06.学園長ガンダルヴ、と入学決定
『おーい起きるのじゃ、おーい』
うっすら目を開けると、そこには半透明の、全裸の少女がいた。
ふわふわとした髪の毛に、幼い見た目。
「なんだ夢か……」
『あはは! 夢じゃないぞー!』
ぺちん、と全裸の少女にたたかれる。
……たたかれる?
「あんたは……?」
『わしはミネルヴァ2号』
「みね……なんだって?」
『ミネルヴァ2号。ま、ミルツとでも呼ぶが良いぞ』
全裸女は笑いながら俺の腹の上に馬乗りになる。
「……マジでだれおまえ?」
『おぬしが救ってくれた大賢者の赤石にこめられた、意思じゃ』
……そうか。
だが作中では赤石の意思と会話できたのは、作中【ただ一人】だけだったはず。
ハリスはもちろん、マルコイですら無理だったような……。
「坊主! 起きたか!」
部屋のドアが開くと、赤髪の竜人グリッタが入ってきた。
俺をぎゅーっとハグする。
「ありがとう恩人! おれはおまえさんにお礼が言いたくてなぁ!」
ぎゅー! ぐえー……苦しい……。
そしてでけえ胸で窒息しそう……。
『こりゃー! わしのマルコイを離せあほー!』
すかっ、すかっ、とミルツの手が空を切る。
ミルツの声はグリッタには届いてないみたいだし、触れることもできないのか。
「ぐ、グリッタ落ち着いて。離してくれ」
「おお、これはすまんかったな」
グリッタは簡単に事情を説明してくれた。
近くの治療院(病院な)に運ばれて治療を受けたそうだ。
身体に異常は全く問題ないらしい。
冒険者にも騎士にも死者は出なかったそうだ。
「赤石も奪われることなく、おれもみんなも無事だった。おまえさんのおかげだ。本当にありがとう、恩人よ」
ベッドサイドに座るグリッタが、深々と頭を下げる。
「どういたしまして」
まあとりあえずイベントはどうにか切り抜けられた。あとはまあ関わらないように生きていけば……。
「ぜひともおまえさんに、お礼をしたいのだが!」
グリッタが俺の手を握って、ずいっと顔を近づけて言う。
「い、いや……いいよ、お礼なんて」
「なんと謙虚な男だ! ますます気に入った!」
いや謙虚じゃなくてあんたと関わると、本編にいやでも参戦しないといけなくなるからいやなだけなんだが……。
できればお近づきになりたくない……。
「お礼させてくれ! 何でもいいぞ!」
「いやマジでいいって……」
「おれでもいいぞ!」
オレデモイイゾッテナンデスカ?
『むー! はなれろ! マルコイはわしのじゃ! わしのマルコイなんじゃー!』
透明なミルツがぽかぽかとグリッタをたたこうとしている。
え、なに? 赤石からも気に入られてるの俺……?
とまあ困惑していたそのときだ。
「何をしてる? 病室では静かにしろ」
がらっとドアが開いて、白衣の男が入ってくる。
……その瞬間、俺は凍り付く。
こ、こいつは……! なんでこんなところに!
