第35話 変わりゆく状況

 あれから一週間が経過したものの、特にこれといって進展があったわけじゃない。

 俺たちは相変わらずのんびりと暮らしていた。

 妖精の数も少しずつ増え始め、現在では十人を超えている。聖樹も成長を続けており、魔力は日に日に増しているようだった。


 最近では、聖樹を見ようと村の人たちが訪れるようにもなっていた。

 俺は俺で、聖樹の力を利用して育てた野菜などをお裾分けしたりして、良好な関係を築くことができており、徐々にこの生活にも慣れていく。


 王都にいた頃とはまるで違う生活スタイルになったが、これはこれで楽しく過ごすことができていた。


 そんなある日のこと――ジェファーズ様が村を訪れるという知らせをルパートさんから教えてもらった。

その話を聞いた俺は、すぐに聖樹から村へと移動。

 すでにジェファーズ様は到着していたが、驚いたのは護衛として一緒についてきたと思われる女性騎士が、


「えっ!? グリニスさん!?」


 俺にとって実の姉のような存在であるグリニスさんだったのだ。


「ルディ! 無事でよかった!」


 ローナとともにジェファーズさんのもとへとやってきた俺を見つけたグリニスさんは、パッと笑顔になって駆け寄る。


「事情はジェファーズ様から聞いたわ。大変だったわね」

「う、うん。でも、なんとかやっていけてるよ」

「よかったぁ……」


 俺の無事を確認したグリニスさんは脱力してその場にへたり込む。さらに、緊張の糸が切れたのか、ワンワンと大声で泣き始めてしまった。

どうやら、教会での事件について調べている途中で偶然か、或いは関係者から俺とグリニスさんが親しいと知って接触を試みたか――まあ、いずれにせよ、ジェファーズ様と出会い、俺のことを知ってここまでやってきたってわけだ。


 で、グリニスさんを連れてジェファーズさんがここへ来た理由だが、


「少しまずいことになった」


 と告げた。

 その言葉が意味することは……まあ、大体察しがつく。


「この場所がバレたんですね?」

「その通りだ。詳しい話はルパートの家で話そう。――いいかな?」

「問題ないですよ!」


 事態を把握したルパートさんは快諾。

 ということで、場所を移して話を聞くことにした。



 ルパートさんの家に移動すると、ジェファーズさんはゆっくりと話し始める。


「コーベットは躍起になって聖樹の種と君の居場所を捜していたらしく、どうやらこの村の近くを訪れた行商人が発見し、伝えたようだ」


 恐れていた事態がついに現実のものとなった。

 となると、次に気をつけなければならないのは、


「騎士団が動きますか……?」

「間違いなく動く」


 ジェファーズ様は断言した。


「というより、すでに騎士団へは声をかけているようだ」

「そ、そうなんですか?」

「間違いないわ」


 冷静さを取り戻したグリニスさんが言う。

 なるほど。

 騎士団に所属している彼女の証言ならば信じられる。


「ヤツは自身の立場をよく理解している。このままでは兄には勝てないと……だから、一発逆転のネタとして聖樹を求めていたのは間違いなさそうだ」

「かなり追い詰められているようで、なりふり構っていられないという余裕のなさもうかがえる……ルディ、しばらくは聖樹の外へ出ない方がいいわ」

「……そうみたいだね」

 

 とはいえ、ここにコーベットさん――いや、コーベットの息のかかった騎士たちが押し寄せてくるだろう。


 そうなると、この村の人たちにも迷惑がかかる。

 グリニスさんは聖樹から出ない方がいいと言ったけど……そうしたら村の人たちに迷惑がかかるのではないだろうか。


 そんな心配をしていると、


「何も気にする必要はないぞ、ルディ」


 俺の肩を優しく叩いたのはルパートさんだった。


「この村の総力をあげて、おまえを守る!」

「ルパートさん……」

「私も騎士団には知り合いが多いし、魔法兵団の団長とは懇意にしている。今回のコーベットの暴走はとてもじゃないが看過できない。話を持ちかければ、すぐに動いてくれるだろう」

「私の上司も、そういう不正が大嫌いなタイプだから、話せばきっと協力をしてくれると思うわ。それに、王都の人たちだって、真実を知ったら黙っていないはずだから」


 みんなの優しい言葉が、心に染みた。


「あ、ありがとうございます!」


 気がつくと、俺は大粒の涙をこぼしながら頭を下げていた。

 こうして、コーベット率いる騎士団と正面からぶつかることになったのである。


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