08.またしてもヒロインを寝取ってしまう



 ピーター・ペテンシー。

 原作ではノアール陣営と内通していた裏切り者だ。


 ハリスの両親の仲間のふりをして近づいて、闇の魔法使いをおびき寄せたという過去がある。


 ペテンシーはハムスターの姿をしてるが、これは変身魔法によるものだ。


 ハリスの両親を殺した罪から逃れるため、こうしてハムスターに化けて、ロイたちの使い魔として身を隠してるのである。


 そして将来的にハリス達を裏切り、ノアール復活のトリガーとなる人物である。


 王都の路地裏にて。

 俺は杖の先をハムスター姿のペテンシーに向けている。


「今更ハムスターのフリしても無駄だぞ。魔力を持ってるハムスターなんて、いないからな」


 魔力を持っているのは人間と魔物、そして魔族といった、魔法適性を持つ生き物だけだ。


 動物は基本的に魔法適性を持たない。つまりハムスターの姿をしてなお魔力を持つこいつは、ただのハムスターではないということ。

 索敵スキルで魔力を持つ生き物を探知した。

 そのなかで、馬車乗り場へ向かおうとしなかった動きをしていたのが、こいつだった。だから特定できたのである。


「おまえに個人的な恨みはない……が、将来的におまえがいると俺が困るんだよ」


 ぶるぶる……とハムスターが振るえている。

 そりゃそうだ。ドラコ家は闇の魔法使いの勢力、つまりペテンシーからすれば俺はこいつと仲間ってことになるからな。


 さて。


 この裏切り者をどうしてくれるか。

 生かしておいても百害あって一利なし。


 殺しておくのがベストではある。


 ……ただ。


 こいつはロイの大事なペットでもあるんだよな。


 殺すのは、忍びない。


「【絶対服従マリオネット】」


 結局、服従の魔法を使い、本当にただのハムスターとして過ごさせることにした。


 ハリスの親を間接的に殺したキャラクターであり、死んで当然の罪人。


 罪には罰を。一生ハムスターとして生きるという罰を与えることにする。


「ふぅ……」


 とりあえずこれで、ノアール復活のきっかけとなる人物を封じたことになる。


 これでノアールが復活しないとうれしいんだが……。


「あとはこのハム太郎をロイに届けるだけだ」


 と、そのときだ。


「あ、あの……」

「! おまえ……なんでここに?」


 栗毛の少女、本編キャラのロイが俺の元へとやってくる。


「スキニーズが、気になって……つい……」


 馬車に乗らずにペットを探していたのか。

 そう、この子にとってこのペットは心の支えなんだよ。だから殺さなかったとこがあるんだ。


 俺は破滅したくないだけで、別に僕心ぼくここが嫌いなわけじゃない。


 キャラが嫌いなわけではないのだ。

 押しキャラには生きててもらいたいだろ? ……まあ関わりたくないけど。


「ほら」


 俺はペテンシー、もといハムスターをロイに渡す。


「どうやって……?」


 呆然と彼女がつぶやく。


「まあ、気にすんな。ぶつかった俺も悪かったし」

 

 彼女がうつむいている。

 ぽたぽた……と涙を流していた。


「あり……がとうございます……ありがとう……」


 善意でやったわけじゃないから罪悪感を覚える。


 とはいえ、まあ泣かせることがなくて、良かったよ。


「あの……君……名前は?」

「俺? マルコイ・ドラコ」


 ロイが目を丸くして俺を見つけてくる。


「マルコイ・ドラコって……あの?」


 あの、がどのを差しているのか定かではない。


 だがドラコ家は闇の魔法使いで有名だし、そこのせがれ、マルコイは傲慢なくそが気だってことは、魔法使いの間では結構有名な話だ。


「そっか……噂ってあてにならないね」

「はえ?」


「だって……君、すっごくいい人だもん」


 ロイが赤い顔をして微笑んでいる。

 ……あれ? なにこれ? なにその潤んだ瞳……?


「と、とにかく俺はこれで……」


「あ、ま、待ってマルコイ君」


 マルコイ……君?


