02.主人公と決闘イベント(ヒロイン寝取り)



 俺は大人気ファンタジー小説【僕心ぼくここ】の悪役マルコイに転生した。


 マルコイは最終的に破滅するキャラ、しかも主人公と対立することによって。


 だから主人公ハリスとは、極力良い関係を築こうと思っていたんだが……。


「マルコイ……! ボクはおまえを絶対許さない!」


 激おこハリス。僕心ぼくここのハリスは普段は真面目で優等生なんだけど、キレるとやばいというキャラだった。


 ハリスが怒ると額のあざが輝く。


 あの痣は……特別なものだ。

 物語終盤、闇の大魔法使いノアールから受けた【闇の呪い】であることが判明する。


 あの呪いがあると闇魔法への才能、そしてそのほか魔法への【反魔法】の力を身につける、というチート性能を持つことになるのだ。


「マルコイぃいいいいいいいいい!」


 ハリスが俺の胸ぐらをつかむ。

 怒ってるのは、俺が彼女の大好きな女性……アリアドネと無理矢理セックスしてしまったからだ。


 両親を失い孤独なハリスを励まし、時に叱ってくれた最愛の人……アリア。


 あれ……でもおかしい。

 原作でもこのイベントはあった。マルコイがアリアと無理矢理やろうとしたイベントが。


 だが、未然に防がれたはず。

 しかし俺は最後までやってしまって、あ

へ顔までさせてしまっていた。


 本編とはちょっと違った展開になってる……?


「マルコイ! ボクは……ボクはおまえを絶対に許さないぞぉおおおおおおお!」


「ま、待てハリス。おまえと対立するつもりは……ぐえええ!」


 バキッ、と思い切り殴られて、俺は壁に激突する。


 いっつぅ……。口が切れて血が出てる。リアルだ。ああ、これは夢じゃないんだなぁ。


 大好きな僕心ぼくここの世界に来たはいいけど、悪役になってるし、ついてないなぁ……とほほ。


 まあ落ち込んでてもしょうがない。

 とにかく、ここは重要な場面だ。


 なにせ、ここは分岐点なのだ。

 原作でもハリスとマルコイは、ここのイベントで永遠に決別することとなる。


 そしてハリスと対立した結果、マルコイは酷い目にあってうえに、破滅するのだ。


 ゆえに、俺が取るべき選択肢は一つ……。


「ハリス……すみまっっせんでしたっっっっ!」


 俺はジャンピング土下座をかます!


 そう、謝罪だ。

 ここで対立するから破滅する。なら、対立しない! これが最良。


「アリアと無理矢理やってしまって、大変申し訳ないです! 深く謝罪しますぅ!」


 ……よし、ベストだろう!

 原作じゃここでマルコイは謝らないで溝を作った。


 ならば謝ってしまえば、対立せずに済むだろう。

 そうすれば破滅することには……。


「マルコイぃいいいいいいいいい!」


 ばきぃいい!


「ふげーーーーーーーーー!」


 俺はハリスに蹴飛ばされ、仰向けに倒れる。

 あいええ!? なんで!? 謝ったじゃん!


「謝ってすまされるわけないだろ! 魔法で無理矢理アリアを手込めにして、アリアの……初めてを奪いやがって……!」


 ああしまった! そうか、ハリスのやつ、アリアの処女が欲しかったのか!


 確かに、そうだよなぁ。男って女の初めてになりたがるっていうしな。処女はもらえんと知って、怒った訳か。


 いや、謝ったじゃん。……いや、謝って済む問題じゃないか。


「ほんとごめん……」

「うるさい! 黙れ! おまえは許さないぞ! マルコイ!」


 倒れ臥す俺の胸ぐらをつかんで、ハリスがキレて叫ぶ。


 思い切り腕を振り上げる。


「おまえが!」


 ばきっ!


「泣くまで!」


 ばきっ!


