04.大賢者の赤石イベント



 ゴルドガッツ銀行にて。

 俺は僕心ぼくここのメインキャラ、竜人の番人グリッタと遭遇。


 彼女が銀行から例の物を回収しようとしてたので、止めた。


「やめたほうがいい……? そいつは一体どういうことだ?」


 赤髪の美女グリッタが俺に近づいていてくる。


 近くで見るとでかいな。こんな感じなのか。挿絵で見たとおりの美人だ。


 褐色の肌に、もえるような赤い髪。

 原作ファンならここで盛り上がるだろう。俺も興奮しているが、しかしそんな場合ではない。


「あんた……なんか大事なもん回収するんだろ? 一人で行くのは、あぶなくないか? それに回収したあとにたとえば強盗とかに襲われたらどうする? 一人じゃ危ない。回収は後日にした方が良い」


 今日まさに起きるのだ。……【銀行強盗】が。


 けれどバカ正直に銀行強盗が起きるといったところで、じゃあなんでおまえがそんなこと知ってるんだってなる。


「…………」


 グリッタは俺に疑いの目を向けてくるものの、うなる。


「……まあ、確かに。学園長先生からの大事なお使いだ。失敗するわけにはいかん」


「でしょ?」


「しかし回収しないわけにも……」


 まあ他人に情報を流してる時点でお使いとしてアウトな気がしなくもないが。


 しかし失敗したらそれだけでアウトだ。


「冒険者に依頼して護衛を増やしてみるのはどうだ?」


「今からか? しかし時間に遅れるわけにもいかんのだが」


 ああくそ、どうして原作通りの流れになろうとするんだ。あれか、運命力ってやつか?

 タイムリープものでよく見る、同じ結果になろうとする修正力か。くそ。


「じゃあ俺が護衛につく。冒険者ギルドには使い物を出しておく」


「…………おまえさん、どうしてそこまで」


 どうしてって……。まあそうなるわな。なぜ介入してくるのかと。そんなギリもないだろうし。


 グリッタが疑ってくる。ええと、どうしよう……。


「まあその……あれだ。あんたイイ女だろ。ちょっと気になってさ」


 と、テキトーなことを言った。


「…………そ、そんなこと、な、ないぞ」


 顔を赤くしてもじもじし出した?

 え、何このリアクション……。


「ま、まあともかくだ。急いだ方が良い。準備はしておく」


 俺はアリアドネの元へといく。

 

