05.即死の力で竜をワンパンする



 ゴルドガッツ銀行の地下へと、俺は番人グリッタとともに向かった。


 この銀行はなぜか地下ダンジョンになっていて、預けた人たちの財産を地下部屋に隠しているのである。


 少額の場合は浅い層に、高額、あるいは凄いレアアイテムの場合は深い場所に収納されているのだ。


「ここだな」


 トロッコを操作し、俺は地下深くへとやってきた。


 岩の扉が置いてあって、中央にはカギを差し込むスペースがある。


「カギを」

「あ、ああ……本当にここであってるんか?」


 グリッタはここに来たことがないらしい。

 まあ預けたのはこいつじゃないしな。


「問題ないよ」


 彼女からゴツいカギをもらって、鍵穴に差し込む。

 

 ごごご……と音を立てながら扉が開いた。

 俺たちは中へ入ると、そこにはバカ広いスペースがあった。


「あれだ」


 中央には台座が一つあって、そこには真っ赤な石が鎮座されてある。


 大賢者の赤石せきせき僕心ぼくここ第1巻のキーアイテムだ。


 膨大な量の魔力を秘めた特別なアイテムである。


 グリッタはそれを回収して、懐へとしまう。


「坊主。このことは……」

「誰も口外しないよ」


 そもそも本編に関わりたくないしな。


 グリッタとの付き合いは今回限りにしたいもんだ。この人は魔法魔術学校で番人をしており、本編のキーパーソンの一人。


 深く関わると本編に参戦するはめとなる。そんなのはごめんだ。俺は死にたくないのである。


「戻るか」

「ああ。坊主……上は大丈夫だろうかね?」


「まあ、大丈夫だろう」


 今頃闇の魔法使いたちが銀行強盗を装って襲ってきている頃合いである。


 でもメイドのアリアドネに、ギルドへ行って応援を要請させていた。


 銀行が襲撃されてると知れば、ギルドだけじゃなくて騎士も出動しているだろう。


 さすがにこの人数差なら、ハリスがこの場にいなくても勝てるはず。


「帰ろうぜ」

「そうだな」

『うむ。そうじゃの』


 ……ん? んん?


「なあグリッタ。なんか今変な声しなかった? そうじゃのって」


「? いいや。気のせいじゃないか?」


 いやでも確かに誰かの声を聞いたような……。


 まあ、気のせいか。


    ★


 その後俺はトロッコを使って地上へと戻ってきた。


 ……なの、だが。


「なんだ……これ……?」


「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 銀行の入り口は半壊状態だった。


 負傷者が数名、動けないで居るやつらも多い。


 中央に居るのは骨のドラゴンだ。


「「骸骨竜スケルティアドラゴン!?」」


 俺とグリッタの声が重ねる。

 そういえばグリッタは魔物に詳しいという設定だったな。


 俺は当然原作を読んでいるから、知っている。


 そう、知っているのだ。あの魔物を。

 だが……同時に知らない。


 原作では骸骨竜なんて、この場に現れていなかった……!


「Sランクのモンスターだぞ!? なんで……」


 俺は近くで倒れている銀行員に話を聞く。


「おい! 何があったんだ!?」

「それが……」


 俺たちが中に入ったあと、闇の魔法使い達による襲撃を受けた。


 だがそこへ大量の冒険者と騎士が入ってきて、あっという間に敵を制圧した。


 そこまでは予想通り。


「黒いマントの男が現れて、コズルーに何かを飲ませたのです。そしたら……コズルーの体に魔法陣が展開し、爆発と同時に、あのモンスターが……」


 ……命を代償とした召喚魔法だ。

 原作でも終盤ででてきていた、闇の魔法の一つ。


 黒いマントの男……? そんなの、原作では出てきてなかったぞ!?


