07.【ロイ・ウィザーズ】メインヒロインとの出会い



 あっという間に魔法魔術学校の入学式の日になってしまった。


「鬱すぎる……」


 俺がいるのはゲータニィガ王国の王都。


 ここから、アイン魔法魔術学園に向かう馬車が出るのだ。


「マルコイ様。学園は王都にあるのですか?」


 メイドにしてヒロインのひとり、アリアドネが俺に尋ねてくる。


「いや、【学園島】ってとこにある」

「がくえんとう……ですか」


「ああ。大陸北西部にある大きな島でな。王都から出るユニコーンの引く特別な馬車じゃないとたどり着けない。そこにアイン魔法魔術学園があるんだ」


「そうなんですね! すごい、マルコイ様は博識なのですね! 学園に特別入学できるわけですし!」


 博識というか原作読んでれば誰だって知ってることだ。


 しかし……緊張するな。

 今から僕心ぼくここの本編の舞台にいくわけだから。


 なんとしても俺は破滅したくない。

 本編の舞台に無理矢理いく波目になった。


 しかし! まだ俺が生き残る道は残されている。


 それは……本編キャラと関わらないこと!


 僕心ぼくここの本編では、ハリスは様々なヒロインと交流を持つ。


 特にメインとなる2人のヒロインがいる。


 ハリスと行動を常にともにするメインヒロインたちと、関わってはいけない。


 それはつまりハリスと関わることになるからな。


「君子危うきに近寄らず……だ」


 さて、生徒達は馬車に乗って学園島へと向かう。


 つまり馬車に乗ると必然的に本編キャラに会う可能性がある。


 ゆえに……。


 俺は馬車乗り場からきびすを返す。


「ま、マルコイ様? どちらに? みなさん馬車乗り場へゾクゾクと行かれてますけど」


「ちょっとトイレに」


「ではわたしも!」


「あー、その、あれだ。おまえは先に馬車乗ってろ。俺はその……そうだ。次の馬車に乗ってくから」


 もうまもなくすると馬車が出発する。

 しかも学園行きの馬車はこの日、この一本しかない。


 次など存在しない……が、アリアはそのことを知らない。


「馬車にトイレなくってさ」

「でしたらわたしも……」


「せかされると出るものも出ないんだよ。ほら、乗って早く」


 アリアドネは不承不承と行った感じで、馬車乗り場へと向かっていった。


 よし。あとは馬車が出発したあと、【あの方法】で学園島へ向かえばいい。


『まもなく、アイン魔法魔術学園行きの馬車が出発します。生徒の皆様は絶対に乗り遅れないようにしてください。繰り返します……』


 さて馬車が出発するまで茶でも飲んで時間を潰そうか……。


 と、思っていたそのときだ。


 学生達の流れに逆らって歩いたからか……。


 どんっ!


「きゃっ!」


 がしゃんっ! と誰かとぶつかってしまった。


「お、おい……だいじょ……ぶ!?」


 ぶつかった女に……俺は見覚えがあった!


 ふわふわとした栗毛、鼻の上には少しのソバカスが目立つ。


 ま、間違いない……!


「ろ、ロイ・ウィザーズ!」


 ロイ。僕心ぼくここのメインヒロインの一人だ!


 ハリスの学園生活において、もっとも彼の近くに居て、彼の良きともとなるメインキャラじゃねえか!


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……あたしドジで……」


 ロイの手荷物があたりに散らばっている。


 ぶつかった拍子に持っていたトランクを落としてしまったようだ。


「あ、ああ……その、こっちも悪かった。荷物拾うの手伝うよ」


「い、いえ! あ、あたしなんて……手伝ってもらう価値なんてないですし……」


 原作のロイは、少々ネガティブな性格をしていた。


 ウィザーズ家は伝統ある魔法使いの家のひとつである。


 たくさんの優秀な魔法使いを輩出している。


 特にロイの兄姉には凄い魔法使いが多く、ロイは彼らと比較してしまい、自分に自信が無い子、という設定だ。


「いいから、ほら」

「あれ!? あんなに散らばってた荷物が、もう集まってる!? な、なんでですか!?」


 身体強化エンハンスを使って体を強化し、ちゃちゃっと集めたのである。


「はいよ。怪我はないか?」

「あ、はい……大丈夫です……」


「良かった。まだ馬車は出発してない。早く馬車に乗った方が良い」


【翻訳】おまえと関わりたくないからさっさと消えてくれ。


「あ!」

「ど、どうした?」


 ロイは青い顔をして声を張り上げていた。


「す、スキニーズが……」

「はい? スキニーズって……ああ! あのハムスターの使い魔の?」


 ロイにはスキニーズという、ハムスターの使い魔がいるのだ。


 こいつが本編に関わってくるのだが……。って、しまった!


「え? な、なんで……スキニーズがハムスターって知ってるんですか……?」


 ですよねー! しまったー! つい口を滑らせてしまった。


 そうだよ、本人以外ハムスターの使い魔がいるなんて知るわけがないじゃないか!


「あ、えっと……ほら! それ! その籠!」


 ロイの持ちのもののなかに、鉄格子の籠があった。


 そこにはスキニーズという名札がついてる。

「え、でも……」


「大変だ! スキニーズを探してくる! だからおまえは馬車に乗れ!」


「え? え?」


「いいから馬車乗ってろ! いいな!?」


 俺は身体強化を使ってロイから離れる。


 っぶねえ……またミスっちまうところだった。


 どうにも、この原作の通りに話を進めようとする運命の力ってやつは、強大のようだ。


 俺は裏路地に隠れて、ひと息つく。


「参ったねほんと……」


 さて。スキニーズ。ロイが兄姉からお下がりでもらった、老いたハムスター……。


 しかしそのハムスターには重要な設定があって、そのせいでハリス達はピンチになる……のだが。


 それは原作3巻で明らかになる展開。

 つまり未来の出来事。


「別にハリスがどうなろうと俺には関係ないが……しかしあのドブネズミがノアール復活に繋がるんだよな」


 闇の大魔法使いノアール。

 僕心ぼくここにおける最大の敵。


 そいつが原作の途中で復活するせいで世界はやばいことになって、死者が多数出る。


 そのなかでマルコイも死ぬわけだ……。


 つまり、だ。


「ノアール復活は阻止しないといけない。そのきっかけのひとつとなるスキニーズは……潰のがベスト」


 あくまで自己防衛の手段だ。

 別にハリスを助けるわけじゃない。


「ミルツ」

『なんじゃ?』


 俺の前に全裸の幼女が出現する。

 こいつはミルツ。俺の左目におさまってる、大賢者の赤石に宿る意思である。


「たしか大賢者の赤石って、【索敵】ってスキルがあったよな」


 この赤石には無限に近い魔力以外もオプションとしてスキルが付随されている。


 索敵は、周辺にいる敵……もっと言えば魔力を感知するスキルだ。


「周囲のマップとともに索敵を実行してくれ」


『わかったぞ!』


 俺の視界に周辺地図が出てくる。

 左目が赤石となってるから、こういうふうに表示されるのか。カーナビの画面みたい。


 矢印がいくつもあって、これが魔力の持ち主。アニメと同じ描写だ。


「さて……と」


 俺は矢印の動きを見て、【敵】の居場所を発見。


 身体強化で飛び上がって、屋根を伝って、そいつの元へ向かう。


 少し離れた路地の裏にて。


「動くな、裏切り者の【ピーター・ペテンシィ】。動いたら……殺す」


 地面に這いつくばっているハムスターに向けて、俺は杖先を向けて、そう言うのだった。

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