24.飛行訓練でハリスに絡まれる
スネイアと協力関係を結んだ翌日。
俺は寮の学食で朝ご飯を食べていた。
「はぁ……」
「お、お疲れだね……マルコイくん」
正面に座っているのは本編キャラのロイ・ウィザード。
栗毛と素朴な顔立ちが特徴的な少女だ。
もはやナチュラルに本編キャラと仲良く食事するって言うね……。
関わりたくなかったんだけど、でももうそんなこと言ってられなくなった。
ハリスが闇の陣営に引き込まれてしまっている。
最愛の女子アリアドネを結果的に寝取ってしまった、俺の責任でもあるからな。
「あ! フクロウ便だ!」
毎朝フクロウたちが生徒達に手紙や実家からの贈り物を届ける。
ロイの元にフクロウがやってきて、ぽと……と何かを落とした。
「なんだそれ?」
「手紙……と、小包かな? なんだろう……」
ロイが包みを開けると、小さなガラス玉が入っていた。
「それ、警告玉だな」
原作でもあった魔道具だ。
持ち主に近い未来、危ないことが起きるとき、玉が赤く輝くってやつ。
ロイの手にある警告玉が赤く染まっていた。
「何か悪いことでもあるのかな……」
「あー……そうだな」
俺は原作を読んでいるから知っている。
そう、ロイがこの警告玉を受け取ったときのシーン。たしか……。
「今日って魔法の実技の授業があったな」
「あ、うん。飛行魔法の授業」
「ロイ。ホウキの飛び方わかるか?」
「えー。さすがに知ってるよ~」
だが原作ではロイはホウキに載ってとんだがいいが、止め方がわからなくて怪我をするという展開があった。
「じゃあ止め方覚えてる?」
「え……? あ!」
顔面蒼白になるロイ。
この調子じゃ覚えてなかったみたいだな。
「授業の前にホウキの止め方は復讐しておいた方が良いぞ」
「そ、そうだね……。ね、ねえ……マルコイくん。わ、わたしが怪我したら助けて……」
と、そのときだ。
ドンッ! と誰かがロイにぶつかる。
「きゃっ……!」
ロイは突き飛ばされて持っていた警告玉を落とす。
コロコロと転がって、そいつの足下にたどり着く。
彼は落ちてる玉を持ち上げて、フッ……と馬鹿にしたように嗤う。
「おまえ……ハリス」
「やぁ、マルコイ」
そこに居たのは……確かにハリスだ。
だが見た目が違う。
ハリスは右の額の痣を隠すため、前髪を伸ばしていた。
だが今は、金髪をオールバックにしている。
自分の炎の痣を、堂々と見せつけるかのようだ。
そしてハリスの左右には、【グラップラ】と【バーキン】が控えていた。
坊主頭でガタイのいいゴリラみたいな見た目の男子だ。
どっちもマルコイの取り巻きだったやつらである。
「ハリス……おまえ、友達は選んだ方が良いぞ……」
「ボクに指図するなよマルコイ」
ふんっ、とハリスが鼻を鳴らす。
「友達を選んだ方が良いのは、君の方じゃないかマルコイ? アリアという美しい女性がいながら、そんなみすぼらしい女を囲ってないでさ」
ロイがうつむいてじわ……と目に涙を浮かべる。
さすがに女を泣かすようなことするやつを、俺は許せない。
「おい謝れよ」
「いやだね」
……なんだ、その性格、態度は。
まるでおまえが原作の
俺のせいなのか? こうなってしまったのは……。
「次の飛行魔法は、黒獅子寮と赤鷲寮の合同訓練だ。せいぜい、怪我しないように気をつけるんだね。いくぞ、グラップラ、バーキン」
そう言ってハリスは取り巻きを連れて、俺たちの元を去ろうとする。
「おいハリス。おまえロイの危険玉かえせよ」
ちっ、と舌打ちすると、ハリスはロイに球を投げ返す。
警告玉を受け取ったロイは、卑屈な笑みを浮かべて言う。
「ご、ごめんね……マルコイくん。わたし程度が仲良くして」
随分と意気消沈している様子だった。
見てて不憫だ。
「あんなの気にするなって。ひがんでんだよ」
「うん……ごめん……わたし先に行くね」
ロイは立ち上がると、そそくさと俺の元を去って行った。
……ったく、ハリス。
