03.本編に関わらないよう冒険者する



 主人公ハリスとの決闘から、2週間が経過しようとしていた。


 ある日、とある森の中にて。


「出たなゴブリンども」


 俺の前には緑色の肌をしたゴブリンどもがいる。


 合計で20。

 報告だとゴブリン数体だったのだが、どうやら近くに巣があるようだ。


「Dランク……か。ま、なんとかなるか」


 俺は懐から、指揮棒のような杖を取り出す。


「【魔力刀ブレイド】」


 杖の先から紫色の光が、発生する。

 完全に見た目ライトセーバーだ。


 これは魔力刀っていって、無属性魔法の一つ。


 魔力を刀のようにして戦う魔法である。

 僕心ぼくここの世界での魔法使いと言えば、主流は、後ろからバンバンと魔法を打つやつらがおおい。


 呪文の詠唱が必要だから、前で守ってもらいながら、強力な魔法で戦うってのが主流。

使い手が少ないんだよね、今時。


「ぎぎ!」「ぎがー!」「ぐぎぎぎ!」


 20体あまりのゴブリン達が襲ってくる。

 Dランクのモンスターが20体。


 普通なら焦るところだろう。

 だが、俺は違う。


「【強制発情ラスト】」


 杖先から桃色の閃光が周囲に広がる。


 禁術、【強制発情ラスト】。

 これはその名の通り、生物を強制的に発情させるという、とんでもエロ魔法だ。


 俺には闇魔法の才能が無い、がマルコイは3つの禁術が使えた。

即死デス】【強制発情ラスト】、【絶対服従マリオネット】。


 どれも強力な反面、使うためには莫大な魔力が必要となる。


 さらに俺は闇魔法への適性がないため、現時点で禁術を連発できない。反動がきついのだ。割とな。


 だが、強い力も使い用だ。


 【強制発情ラスト】。こいつは原作では主に、マルコイが女を発情させて、ベッドシーンに持ち出すためだけに作られたといってもいい魔法だ。


 しかし俺はこれをモンスターに対しても有効であることを、発見した。


 【強制発情ラスト】はモンスターにかけると、一時的に戦意喪失状態となる。


 簡単に言えば、麻痺状態となるのだ。


「原作のキャラ達は、こういう発想しないんだろうなぁ」


 俺はマルコイであっても、この世界の住人ではない。


 この世界での常識は、【強制発情ラスト】を女とやるだけの能力だと思っているだろう。


 だが異世界人の俺だからこそ、常識にとらわれない、自由な発想ができたってわけだ。


 発情状態(嫌だなこの言い方……)のゴブリンは全員棒立ちしている。


 その間に魔力刀ブレイドを使って、ゴブリンをバッサバッサと斬っていく。


 小僧の腕力で亜人ゴブリンの首をあっさり斬れるものか?


 斬れるんです。

 俺は自分に【身体強化エンハンス】をかければ、人間の子供くらいあるゴブリンの首なんてすぐチョンパできるんです。


「ふぃー、討伐完了」


 ゴブリンを倒し終わった俺はひと息つく。


「お疲れ様です♡ マルコイ様♡」


 そのとき、近くの茂みからメイド服の女が笑顔で出てきた。


 アリアドネ。銀髪の美しい巨乳メイドさんだ。


「お、おう……」

「こちらタオルです♡ お使いくださいまし♡」


「あ、あんがと……」

「いえいえ♡ あ、ゴブリンの体の一部は、わたしが回収しますので、あちらで休んでてください♡ お茶も用意してありますので」


 アリアは聞きとして、倒したゴブリンの一部(換金アイテム)を回収していく。


 女にやらせるのは忍びないと思いながら、俺はレジャーシートに座ってお茶をすする。


「どうしてこうなった……」


    ★


 話はハリスとの決闘の日まで遡る。


 俺はハリスに勝利してしまった。


 親父【ルシウス・ドラコ】はそれを見て大激怒。


『闇の帝王となるハリスを傷つけるなど言語道断! マルコイ! 貴様は追放だ!』


 ハリスは闇の魔法使いノアールから死の魔法を受けても生きていた【生き残った男子】だ。


 第二のノアールとなる資質を秘めている。

 ドラコ家は代々ノアールの部下を務めている、という設定がある。


 ゆえにノアール2世であるハリスをとてもとても大事にしていたのだ。


 そんな大事なハリスを傷つけた俺は、そのせいでお家を追放されたってわけ。


 ま、いいんだけどね。


 なぜかというと、俺は破滅したくないからだ。


 破滅しないためにはどうすればいいか?

