第16話 妖精族とウィラ
薄暗くなった夜の湖を船に乗って渡り、聖樹を目指す俺たち。
その途中で、俺はシャーニーからある事実を得る。
「あなたがあの聖樹の主なのよ?」
「聖樹の主って……」
「魔力を込めて聖樹の種を湖へ投げ込んだのはあなたじゃないの?」
「そ、それは……」
その通りだ。
俺は神父様の「処分してくれ」という願いを叶えるためにそうしたのだけど……言われてみれば、あの時はいろんな感情がごちゃ混ぜになっていて、握っていた手に魔力がこもっていた気がしないでもない。
「で、でも、主ってつまりどういうことなんだ?」
「それは向こうについたら嫌でも分かりますよ」
シャーニーはそれ以降だんまり。
なんだかニヤニヤしているみたいだけど……あんまりいい予感はしないな。
――それよりも、今はウィラについてだ。
聖樹に行けばなんとかなるって話だったけど、本当にそうなるのか半信半疑だった。
全員がウィラの容体を心配する中、聖樹にある異変が起きた。
「あ、あれは!?」
最初に声をあげたのはローナだった。
続いて、大人たちが次々と聖樹の変わりようを口にする。
その変わりようとは――聖樹の一部が金色に輝いていることだった。
「ど、どうして金色に……」
「あれこそが聖樹の持つ特別な魔力なの。ウィラや私たち妖精にとって必要不可欠なものでもあるわ」
シャーニーはそう説明してくれたが……正直、それらはあまり頭に入ってこなかった。なぜなら、
「き、綺麗だ……」
目の前に広がる光景はあまりにも神々しく、この世の出来事だとは思えないくらいの神秘性を秘めていた。思わず息を呑む光景に呆然としていると、船はいつの間にか聖樹のすぐ近くまでたどり着いていた。
すると、
「うあ……?」
ウィラの意識が戻った。
顔色もいいし、「ここはどこ?」と首を左右に振っている様子を見る限り、体調は回復したようだ。疑っていたわけじゃないけど、シャーニーの言う通り、聖樹へ近づくことでウィラは元通りの元気な姿へと戻ったのだ。
「もう大丈夫みたいね」
「あぁ。ありがとう、シャーニー」
「あの子に倒れられたら私たちも危ういからねぇ」
そう語るシャーニーだが……ウィラって、そんな重要なポジションにいる女の子だったのか。
……ていうか、この子もしかして――
「な、なあ、シャーニー」
「何?」
「もしかしてとは思っていたけど……ウィラも妖精族なのか?」
「えっ? 今頃気づいたの?」
シャーニーは驚いていたが、俺からすると当たり前のように思われていた方がびっくりするよ。
ただ……やっぱり、ウィラも妖精族で、ここでの魔力が必要というなら、
「ここからは離れられないということか」
「そう。――だから、あなたにもここで暮らしてもらわないと」
「……はい?」
思わぬ発言に、俺は思わず間の抜けた声で尋ねた。
「だって、この聖樹の主はあなたなんだから、あなたが長期間にわたってここからいなくなると魔力が枯渇してしまうのよ?」
「じゃ、じゃあ、そうなったら――」
「私やウィラの妖精族はおしまいね」
「えぇ……」
な、なんてことだ。
じゃあ、俺はここから離れらないってこと!?
これはとんでもないことになったぞ……
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