第29話 聖樹での生活

 事件の真相解明について、当面の間はジェファーズ様にお任せしようということになった。

 ……というか、俺ひとりが足掻いたところでもみ消されるがオチだからなぁ。ここはジェファーズ様の厚意に甘えるとしよう。



 さて、屋敷から戻ってきた俺をまず出迎えてくれたのはルパートさんとローナの親子だった。


「待ってたわよ、ルディ」

「こっちへ来てくれ。見せたい物があるんだ」

「えっ? えっ?」


 訳が分からないまま、ローナに腕を引っ張られて湖の方へと移動する。そこにあったのは真新しい木製の船であった。


「こ、これは……?」

「ふっふっふっ! 実は以前からこっそり作っていた君専用の船だ。その方が移動するのに効率がいいだろう?」

「お、俺専用!?」


 湖のど真ん中にある聖樹へ移動するためには、確かに船が必要となってくる。俺も近いうちに調達しようと思っていたのだが……まさか、ルパートさんがこうして用意してくれるなんて。


「あ、あの、代金ですけど――」

「金なんかいらねぇよ」

「で、でも」

「木はちょうど余っていたヤツがあったからそれを使っただけだし、これくらいの船ならば一日あればできる。だから気にするな」

「ル、ルパートさん……」


 俺はそれ以上何も言えず、ただ肩を震わせるしかできなかった。

 ただ、感謝を伝えるために「ありがとうございます」と答えるのが精一杯だったのだ。



 とりあえず、聖樹へ戻る前に屋敷で何を話したのか、その詳細を伝えるためにルパートさんの家に寄ることとなった。


 ここへ来たのは、話をする以外にも、


「パパ!」

「主様!」

 

 ウィラとシャーニーを迎えに来たという意味もある。


「ふたりとも、大人しく待っていたわよ」

「そうなのか。えらいぞ、ふたりとも」

「……私まで子ども扱いされているような?」


 妖精であるシャーニーはウィラと同じ扱いに不服そうなようだったが、褒められているという事実自体は嬉しかったらしく、頬が緩んでいた。

 それから、ローナの淹れてくれたお茶を飲みつつ、屋敷であった話をふたりへとする。

 ――その際、俺の過去についても話しておいた。

 これもまた、ジェファーズ様からの提案だった。

『あの村の者たちは信用できる。必ずや、君の力になってくれるはずだ』と言っていたけど……さすがは領主だな。領民のことをよく分かっている。いや、ジェファーズ様が特別凄いのかもしれないけど。


「そ、そんなことがあったのか……」


 ルパートさんは困惑していた。

 ローナも、どういう反応をしたらいいのか分からないらしく、俯いたまま黙っている。

 そして、


「あ、主様は……そのリガンという町へ行くの?」

「パパ……」


 シャーニーとウィラは、不安げな表情でこちらを見つめる。

 俺がいなくなってしまえば、聖樹から魔力の供給が断たれて、ふたりは――当然、そんな事態を招くつもりはない。


「安心しろ。俺はここにとどまるつもりだから」


 そう告げると、ふたりは花が咲いたようにパッと笑顔になる。

 実際、俺もこの村に愛着というか、王都と同じくらい住みやすさを覚えていた。村の人たちはみんないい人ばかりだし。


 すべてはジェファーズ様が集めてくれる情報次第――一体、俺はどうなってしまうのだろうか。

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