「アリア。今すぐ冒険者ギルドへいって応援をよんできてくれ」


「応援……ですか?」


「ああ。説明は省くがまもなく銀行が襲われる」


「! ぎ、銀行が……襲われる!?」


「ああ。そうなってからじゃ遅い。ギルドにはもう既に銀行が襲われてるからって報告して応援を寄越してくれ」


 アリアは急いでその場を去る。


 俺はグリッタのもとへ行く。


「待たせたな」

「……なあ坊主。さっきの女は誰だ?」


「え、ああ、まあ知り合い」

「ふーん……」


 なんだろう、すごい不機嫌そう。

 あ、あれ? 何その反応……。


「と、とにかく応援は呼んでおいた。急いで回収しよう」


    ★


 僕心ぼくここ第1巻にこのイベントがある。内容はこうだ。


 ドラコ家を追放されたハリスのもとに、番人グリッタがやってくる。


 グリッタはハリスを魔法魔術学校にスカウト。


 学校へ行く前に銀行による。そこでグリッタは保管されていた【大賢者の赤石せきせき】を回収する。


 大賢者の赤石。これは学園長の知り合いの大賢者が作られた、強大な魔力を秘めた魔法のアイテムだ。


 1巻ではこの大賢者の赤石がメインの話になっている。


 敵……闇の魔法使いノアールの復活を企むいっこうが、赤石を狙っていたのだ。


 学園長は奪われる前にグリッタに命令し、赤石を回収させようとする。


 しかしちょうど銀行強盗が襲う。

 グリッタはピンチになるのだが、ハリスの活躍によって赤石は守られた……。


 というのが原作の流れだ。


 しかし不幸なことに、今回ハリスはここにはいない。


 つまりグリッタだけでは赤石が奪われてしまうのである。


 赤石を奪われると闇の魔法使いノアールの復活が早まってしまう。そうなると、まずい。

 原作終盤で確かにノアールは復活するんだが、そうはさせたくない。俺は安全に、平穏に暮らしたいのだ。


 だから、ノアール復活という展開は回避したい。そのために、仕方なく原作に介入するのだ。ハリスの代わりに、俺がグリッタを、そして赤石を守る。


    ★


 受付嬢とともに俺は奥の扉を抜ける。

 そこは坑道みたいになっていた。


「お待たせしました。こちらのトロッコにお乗りください」


 背の低い小男が、俺に近づいてくる。


「ああ。坊主、乗るぞ」


「ああ。【絶対服従マリオネット】」


 俺は杖を小男に向けて放つ。


 赤い光線が出て、小男に浴びせられる。

 びくんっ! と彼が体を硬直させる。


「お、おい坊主! なにやってるんだ!」


「こいつがスパイなんだよ」


「す、スパイぃ~?」


 グリッタが赤石を回収するタイミングで銀行強盗に会う。普通に考えておかしい。どうしてそれを知っていたのかと。


 答えは簡単だ。銀行内に闇の魔法使い陣営のスパイがいたからだ。で、それがこいつ。


 原作ではすべてが終わったあと、学園長から真相を聞かされる。


 だが俺はこいつが犯人だと知っている。


 絶対服従マリオネット。使った相手を一定時間、言うことを聞かせるというもの。


「おいあんた。名前は?」

「……コズルー」


 スパイ……コズルーに俺は尋ねる。


「闇の魔法使いに情報を流したのはあんただな?」


「……そうです」


「! なにいぃ! 本当か!?」


 グリッタが驚く。まあそうなるよな。

 しかし……やはりもう情報は向こうに伝わってるのか。


「じゃあコズルー。おまえに命じる。もうすぐおまえのお仲間がここに来る。コズルー。おまえは偽のルートを仲間に教えろ」


「偽のルート? おい坊主、どういうことだ?」


「こいつのせいで赤石を狙った銀行強盗がやってくるんだ。で、俺たちが赤石を回収するタイミングで敵もまたやってくる。なら事前に違うルートを教えておけば、追っ手は来ない」


 絶対服従マリオネットの力は絶対だ。

 俺の言うとおりにコズルーは動くだろう。


「グリッタ。色々聞きたいことがあるのはわかる。だが今は赤石が闇の陣営に取られないことだけを考えてくれ」


 山ほど聞きたいことはあるだろう。なにせ銀行強盗の件を事前に知っていたんだからな。


「わかった。坊主を信じる」


 あ、あれ? やけにあっさり信じたな……。


「坊主の言ってることだからな!」


 ……あれ? 絶対服従マリオネットかけたっけ、グリッタに?


 妙に顔も赤いし……あれれ?


「ま、まあともかく、回収に向かうぞ」

「しかし坊主、銀行員がいないと保管場所までいけんぞ」


 地下はダンジョンみたいになっていて、正規のルートを知ってないと目的地にたどり着けない。


「問題ない。俺がルートを知ってる」

「なっ!?」


 僕心ぼくここはラノベだが、マンガ、アニメ化もされてる。


 俺は全部をチェックしている。アニメ化された際に坑道の中のルートも描写されていた。だから正しいルートをたどれる。


 ……とはいえ、さすがに俺がそこまで知っていたら、グリッタは怪しむよな。


「すごいな! 坊主!」


 あ、あれぇ? なにあっさり信じてるの?

 やっぱり絶対服従マリオネットかけた?

 いや、違うと思うけど……。


「さぁいこうか、坊主!」

「あ、ああ……」


 俺たちはトロッコに乗る。すると彼女が俺をぎゅっと後ろから抱きしめてきた。


 大きな胸が俺の背中に当たる。な、なんなの……?


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