第34話【幕間】動きだす者
コーベットは屋敷の自室にて、ある報告を受けていた。
部屋にはコーベットの他にもうひとり――報告者としてひとりの魔法兵団メンバーがいた。
「それで、いい知らせなんだろうな……テジア」
「はっ! ご期待に応えられるかと」
無精髭を生やすテジアと呼ばれた中年男性は、魔法兵団内では落ちこぼれとして名が通っていた。――が、それは仮の姿であり、本来の彼はコーベットの忠実な配下である。
魔法兵団内で共有されている情報から極秘のものまで、何でも調べてコーベットに報告するのが彼の仕事であった。
しかし、今回はいつもと任務内容が異なる。
彼に託されたのは――聖樹の居場所を突きとめること。
聖樹の種が行方不明となり、その行方を知っている可能性がもっとも高いと思われるルディの行方と合わせて追っていた。
その結果、
「判明しました。聖樹とルディという少年の居場所を」
「本当か!?」
テジアはコーベットがもっとも欲しがっていた情報を握ったと報告する。当然、聖樹の力を欲していたコーベットがこれに飛びつかないわけがない。
「ヤツは今どこにいる!? 聖樹はどうなった!?」
「それについてなんですが……少々厄介な事態となっております」
「厄介な事態だと?」
その言葉に、コーベットの表情はひどくゆがむ。
「まず、聖樹の種ですが……すでに何者かの手によって覚醒一歩手前まで成長が進んでいるようです」
「何っ!?」
喉から手が出るほど手に入れたいと、教会関係者たちを葬ってまで強い執着を見せていた聖樹の種。だが、それが第三者の手に渡り、しかも覚醒手前まで来ている――コーベットとしては、とても許せる事態ではなかった。
「くそっ……なんとかならないのか!」
「ご安心ください。今の状態ならまだ取り返せます」
「本当か!?」
「関連書物によれば、聖樹が成長を完了させるまでには最低でも一年はかかると言われておりますので、その期限までに取り返せれば」
「なるほど! で、その聖樹は今どこに!」
「それがもうひとつ難点で……ジェファーズ家の領地内にあるんです」
「!? ジェ、ジェファーズ家か……」
コーベットの表情に困惑の色が浮かぶ。
その名は、先日別の者から報告を受けた名だ。
それによると、ジェファーズ家の当主がルディに絡む一連の事件でコーベットに疑いの目を持っている可能性があるという。
よりにもよって、そのジェファーズ家の領地内に聖樹があるとは……コーベットにとっては頭を痛める事態だ。
他の貴族であれば、実家の力を使って無理やりにでも押しかけることができる。
だが、ジェファーズ家だけはそうもいかない。
あそこの当主は貴族でありながら地位や金銭に対する嗅覚が鈍い――というより、それらに対してこだわりを感じていないように思えた。領民たちの生活を第一とする、変わり者として名が通っている。
「確かに、厄介な事態だが……打つ手はある」
「ほぉ? 強行策に打って出ますか?」
「そのつもりだ。――この際だ。面倒なジェファーズ家にも消えてもらうとしよう」
コーベットの暴走はさらに加速をしていく。
それはやがて、この国を揺るがす大きな事件へとつながっていくのだった。
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