわはよく見ると、人の顔のように見えた。
『YO! ブラザー! おれっちの声がどうやら聞こえてるようだNE!』
マントのしわがくしゃくしゃと動くと同時に、男の声が聞こえる。
「だ、だれおまえ?」
『透明化マントだYO★』
え、えええええええええええ!?
と、透明化マントってしゃべれるのかよ!?
原作だとしゃべってなかったぞ!?
またしても俺の知らない設定が出てきた!
え、小説の設定って、表に出てない設定も、設定集に書かれてない設定もあるってことなの!?
そういうものなの小説って!?
『おれっちブラザーについてくことにしたZE★』
「な、なんで……?」
『だぁって! あんたといれば女と野外でニャンニャンしてる姿を、間近で見れるんだろぉ! げへへへ! おれっちそういうの大好きなんだZE★』
変態だ! 変態マントだ!
「いや、あんたには本来あるべき所有者の元に送られるんだが……」
『いや! おまえさんが真の所有者だZE! おれっち確信した。あんたがおれっちの真のマスターだってYO! 上手に使ってくれよNA★』
こうして、秘密の部屋のカギと、そして主人公が本来持つべき透明化マントを手に入れたのだった……。
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