第32話 これからのこと
いよいよ始まった聖樹での暮らし。
……正直に言うと、事件の真相が気になって仕方がない。だが、俺が迂闊に動くことで事態が悪化する可能性があると分かった。
ジェファーズ様は――コーベットさんを疑っていたな。
教会で育った俺にとって、彼は恩人だ。
俺だけじゃない。
教会に支援をしてくれているコーベットさんを悪く思っている者はいない。
しかし、同じ貴族の間ではあまり評判がよろしくないようだ。その辺の事情は俺なんかよりジェファーズ様の方がずっと詳しいからな。
だからこそ、詳細な情報収集はジェファーズ様に任せた。
それが集まるまで、俺は――
「プランターで育てる野菜を決めるか」
聖樹の一部を改良してプランターとし、そこで育てる野菜を決めるのだが……俺はそれを決めかねていた。
理由は簡単。
想定以上に育てたい野菜の種が集まったのだ。
どうしてそんなに集まったのかというと……ひと言で言ってしまえば村のみんなからの厚意だった。
俺がこの聖樹で暮らしていくことを知った村の人たちは、いろんな物を集めてくれて俺に届けてくれた。その中には野菜の種もたくさん含まれていたのだ。
「ありがたいんだけど……何かお返しをしないと」
「そんなの気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないよ」
「律儀ねぇ」
すっかり居着いたローナはそういうけど……いつまでも甘えてはいられない。王都にいた時は、何もかも自分でやっていたんだ。その頃のことを思い出すと、今のままではいられないな。
とはいえ、今の俺には何もない。
――いや、厳密に言うと、聖樹っていうとんでもない存在がかたわらにいるし、なぜかウィラという娘がいて、シャーニーという妖精を従えている。……改めて考えると、とんでもない状況になっているな、俺。
この生活がいつまで続くか分からないけど、とりあえず村の人たちにはいつかこの感謝の気持ちを形にして渡したい。
いつしか、俺はそんなことを考えるようになっていた。
結局、まずはトマトとナス、それからピーマンを育てることに決めた。
「なかなか渋いチョイスね」
「えっ? そうなのか?」
野菜に渋いとかあるのか?
俺としては自分の好みで選んだだけなんだけどなぁ。
「パパ、野菜決めたの?」
「あ、ああ」
「これ? どういう味なの?」
「私も知りたい!」
「そっか。ふたりは知らないんだね」
知識はいろいろとあるようだが、こうして俺たちと接するようになったのはほんの数日前のことだ。特に人間に絡むことは、いろいろと知らないことが多いように見える。
だが、彼女たちはそうした人間の文化に興味津々で、自分たちから積極的にそれを吸収しようとしている。その姿勢はとてもいいことだと思う。むしろ、見習わなくてはならない部分だろう。
「ね、ねぇ、ルディ」
俺が目を閉じてうんうんと頷きながら感心をしていると、ローナが袖を引っ張ってくる。
一体どうしたのか、と思いつつ目を開くと、
「ねぇねぇ、こっちには何があるの?」
「いいデザインのプランターね」
妖精がふたり増えていた。
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