第36話 迫り来る魔手
翌日。
村にジェファーズ様の使いの者が現れ、俺たちに状況を報告してくれた。
聖樹の居場所をつきとめたコーベットだが、すでに息のかかった騎士たちを引き連れてこのシェルフィスの村を目指しているという。
いち早くこの情報をキャッチしたジェファーズ様は、すでに騎士団へ経緯を説明済みとのことだったが、間一髪のところでコーベットを止めることができなかったという。ジェファーズ様はすぐに応援をこちらへ送る手筈を整えたが、間に合うかどうかは微妙なラインらしい。
その結果を受けて、グリニスさんと数名の騎士たちが、村を守るための防衛ラインを設置。増援が間に合わなかったという最悪の場合は、そこでなんとか食い止めなくてはならなくなった。
シェルフィスの村の人たちも、ルパートさんをはじめ、戦える者は武器を手に取ってコーベット率いる騎士団を迎え撃つ構えだ。
「私たちは先にそこへ向かうわ」
「うん。気をつけて」
「そんな顔しなくてもいいわよ。きっと大丈夫だから」
俺を気遣って、そんな風に振る舞うグリニスさんだけど……心配しないわけ、ないじゃないか。
相手は少なくともこちらの数倍の戦力を有している。
騎士団からすれば、私的な理由でそれほどの数の騎士を動かしたコーベット及びそれについていった騎士たちには厳しい罰が待っているだろう。
――だが、もし彼が聖樹の力を手にしたら?
溢れ出る魔力を軍事力として転用したら?
世界のパワーバランスはその時を皮切りに大きく崩れることとなるだろう。
「俺にも……何かできることはないかな……」
剣や魔法なんて使えるわけがない。
何もない俺には、グリニスさんたちを援護する術がないのだ。
「ルディ……」
振り返ると、そこにはローナが立っていた。
心配そうにこちらを見つめているが……彼女が視界に入った途端、抑え込んでいた感情が一気に漏れだした。
気がつくと、俺は彼女に抱きついて大泣きしていたのだった。
――数分後。
「どう? 落ち着いた?」
「あ、ああ、うん……その……ごめん」
「気にしなくていいって。これまでずっと辛い思いをしてきたんだから、ここら辺で派手に発散させておかないとね」
ローナは優しく俺を気遣ってくれた。
……でも、彼女の言う通り、おかげで嫌な気持ちは全部洗い流せた。
ここからは俺にもやれることをやろうと思う。
ただ大人しく結果を待つのではなく、戦うんだ。
聖樹とともに生きると決めたんだ……覚悟はできている。
「ローナ、一緒に聖樹へ戻ろう」
「えっ?」
「みんなでどうするか考えるんだ。……きっと、聖樹が俺たちを導いてくれるはずだから」
「そうね。あと、ウィラやシャーニーたちにも詳しい話をしておかないと、いざという時に混乱してしまうかもしれないわ」
「そうだな」
ともかく、俺たちは聖樹を目指して村へと戻る。
――その間も、コーベットたちは着実に迫りつつあった。
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