 おかしい。僕心ぼくここ本編では、ロイはマルコイを呼び捨てにしていたはずなのに……。


 ま、またしても原作とは違う展開に……!?


「な、なんすか……?」

「これからどうしよう……アイン魔法魔術学園まで。馬車はもう出ちゃってるし……」


 学園までの道のりは馬車を引くユニコーンしか知らない、という設定がある。


 だが俺は原作をよく知っているので、学園島の場所は知ってる。


「…………」


 ここであまりロイに関わりたくない。てゆーか、すでにもうなんか結構強固な関わりできてるし……。


 でもロイを置いていくのは気が引けた。

 元はと言えば俺がぶつかったせいでロイは荷物をぶちまける羽目となったのだからな。


 ……しかたない。この子を連れて学園島までつれて行くとしよう。


「なあロイ。そんな落ち込むなって。俺が学園島まで連れてくから」


「え、ええ!? そんなこと……できるの?」


「ああ、俺に任せときな」


    ★


 王都から出発する普通の馬車に乗って、俺はウォズという漁村までやってきた。


「ここからどうするの?」


 海岸に並び立つ俺とロイ。


 学園島行きのユニコーン馬車は、このあと海上を走って行った。

 

 だが当然だが普通の馬に海は渡れない。


「そこでこいつですよ」


 俺の手には1本のホウキが握られている。


「ホウキ……ってまさか飛んでくの? まだわたしたち飛行魔法習ってないけど……」


 ホウキにまたがっての飛行。

 これは魔法魔術学校の授業で習う。


 現時点でロイもマルコイも習得していない魔法だ。


「いや、こうするんだよ。【身体強化エンハンス】」


 俺は赤石から魔力を借りて、自分の体を最大限強化する。


 ホウキをダーツのように構えて、そして……。


 ぶんっ……!


 ぎゅぅうううううううううううううううううううううううううううん!


「ほ、ホウキぶん投げてどうするの!?」


 身体強化のおかげで凄まじいスピードで、海の向こうまですっ飛んでいくホウキ。


「こーすんだよ」


 俺はロイの首根っこをつかんで、思い切りジャンプ!


 飛んでいくホウキに着地し、そのままホウキに乗って飛ぶ。


「こ、こんなホウキの飛びかたしてるひと、初めて見たよ!」


 でしょうね。俺も作中でこれやってる人みたことないわ。


 でも赤石の膨大な魔力を使っての身体強化魔法を使えば、できるかなって思ってやってみたのだ。


 結果、できた。人生なんとかなるもんだ。


 学園島の方角は知っていたので、そのまま直進していくと……。


「見て! マルコイ君! 島だよ!」


 何もない大海原に突如ぽつんと、緑の島が見えた。


 ここが学園島。アイン魔法魔術学園のある無人島である。


「良かった……学園から退学させられるところだったよ……マルコイ君のおかげだよ♡」


 えへっ、と可愛らしく笑うロイ。


 原作でマルコイにそんな笑み浮かべてませんでしたよね、君……?


「って? ん、あ、やっべ」


 このまま直進していくと、学園の裏にてある【あれ】にぶつかってしまう。


「ロイ。降りるぞ!」


 俺はロイをつかんでホウキから飛び降りる。

 身体強化魔法のおかげで高所から飛び降りても全然平気だった。


 だが……。


 あまりに勢いを付けすぎたホウキは、そのまま【それ】に激突した。


 どがぁああああああああああああああああああああああああああん!


 ……森の中に一際大きな【樹】があった。

 これは作中でもキーとなる大樹だったのだが……。


 俺がぶん投げたホウキの直撃を受けて、消し飛んでしまった。


「す、すごい……わたしこれ知ってる。【暴虐の大樹】でしょ! 近づいたら最後、トロールだってボコられて死ぬっていう……あの……」


「ああ、ですね……」


 暴虐の大樹は俺の投げたホウキのせいで粉砕されてしまった……。


「す、すごいね……マルコイ君。なんてパワー」


「あ、あはは……どうも……」


 ロイの俺を見る目は、どこか輝いてるように見えたのだった。


 ……てか、これどうしよう。

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