 簡単だ、本編に関わらなければ良い。


僕心ぼくここ】……【僕の心臓を君に捧げよう】の本編は、主にアイン魔法魔術学校を舞台に繰り広げられる。


 本編に関わると破滅する。


 ならば本編の舞台である学校に通わなければいいわけだ。


 寄って家を追放されるのは都合が良いのである。


 学校に通わずとも、こうして己の持つ力を使って、冒険者をやっていけば、最低限生きてくだけの金は稼げるしな。


 ということで、ハリスを傷つけた罪で実家を追放された俺は、本編に関わらないように冒険者やってる、ってわけ。


 ……ま、誤算がないわけじゃない。


 たとえばアリアドネの存在だ。


 アリアは僕心ぼくここのヒロインであり、ハリスの作るハーレムメンバーの一人だ。

 本来ならアリアはハリスの隣にいて、本編を通して、彼の精神的な支柱として献身的にささえていった。


 だが実際には俺の隣に居る。

 家を追放されるとなったとき、アリアは屋敷を抜けて、俺についてきたのだ。


 ……今頃とっくに、ハリスはアリアの不在に気づいてるだろう。


 今家がどうなってるのか……考えたくない。ハリスには、本編には関わらないって決めたからな。


 他にも誤算がある。

 たとえば展開。


 原作では、ハリスとマルコイの決闘のあと、ハリスはドラコ家をアリアとともに出て行くのだ。


 その後ハリスはこの辺境の都市【ノォーエツ】にて、酒場で住み込みで働くことになる。


 そこで【番人】と邂逅する。

 ハリスは番人の手引きで魔法魔術学園に通う……というのが本来の筋書きである。


 本編とは異なる流れにさっそくなっていて不安だっぴ……。


 だが、まあ大丈夫っしょ。

 俺が本編に関わらなければ、魔法魔術学校に通わなければいいわけだし!


 うん、大丈夫。俺は絶対学校になんて通わないぞ!


    ★


 家を追放され、冒険者になってから2週間後の事。


 俺は【ゴルドガッツ銀行】に来ていた。


「マルコイ様、どうして銀行になんてきていらっしゃるのですか?」


 銀行受付でぼけーっとしてる俺に、アリアが尋ねててくる。


「依頼だよ。このゴルドガッツ銀行の、警備の」


「銀行の警備……」


 ゴルドガッツ銀行。

 大規模商業ギルド【銀鳳商会】を母体とする、全国に支店を持つ大銀行だ。


 銀行って言えば強盗が相場。

 異世界でもそれは同じ。


 銀行に変なやつがこないよう警備するのが、今回の俺の依頼だ。


「辺境の銀行に強盗などくるのですか?」

「ま、絶対来ないわな。でも何かあったらこまるから、いちおう置いとくかってわけ」


 安いし暇だし、その割に実入りがいい。

 銀行警備最高だね。


 と、そう思っていたそのときだった。


「ん? あいつは……」


 銀行に、ひとりの【背の高い女】が入ってきた。


 彼女を、俺は知っている。


 赤い髪の毛。頭からすっぽりとぼろ布のようなマントをまとっている。


 歩いているとのぞく腕と、目の下には、竜のうろこが見て取れた。


「赤毛の竜人……そうか! 今日なのか!」


 まずい、まずいぞ!

 あの赤毛……本編キャラだ!


 しかも竜人、ゴルドガッツ銀行……ってなると……思い当たるイベントは一つしか無い!


 赤毛の竜人は、銀行の受付へとやってくる。

「いらっしゃいませ、どのような御用向きでしょうか?」


 受付嬢が竜人に尋ねる。


「おれは【グリッダ】。学園長先生様より使いを頼まれてる」


 竜人グリッダが声を潜めて言う。


 きょろきょろ、と周囲を見渡して、誰にも見られないよう注意を払っている。


 やっぱり……そうだ。グリッダだ。


 僕心ぼくここの主要キャラ!

 森の番人グリッダ!


「学園長より……使い、ですか? グリッダ様」

「ああ。銀行に保管されてる例の【あれ】を受け取りに来た」


 まずいまずいまずい! これは……原作にあった流れ!


 原作通りだ! ってことはこのあと……いかん!


 俺は慌てて声を張り上げる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! グリッダ!」

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