「す、すみません……」
「診察の邪魔だ。君は出て行ってくれたまえ」
「は、はい……またな、坊主」
グリッタは医者に言われて病室を出て行く。
いやなんで……いや、そうか。
グリッタはこいつが誰か気づいてないのか。
部屋には俺と医者の二人きりになる。
なんのようなんだろうか……。
『どうしたのじゃマルコイ? こわばった顔して。お腹でもいたのかの……?』
心配そうにミルツが俺を見上げてくる。
「いや、大丈夫だから」
「そう。この少年は別に腹が痛くて入院してるわけでないから、安心なさいミルツ」
ミルツと医者は会話していた。
ああ、そうだよな……やっぱり……。
「君は驚かないのだね。私が見えない存在と会話してることに」
「あ、いや……」
「まるで君は私の正体を知っているようだ」
ぱちん、と指を鳴らす。
するとその場で医者の顔が、ぐにゃりと変化する。
男の医者から、スーツ姿の、藍色の髪をした眼鏡の女に。
アーガス・ガンダルヴ。
アイン魔法魔術学校の学園長だ。
変身魔法を得意としており、千の顔を持つと言われている。
驚くべきは、変身した相手の能力までもをコピーするというとんでも能力だ。
「自己紹介しよう。と言っても、君は私を知ってるみたいだがね」
「い、いや……ま、まあ……この業界に居れば、あんたを知らない人はいないんじゃないっすか? ガンダルヴさん」
千の顔を持つ英雄ガンダルヴ。
闇の魔法使いノアールをひん死一歩手前まで追い詰めたのは、何を隠そうこの魔法使いがいたからだ。
「確かにこの姿の私は有名人だ……が、先ほどの医者の姿を知ってる者はごく少ないと思う。なんだったら、ついさっきここに来たとき、顔をコピーさせてもらったのだけどね」
ま、まずい……。原作で知っていたから、なんて言えない。
この医者の姿は原作1巻の終わりに、怪我をしたハリスのもとにくるとき、この人が変身したから知ってた。
「それに私以外にミルツが見える人間を初めて見たよ」
『マルコイはやらんぞ』
ミルツが俺に抱きついてガンダルヴを威嚇する。
苦笑した彼女は俺に言う。
「そうだ、まずはお礼を。ありがとう。君のおかげでミルツが敵の手に渡らずに済んだ。本当に感謝してる」
スッ……と世界最高の魔法使いが、俺に頭を下げる。
同時に申し訳なさを覚える。別に俺は、単に自分の生活のために戦っただしな。
「是非とも君に……」
「あー、だからお礼は要らないんで、もうこれ以上妙なことに首ツッコみたくないんで、帰ってもらってもいいですか?」
ちょっと失礼な言い方になったろうか。
いや、でもこれでいいだ。嫌われるくらいでちょうどいい。
……ガンダルヴなんて、本編の重要人物中の重要人物じゃないか!
ぜっっっったい関わりたくない相手トップ10に入るよ!
「大賢者の赤石を持って帰ってくれませんかね?」
「それがそうもいかないのだよ」
「なんで?」
ガンダルヴは懐から何かを取り出す。
化粧用の手鏡を俺に向けてきた。
「な、なんじゃこりゃー!」
そこにはマルコイが映っている。
黒髪に金の目の少年……だったはずが。
左目だけが、ルビーのように赤くなっていた。
「なんで目が赤くなってるんだ!?」
「それは君の目が、大賢者の赤石と同化したからだよ」
「目と同化だって!?」
うむ、とミルツがどや顔。
「なんでこうなってるの!?」
『わしがおぬしを気に入ったからじゃ!』
赤石に気に入られた俺は、この子に取り憑かれた……ってことか。
「これは困ったね。赤石は超重要アイテムだ。一般人に与えるわけにもいかない」
「っすよねぇ~……。あはは、どうしよう……」
なんだろう、すごい、いやな予感がします……。
「そこで……だ。君、マルコイ・ドラコ君」
にこっ、と学園長が笑って言う。
「私ガンダルヴが学園長を務める、アイン魔法魔術学園に入学しないかい?」
本編の舞台じゃないかぁああああああああああああああ!
「い、いやいや! の、ノーサンキューで!」
なんでハリスもいる、本編の舞台に乗り込まないといけないの!? 破滅するぞ俺が!
「それは困るね。そうなると君の左目をえぐり取る必要があるのだが……」
「いやだよ! 目失いたくないよ!」
「なら私の庇護下に、魔法魔術学園に通うほかないね」
……本編の舞台に乗り込むなんて死んでもごめんだ。
でも……だからといって左目を失うのも御免被る。
どうする……。
いや、でも左目が赤石になってしまった以上、これから大勢の闇の魔法使い達が、俺を狙ってくるだろう。
そのときに俺一人では対処できない。
……結局は。
「お世話に……なります……」
「ありがとう。ま、君が断ったとしても、私の権限で無理矢理入学させるつもりだったけどね。あっはっは」
……かくして俺は魔法魔術学園に入学する羽目になったのだった。
チクショウ、どうしてこうなった。
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