えっちなファンタジー小説で主人公から女を奪おうとする悪役ヤリチン貴族に転生した俺、まっとうに生きようとしてるのに、主人公から女をことごとく奪ってしまう。なんで!?

茨木野

01.えっちなファンタジー小説の破滅する悪役に転生した…



「あひぃ♡ マルコイ様ぁ~♡ 好きぃ~♡」


 ……え、誰?

 俺の目の前には、ものすごい美女メイドがいる。


 目に♡を浮かべて、あへあへと喘いでいるその姿。

 俺は、知ってる。

 こいつは、【僕心】のヒロインの一人、【アリアドネ】だ!


「マルコイぃいいいいいいいいいいい!」


 ばんっ! とドアが開く。

 そこにいたのは……。


「は、ハリス!?」


 そう、ハリスだ。

 僕心の主人公、ハリス・ドラコだ!


「マルコイ! おまえ、アリアさんになんてことするんだ!」


 ハリス。マルコイ。そして、アリアドネ。


 俺はこいつら、いや、このキャラクターたちを知っている!


 大人気ファンタジー小説、【僕の心臓を君に捧げよう】。通称、【僕心】のキャラクターたちじゃないか!


 ハリスは俺をマルコイと呼んだ。

 って、ことは、俺はハリスのライバルにして兄、マルコイ・ドラコってこと!?


「いや、待て、落ち着け」

「うるさい! アリアさんになんてひどいことを!」


 ハリスの額には、炎のような奇妙な【あざ】がある。


 ハリスは特別な力を持った天才なのだ。

 一方で、ハリスの兄マルコイもまた非凡な才能を持った男でもある。


 だがハリスは、この世界では超有名人なのだ。

 なにせ、彼は【生き残った男子】だからだ。


「マルコイぃいいいいいいいいいいいい!」


 怒り狂ったハリスが俺に殴りかかろうとする。


「ふげぇえええええええええええええ!」


 俺はなすすべなく吹っ飛ばされて、地面に這いつくばる。

 ちょっ、怒りすぎじゃないですかあんた……。


 いや、でもしかたない。

 僕心のハリスにとって、メイドのアリアドネは、それくらい大事な女性だからな……。


    ★


 僕の心臓を君に捧げよう。

 通称、僕心ぼくここ


 世界中で愛され、読まれているファンタジー小説だ。


【アイン王立魔法魔術学校】を舞台に、主人公ハリス・ドラコが繰り広げる、魔法と冒険ファンタジー。


 作者は超有名なライトノベル作家・カミマツ。

 彼の作品は日本どころか、世界中にファンがいるほど。


 僕心は俺もすごい好きだ、というか、愛読している。


 だから、俺は知っている。

 このマルコイ・ドラコがどういう定めをたどるのか……。


 マルコイはいわゆるハリスのライバル、というか物語的に言えば主人公の邪魔をする最低のお邪魔キャラだ。


 闇の魔法使いの一族に生まれ、高い魔法の力と、膨大な魔力量を持ちながらも、しかしそのプライドゆえに魔法を悪いことに使う。


 こいつの特異な魔法は【絶対服従マリオネット】。

 こいつはかけた対象を操り人形にしてしまう、という恐ろしい呪文だ。


 即死デス強制発情ラスト。そして絶対服従マリオネット


 禁術として指定されている、闇の3大魔法を自在に操って、ハリスやその仲間のヒロインを奪おうとする。まーどうしようもないキャラだ。


 読者からも、そしてキャラクターたちからも蛇蝎のごとく嫌われている、最低キャラ。

 僕心の人気投票が行われたことがかつてある。


 そのときぶっちぎりのワーストワンが、マルコイだった。

 そりゃね、みんな主人公のハリスに感情移入してるわけだから、その邪魔をするマルコイはみんな死ね! って思ってるんだろう。


 現にマルコイは作中のキャラたちからも、そして読者たちからも死ねだとくたばれだのとさんざんな言われようだった。


 でもまあ、俺は嫌いじゃない。


 マルコイはエリートの魔法使いの家、ドラコ公爵家に生まれる。

 闇の魔法を得意とする一族だ。


 マルコイは禁術を幼いころから使えたことから、親たちからたいそう、期待されて育った。

 いずれ立派な悪の魔法使いになることを、である。


 しかしそこに、ハリスという、彼にとっての邪魔者が現れる。


 ハリス。元の性はホグワード。


 ハリス・ホグワードは、かつて世界を震撼させた闇の大魔法使い【ノアール】から、即死デスの魔法をうけても、なお生き残った男子なのだ。


 ノアールは恐ろしい闇の魔法使いだ。

 世界に破滅と混とんを招き、一時期は暗黒の時代を作り上げたほどの。


 そんなノアールから魔法を受けても、ハリスは生き残った。


 それはつまり、ハリスにはノアールを上回る、闇の魔法の素質があったからに他ならない。


 世界中はハリスを生き残った男子と称賛する一方で、第2のノアールなることを恐れた。

 それはそうだ。


 魔王を倒した勇者は、次の世代の魔王になりえるからだ。


 ハリスの両親はノアールによって殺されてしまった。

 行き場のないハリスを引き取ったのは、マルコイの両親だった。


 マルコイはそれまで、両親の寵愛を一心に受けていた。


 けれどハリスという、第2の魔王なりえる存在が来たことによって、家での行き場を失う。


 両親はハリスを優遇するようになった。

 一方でマルコイは、そんなハリスに恨みを抱くようになる。


 自分こそが、世界最高の闇の魔法使い、第2のノアールになるのだと息巻いていたのだが。

 

 しかも許せないことに、ハリスは正義の人だった。

 ノアールに匹敵する才能を持ちながら、しかし、悪いことに使おうとしない。それがまた、マルコイにとっては許せないことだったのだろう。


 まあ、話は長くなったが。


 俺はそんな【僕心】世界の主人公ハリス、の邪魔をする存在マルコイに転生したってわけだ。


 ……よりにもよって、マルコイかよ!


 だってこいつ、最後に悲惨な目にあって死ぬんだぜ!?


 うわぁ、最悪だ……。

 いやでも待てよ。


 結末を知っているのなら、未来を変えることができるかもしれない。


「よし決めた! 俺はまっとうに生きるぞ! 破滅したくないからな! 主人公にあんま関わらないようにしてやる!」


 ……しかしついさっき、ハリスの大事な女をメス堕ちさせてしまったところだった。

 oh……。

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