「こっち向け化け物」「くらえぇ!」


 負傷した冒険者数名が骸骨竜に襲いかかろうとする。


「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 叫び声だけで冒険者達は吹っ飛ばされて、壁に激突して気絶。


 大量の騎士達、そして冒険者たちですら勝てなかったモンスター。


「お、おい……坊主。どうする……?」


 番人であるグリッタは、攻撃の手段を持たない。


 もちろん骸骨竜に叶うわけがない。それはグリッタだけでなく、俺だってそうだ。


 多少強いとはいえ、現時点の俺はSランクに立ち向かえるだけの力は無い。


 一発逆転の手立てがあるとしたら、禁術。


 【強制発情ラスト】。【絶対服従マリオネット】。そして……【即死デス】。


 【即死デス】。これは文字通り相手を即死させる超奥義だ。


 だがしかし、マルコイが使えるようになるのは終盤だ。


 それまでマルコイは【即死デス】を使えなかった。これには膨大な量の魔力が必要となる。


 マルコイは終盤、外法に手を染めて、寿命を代償にして莫大な量の魔力をゲットし、ようやく【即死デス】を使えるようになった。


「でも……今の俺じゃ……」

 

 この間にも骸骨竜は暴れ回っている。

 もう立っている人間がほとんどいない。


 応援は、応援は来ないのか。


 冒険者は無理だ。すでに応援が来てる状態でこれなのだ。


 ならば騎士か?

 辺境の騎士はさほど強くない。王都から応援が来るとしても、数日はかかる。


 もう、やるしかない。俺が。なんとか【即死デス】以外の禁術と無属性魔法で……。


『問題ない。わしを使うのじゃ』


 そのとき脳裏に女のような声が響いた。


「誰だ!?」

『今は関係ない。そこのデカ女からからわしを受け取り、そして【即死デス】を使って倒すのじゃ』


 デカ女……つまりグリッタから?

 何を受け取れ……?


 いや、待てよ。

 確か僕心ぼくここの設定集にあった。たしか大賢者の赤石は……。


「グリッタ! それ貸して!」


 俺は彼女の懐を指さして言う。


「それとは……?」

「赤石! 借りたらすぐ返すから!」


 そう、大賢者の赤石だ。これは大賢者の人格がコピーされている、という設定が、後に発売された僕心ぼくここの設定集にあった。


 さっきの声は大賢者だった、のかもしれない。定かではない。だがやるしかない!


「いやしかし……これは……」


「ここであの骸骨竜スケルティアドラゴン倒さないとあんたは死ぬ! 死んだら学園長に赤石を届けられない! 貸してくれ、俺なら……それ使えば倒せる!」


 俺の言葉を聞いて、数刻の逡巡のあと、グリッタが俺に赤石を渡す。


 手のひらサイズの大きなルビーってところか。


 握るとかすかだが熱を帯びている。


「使わせてもらうぞ……! 身体強化エンハンス!」


 俺は身体強化魔法を使って、物陰から一気に、骸骨竜の懐へと忍び込む。


 普段俺が使ってるときより、格段に能力が強化されていた。


『当然じゃ。わしより膨大な量の魔力を引き出しておるのだからな』


 脳内に響くのは女……たぶん大賢者の声。


 どうして彼女と意思疎通ができるのかは不明だ。


 だが、この力があれば……!


「おいデカぶつ! こっちを見ろ!」


 骸骨竜の顔がすぐそこにある。


 俺は懐から杖を取り出す。


即死デス】の射程は1メートル。

 接近して直接体にぶち込む必要がある。


「ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ドラゴンの顔が近づいてくる……。

 俺を丸呑みにしようと……。


 俺は恐怖で動けないでいる。死が近くにある。でもやる。やらないと死ぬ。死にたくない。誰だってそうだろ?


『1メートル! 射程圏内じゃ!』

 

 大賢者の声で現実に意識が戻ってくる。

 俺は杖を骸骨竜に向ける。


「【即死デス】!」


 その瞬間、緑色の閃光がほとばしる。


 本当に使えた。【即死デス】。相手を即死させるチート魔法。


 マルコイは寿命を削って、ようやく1回打てた、強大な魔法。


 緑の閃光を浴びた骸骨竜は、その場にずずぅん……と倒れる。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 使えた。即死の魔法。発動したんだ。


 いや……でも何で生きてる?


『当然じゃ。【即死デス】に必要な魔力を、わしが肩代わりしたのじゃからな』


 そうか……ここも……原作と違うのか……。


 しかし……はは、とんだチート魔法だな、【即死デス】って……。


『おいしっかりせよ! おいマルコイ! 起きろ! おおい!』


 どっと疲れが押し寄せてきて、俺はその場で気絶するのだった。


    ★


 骸骨竜のそばで倒れ臥す、マルコイ。

 その姿を影から見守る黒い影があった。


 黒いマントをまとった男が、マルコイをにらんでいる。


「……マルコイ。次は、殺す」


 マントを翻すその男の額には……。


【炎のような痣】があった。



―――――――――――――


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