34.学園長のあとしまつ
マルコイによって、ノアールの呪縛から、ハリスは解放された。
その日の夜……。
『はぁ……はぁ……くそ……くそぉ……!』
空中を黒い靄が漂っていた。
それはノアールの魂だ。
『あのやろぉ……マルコイ……てめえは、絶対に許さないからなぁ……』
ノアールの魂はふよふよと、まるで蛍のように空中を漂う。
ハリスの体から抜け出たノアールは、彼らに見つからないように、こっそりと逃亡を図ったのである。
『このままじゃ絶対に終わらせない……! このおれが……導くんだ! この間違えだらけの世界を! 正しい方へ!』
マルコイに敗北を喫したものの、ノアールの野望はついていなかった。
『おれは絶対に諦めない! 必ず復活してやる! 原作のノアールのように! そして必ず世界をこの手で終わらせる! 見てろよマルコイ! 次はおまえだ! 新しい寄生先を見つけたら、必ずおまえを……!』
と、そのときだった。
「いいや、君に、次はないよ」
ノアールがふと頭上を見上げると、ホウキに腰を下ろした、美しいスーツ姿の美女がいた。
『が、が、ガンダルヴ!?』
すとん、とホウキから降りたガンダルヴが、ノアールの元へと近づく。
彼は焦った。今最も会いたくない相手と、最悪の形でバッティングしてしまったから。
「随分と好き放題暴れてくれたみたいだね」
『ち、ちが……! 違うんだ! お、お、おれはノアールじゃない! ノアールじゃないんだ!』
咄嗟に、真実が口をついた。
だがガンダルヴはにこりと笑って言う。
「知っているよ。君も、そして、マルコイの正体も。異世界から招かれた客……まれびとであることをね」
『!』
ガンダルヴはどういう手段を使ってか、マルコイ達の正体を知っているようだった。
『だ、だったら話が早い! おれはノアールじゃない! 別人なんだ! 頼む、殺さないでくれ!』
ふぅ……とガンダルヴが息をつく。
「それは無理な相談だ」
『どうして!?』
「君は原作再現の課程で、ハリスの両親を殺している。確かに中身はノアールじゃないかもしれないけど、この世界でやってきた所業は、原作と同じものだった。つまり人を殺している」
……確かにその通り。
だが、だとしたらオカシイ。
『ま、待て……原作なんて言葉を、なぜおまえが知っている……?』
原作に登場しているキャラクターたちが、【原作】を語るなんて本来はあり得ない話だ。
「君が知る必要は無い。とにかく、君が生きてると色々と不都合なんだ。早々に退場したまえ。この世界から、永久に」
すっ、とガンダルヴが懐から杖を取り出し、詠唱を開始する。
『いやだ……! いやだあああああああああああああああああああああああああ!』
泣きわめきながらノアールは逃亡を図ろうとする。
だが肉体のないこの体では、走って逃げることなど不可能。
せいぜいふよふよと、風に吹かれるタンポポの綿毛のように動くだけ。
『おれの何が間違ってたって言うんだ! 美しい
ノアールの言葉はこの世界の誰にも届かない。
むなしく響き渡るだけだ。
『悪いのはマルコイだろぉがよぉお! 原作レイプしまくってるあいつのほうが悪だろうがぁ! おれはただしい! おれは間違ってない! おれは悪じゃない! 悪いのはあいつ! マルコイの、原作レイプマンだろうがよぉおおおおおおおおおおおおお!』
「もう良い。消えなさい。【
【
それは肉体なき魂すら抹消させてしまうほどの、恐るべき死の魔法。
黒い靄だったノアールは魔法の光をもろに浴びる。
……そして、跡形もなく消滅したのだった。
★
俺がふと目覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
「おお、起きたかい、マルコイ」
「学園長……」
体を起こすとスーツ姿の美女ガンダルヴがそばで微笑んでいた。
どうやらここは医務室のようだ。
「話はセリムから聞いてるよ。お疲れ様、よく頑張ったね、マルコイ」
セリムとはスネイア先生のことだ。
「学園のモンスターはノアールによって操られていた。だがもうノアールは消滅した。安心したまえ」
「そう……ですか……そうだ、ハリスは?」
「大丈夫、無事さ。一応言っとくと、あの戦いのあと、気を失った君を地上まで運んできたのは彼さ。どうやら和解したようだね」
「そう……ですね」
俺は自分の手をぎゅっと握る。
「でも、正直完全に許されたとは思ってません」
「ほう……そうなのかい?」
「はい。謝ったところで、やってしまった事実が消えることはない。俺が残した傷跡は、あいつの中にこの先ずっと残ると思います」
「まあ、現にアリアくんは君の女になっており、修復不可能なほど関係は破綻されてるからね」
その通りだ。
マルコイとハリスの道は、永遠に分かたれたままだ。
「俺……今でも悩んでます。俺のやった事って、ただの自己満足の代物なんじゃないかって……」
するとガンダルヴは静かに微笑むと、俺のことを抱きしめる。
「君は間違ってない。世界を作り物とせず、本物であると解釈し、人々の平和のために動いた君は……正しい」
「学園長……」
にこっ、と彼女が微笑む。
「よくやったマルコイ……いや、□□□□くん」
……それは、俺の転生する前の名前だった。
「おや? どうしたんだね?」
「いや……なんであんた、俺の名前を……」
「ま、長く生きてると、色々知っているんだよ。□□くん」
ガンダルヴが俺を解放して、真面目な顔で言う。
「君のおかげで世界は守られた。心から、感謝する。ありがとう、異世界から転生せし、まれびとよ」
深々とガンダルヴ校長が頭を下げる。
正直色々あって、大変だったけど、でも……ちゃんと俺のやった行いを肯定してくれた。
この大好きな人たちと世界を守ったことを、こうして肯定してくれたことが……うれしかった。
「ま、あとは若い者達に任せるということで、老骨はここで去るとしよう」
ガンダルヴは立ち上がり、きびすを返して、医務室を出て行こうとする。
「あ、そうそう」
ぴん、と彼女が指を1本立てる。
「医務室はあと数時間は人が来ない」
「……? はぁ」
なんのこっちゃ?
「気を失ってから今までも、医務室に来たものはいないから安心したまえ」
……なんだろう。
なんか、なんだか……すっごくいやな予感がする。
「それと……うん。まああれだ」
こほん、と咳払いをして、ガンダルヴは言う。
「避妊はしっかりするんだぞ」
「は?」
「あと風邪をひかぬように。ではな」
ばたん、と扉が閉まる。
……え?
ええっとぉ……え?
「ま、まさか……」
俺、よく見ると服着てなかった!
そして……ベッドの周りには、全裸の美少女達が!
アリア、ハーマイア、ロイ、グリッタ、スネイア。
……そして、ハリス。
「あいえぇえええええええええええ! なんで!? ハリスなんでぇえええええええええええええええええ!?」
いや確かに! 今まで気絶して起きたらだいたいこうなってたけど!
どうして! 今!? なんでハリスも!
なにがあったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
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