第31話【幕間】出会い
ルディが関与しているとされる教会での殺人事件。
真相を確かめるべく、領主ジェファーズは王都へと向かった。もともと別件で訪れる予定があったため、そちらが済み次第、彼に関する情報を集めようと考えていた。
所用を済ませたジェファーズは、もっとも信頼している執事のビーンを連れて騎士団の詰め所へと足を運んだ。
「っ!? ジェ、ジェファーズ様!?」
たまたまその場にいた騎士団の副団長が、大慌てでジェファーズのもとへとやってくる。
「ほ、本日はまたなぜこのような場所に?」
「先日起きた、教会での事件について聞きたいことがあるのだが」
「っ! そ、その事件でしたら、すでに解決をしておりますので……」
「何?」
ジェファーズは見逃さなかった。
教会での事件と口にした時、ほんの一瞬であったが副団長の顔が強張ったことを。
あの様子では、恐らく箝口令が敷かれているのだろう。
「……そうか。いや、事件が起きた時、ちょうど屋敷を留守にしていて詳細な情報を聞きそびれてしまったのでね。なんでも、犯人とされている少年が牢獄を脱走したそうじゃないか」
「そ、そうなのですが……でしたら、ご安心ください」
「どういう意味だ?」
「その少年は逃走中に死亡し、すでに遺体も回収しておりますのでご安心を」
「なんだと?」
それは、ルディの言葉と矛盾する。
ルディは偶然現場に居合わせた自分が犯人であるとして捕まり、コーベットの手を借りて牢獄から一旦脱出したと言っていた。その道中で野盗に襲われて川に落ち、濁流にのまれる形でローナやルパートの住む村近くまで流されてきた――それが、ルディの語った逃走中の一部始終である。
だが、副団長の語った事件の経緯には異なる点が多い。
「その少年だが……身元は分かったのか?」
「王都で暮らしていた、ルディという少年です。あの教会で育った孤児だったようで、今は配達代行の仕事で生計を立てていたという話でした。ただ、その生活はかなり貧しかったようで……教会にある金目当ての犯行だったんじゃないですかねぇ」
「そうか……」
すでに騎士団はルディが事件の犯人であり、死亡したことで解決をしたという結果を広めていたようだ。
と、なると、これ以上の情報を得ることは難しいか。
そう判断したジェファーズは、詰め所をあとにした。
「期待外れでしたな」
「まったくだ」
執事のビーンとともに落胆しながら、ジェファーズは続いて事件のあった現場である教会へと足を運んだ。
そこには、
「む?」
現在は閉ざされている教会の入口に花を供えている女性を発見する。
制服を着用していることから、どうやら彼女も騎士のようだ。
「少し、いいかな」
その女性が気になって、ジェファーズは声をかける。振り返った女性は貴族であるジェファーズが立っていたことで驚いたようだが、彼が教会で起きた事件について調べていると聞くと、
「私もお手伝いします!」
力強く、そう言った。
「お手伝い?」
「あっ、わ、私は騎士団に所属するグリニスという者で、ルディとは幼い頃から姉弟のように育ってきた関係で――」
「ルディの姉弟?」
ジェファーズは真っ直ぐこちらを見つめるグリニスの誠実な瞳にこれからの可能性を見出した。
「グリニス、と言ったね。……姉弟に等しいという間柄というなら、君にも協力をしてもらいたい」
「よ、喜んで! ですが、どうしてジェファーズ様がルディのことを?」
「それも踏まえて、一度ゆっくり話をしよう。時間は作れるか?」
「明日なら、朝から非番です」
「ならば、使いを送ろう」
「はい!」
こうして、ジェファーズはグリニスという心強い協力者を得たのだった。
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