第28話 これからのこと

 ジェファーズ様の屋敷で耳にした話は、とても信じられるものではなかった。

 ――だが、冷静に考えてみると思い当たる節がないわけではない。


 まず、俺を襲った野盗たち。

 彼らは「荷台にいるガキ」と明らかに俺を標的にしていた。馬車の外から俺の姿は見えないはずなので、最初から隠れていることを知っていたのだ。


 なぜ知っていたのか……可能性があるとすれば、事前に何者かから情報を得ていたということ。

 もし……その情報を与えたのがコーベットさんだとしたら――ここまでの話の流れでいうと、どうしてもそう思ってしまう。

 ただ、そうなるとひとつ疑問が。


「……仮に、百歩譲って、裏で糸を引いていたのがコーベットさんだとして、なぜ俺を逃がしたりしたのでしょうか。そもそも、俺を捕える理由って――」

「君にすべての罪を被せようとしていた、とは考えられないかね?」

「っ!?」


 俺はひと言も反論できなかった。

 なぜなら、ジェファーズ様の言った仮説が、恐ろしいほどしっくりきてしまったからだ。


「これは私の推測だが……牢獄から逃げて、逃走先で死亡ということになれば、罪の重さから処刑は免れないと悟り、脱走したが失敗したという理由がつけられる」

「うっ……」


 それもまた、説得力がある推測だった。

 疑念が渦巻き、うまく思考がまとまらない。

 そんな俺の様子を悟ったジェファーズ様から、ある提案がなされた。


「……とはいえ、今までに言ったことはひとつとして確証がない。あくまでも状況的にそう見るのが、もっとも高い確率であるというだけだ」

「そ、そうなんですが……」

「そこで、だ。今回の案件――私に預けてもらえないだろうか」

「えっ?」


 思わぬ言葉に、俺はポカンと口を開けたまま固まってしまった。


「まずはリガンという町へ使者を送り、情報を集めてくる。私も王都へ出向き、事件に関する話を聞いてこよう」

「あ、ありがとうございます」


 俺としては大変ありがたい提案だった。

 しかし、


「あ、あの、ジェファーズ様」

「なんだい?」

「どうして……どうしてそこまで、俺みたいな平民のために動いてくださるのですか?」


 貴族であるジェファーズ様が、何の縁もゆかりもない自分のためにそこまでしてくれるのか、素直に疑問だった。俺の質問に対し、ジェファーズ様は、


「こういう性格なんだ、私は」

 

 それだけ告げた。

 ……あの口ぶりから、ホントは他にも理由はありそうだが――なんだか触れてはいけない気がする。でも、それは悪い予感というわけではないという気がしていた。


「とりあえず、情報が集まるまでは君に聖樹の管理を任せようと思う。そちらにも使いを送るから、何か新しい発見があったら彼女に伝えておいてもらいたい」

「分かりました」


 彼女ということは……女性なのか。

 それはまあ置いておくとして――ここはジェファーズ様におまかせして、俺は俺がやれることをやろう。


 そう心に誓い、今回の会談は終了したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る