おまえ何やってるんだよ。
おまえの一番の友達を、なに泣かせるようなことしてるんだよ……。
★
その日の午後。
飛行魔法の訓練が始まった。
「では今日は飛行魔法の練習を行います」
魔法学の先生がそう言う。
俺の隣にはハーマイア。
ロイは……離れたところでうつむいてる。
今日はずっと避けられていた。
たぶんハリスに言われたことを気にしてるのだろう。
なんとか仲良くなる機会があるといいんだが……。
「飛行魔法は高度な魔法です。このホウキはその補助を行う特別なホウキ。使用者の声に反応して動きます。【上昇】」
ぱしっ、と先生の手にホウキが収まる。
生徒達もマネするが、なかなか上手くいかない。
「上昇……くっ、あがりませんわね。ご主人様は?」
パシッ。
「なんと! 声を出さずにホウキを上昇させてみせるとは! ミスタ・ドラコにSPを5点プラス!」
おおー、とみんなから歓声が上がる。
マルコイも地味にホウキの扱いに長けてるんだよね。
そうしてうちに生徒達がみんなホウキを手に取る。
「さぁ、ホウキにまたがって……上昇!」
かけ声とともに、先生が上昇していく。
魔道具のアシストがあるので結構楽に上昇させることができた。
ハーマイアもなんとかふわふわと浮いてる。
ロイはゆっくりとだが上昇し、ぴた……と止まる。
ホッ、と彼女が安堵の息をつく。
「ま、マルコイくん!」
遠く離れたところから、彼女が声をかけてきた。
「マルコイくんに言われなかったら、危うく止め方がわからずに事故ってたところだったよ。ありがとう!」
落ち込んでても、ちゃんとお礼を言ってくるあたり、律儀な子だな。
と、そのときである。
「きゃあああああああああああああ!」
ロイのホウキが、突如として暴れ出したのだ。
「ロイ! どうした!?」
「急にホウキが……! 止まって! 止まってよぉおおおおおおおおおおお!」
ホウキが乱暴に上下左右に動く。
ロイはホウキから振り落とされないよう必死にしがみついていた。
なんでだ?
ロイにホウキの止め方を復習しておくようにうながしておいた。
急にあんな運転が雑になるなんて……。
いや、待て。
待てよ……。
原作にも確か、ハリスがホウキに乗っているとき、急にコントロールがきかなくなったときがあった。
俺はハリスを見やる。
彼はロイに向かって、邪悪な笑みを浮かべていた。
「ハリス……! てめえ!」
俺はホウキを操ってハリスの元へ駆け寄る。
ばきっ!
「うげええ……!」
ハリスの頬を殴り飛ばす。
こいつは今、ホウキに呪いをかけていたのだ。
呪いの発動には集中力が要る。
殴ったことで解除されたはず。
だが……。
「ミス・ウィザード!」「あぶない!」「おちゃうわぁ……!」
ロイは片手一本でホウキにぶら下がっている状態だ。
呪いが解除されて急に動きが止まった。
だがその勢いでロイはホウキから落ちてしまう。
「くそ!」
ホウキよりも早く……俺は
だん! とホウキを蹴って、落ちていくロイのもとへ跳ぶ。
「ろぉおおおおおおおおおおおおい!」
「マルコイくーーーーーーーーん!」
俺は空中でロイを抱きしめる。
そしてそのまま地面に激突した。
どしんっ! と大きな衝撃が体に走る。
っつうぅ……。
「う……うう……はっ! マルコイくん! 大丈夫!? マルコイくん!?」
どうやらロイは無事なようだ。
良かった……。
「マルコイくん……わたしのために……どうして……?」
本編キャラだから?
友達だから?
いや、違うな……。
「ロイが、好きだから……かな」
俺は
キャラクター達のことも、好きだ。
ロイだけじゃないハリスもだ。
……だから、ハリスを操って悪いことさせてるノアールは許せねえ。
「マルコイくん……♡ ちゅき……♡」
俺がノアールへの怒りの炎を燃やしてる一方で、ロイが何かをつぶやくのだった。
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