第30話 自給自足

「さて、これからどうしようか……」


 聖樹まで戻ってきた俺は、今後について考えていた。

 仮に、身の潔白が証明され、晴れて無罪放免となったとしたら……それでも俺はこの村にとどまるだろうな。


 そうなった場合、ある問題が浮上する。

 俺の仕事――つまり、どうやってお金を稼ぐか、だ。


 住居に関する問題は、すでにこの聖樹のおかげでなくなっているので、本当にあとはお金絡みだけなんだよな。いつまでも村の人たちを頼るわけにはいかないし、自立した生活を送らなくては。


「とはいうものの……ここで野菜を育てたりはできないだろうし」

「できるわよ?」


 俺がボソッとこぼした言葉に対し、妖精シャーニーが意外な事実を口にした。


「えっ? 野菜が育てられるのか?」

「うん」

「でも、スペースが……」

「ないなら作ればいいじゃない!」

「作ればって――あっ」


 すっかり忘れていた。

 この聖樹は、俺の好きなように形を変えられるんだ。つまり、農業に適した形に変化させればいい。とはいうものの、さすがに土や種などはどこかで調達しなければならないだろう。


「この辺はちょっと相談したいな……」


 農業ができるなら、俺も村に貢献できるかもしれない。そんな気持ちが湧き上がってきた時、


「野菜を育てたいなら、村長に相談してみたら?」

「ローナ!?」


 声のした方向へ顔を向けると、父親であるルパートさんの仕事の手伝いについていったはずのローナが立っていた。


「ど、どうして?」

「やっぱり気になってきちゃった」


 舌をペロッと出しながら、ローナはそんなことを言う。俺としては気にかけてくれていてありがたいと思うと同時に、申し訳ないという気持ちがあった。

 ただ、その言葉には興味がある。


「野菜の件だけど、村長に相談って……」

「ちょうど農業をやる若者を捜していたのよ。でも、うちって辺鄙な場所にあるからなかなか移り住む人がいなかったのよ」


 なるほど。

 過疎化が進んでいる地域が増えているって、王都の大人たちが話しているのを聞いたことがある。それはあの村も同じだったか。まあ、初めて来た時もローナ以外に若い子はいないって言っていたし。


「でも、どうやってこんな木の上に畑を?」

「それなんだけど――例えばこういうのはどうかな?」


 俺は今いる部屋を作った時と同じように、魔力を込めた手で聖樹に触れる。そして、頭の中に思い浮かんだイメージを形作って――


「あっ!? これってプランター!?」


 俺より先に、ローナが声をあげた。

 ――そう。

 平地のように畝のある畑を作ることは難しいが、こうしていくつかのプランターを用意できれば、量で負けることはない。


「湖は聖樹の効果で魔力が込められているし……もしかしたら、王国一の畑になるかもよ?」

「絶対になれるよ、パパ!」

「まあ、いい感じにはなるかもしれないわね」

「ははは、みんな大袈裟だな」


 聖樹での自給自足――意外と、なんとかなるかもしれないな。

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