「殴るのを辞めない……!」


 ……どこぞの英国紳士かってくらいボコボコに殴れてる俺。


 そこまで怒る……よなぁ。


 あ、それとハリスの【痣】がより濃くなっている。


 原作によると、ハリスの感情が高ぶると、闇の呪いが強くなる、らしい。


 強い力を得る反面、凶暴性が増すという設定だった。


 原作でのハリスはアリアドネのほか、ヒロインの【ロイ】、【ハーマイア】といった仲間達の支えがあって、呪いにむしばまれずにすんでいた。


 だが今ここにロイもハーマイアもいない。アリアはコンナ状態だし、彼の心を救ってくれるやつはない。


 だから呪いが暴走してる、のだろうな。


 一方的に殴られている俺。

 さて……どうするか。


「おやめください! ハリス様!」

「アリア……」


 正気に戻ったアリアが、ハリスの手をつかむ。


「マルコイ様が謝っていらっしゃるではありませんか!」


 ……あ、あれ?

 なんかここ、既視感あるぞ……?


 そうだ! 原作では、ハリスとマルコイの決闘シーンだここ。


 でも、おかしい。原作だとマルコイがハリスをボコって、それをアリアドネが止めるって流れだったような……。


「うるさい! 下がってろ!」


 ばきっ!


「きゃあ……!」


 アリアは激高したハリスによって殴られる。

 そのまますっ飛んでいく。


「アリア……!」


 あのままじゃ壁にぶつかってしまう!

 こうなったら……やるしかない。


 俺は原作を思い出す。


「【身体強化エンハンス】!」


 この世界には魔法というものが存在する。

 

 魔法にも色々種類があって、その中には無属性魔法というものがあった。


 身体強化の魔法は、無属性魔法の一つ。


 原作では結構ポピュラーな魔法だ。


 そして一つ重要な裏設定がある。

 それは、マルコイには【闇魔法】の適性が実はない、ということだ。


 マルコイは闇の魔法使いの一族に産まれた。そして闇の禁術をすべてつかえた。


 それゆえに、自分にも闇魔法の才能があると信じていた。

 

 だが物語終盤、実はマルコイは闇魔法に適性がなかったことが判明。


 一番適した魔法は無属性魔法だった……という流れがあった。


 それを知っているので、無属性魔法【身体強化エンハンス】を使ってみた。


 結果、一発でできた!

 やっぱり原作通り、マルコイは無属性魔法の使い手なんだ!


 体が羽毛のように軽くなる。


 アリアドネがぶつかる前に、俺は彼女を助ける。


「大丈夫か?」

「は、はい……」


 俺は彼女を下ろす。


「マルコイ! アリアに……ボクのアリアに触れるなぁあああああああああ!」


 闇の力がハリスから吹き出す。

 そう……本当の闇の魔法の天才は、ハリスだったのだ。


 原作終盤、闇魔法の才能がないと知ったらマルコイは、逆に闇の天才であるハリスに嫉妬して、彼を憎しみから殺そうというくだりがある。


 そして返り討ちに遭う……と。


 だが俺は、別に魔法にこだわってない。闇の魔法の才能が自分にないからって、絶望しない。


 結局俺はこの世界の異分子でしかないからな。家柄とか才能とか、興味ない。


 ……だが。


「ハリスよ」


 俺はぐっと体を縮めて、一瞬でハリスに接近。


「なっ!?」


自分の女ヒロインに、手ぇあげてんじゃねえよ」


 どごっ!


 みぞおちに一撃入れると、ハリスがその場にぐったりと倒れる。


 ふぅ……まだハリスの闇の呪いが進行してなかったから、勝てた。


 それとやっぱりマルコイの無属性魔法への適性は、はんぱねえな。


 今まで使ったことなかった身体強化エンハンスを、達人レベルで使えていた。


 原作のマルコイは、闇の魔法に適性がないことを嘆いてたけど、全然良いじゃん、無属性魔法に才能があるんだからさ。


「マルコイ様……!」


 アリアドネが俺に近づいてくる。


「おけがはありませんか!?」


「ああ、問題ない」


「よかった……!」


 がばっ、とアリアが俺の腕に抱きついてくる。


 ……あれぇ? そういえば原作の決闘イベントって、マルコイが負けて、そしてハリスにアリアが抱きつくって流れだったな……。


 あ、あれぇ。これ……なんか、逆転してね?

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