第37話 迫る悪夢

 コーベットたち騎士団が迫る中、俺とローナは一旦聖樹へと戻った。

 ここでの行動は――待つのみ。


 連中の狙いは俺だからな。

 聖樹の近くで待機していれば、いざという時に対応ができるし。


 ……けど、こうなってくるとグリニスさんの方が心配になる。ジェファーズ様が騎士団や魔法兵団に声をかけ、暴走を始めたコーベットを止めるために動きだしている。


 だが、それがもし間に合わなかったら――村と聖樹を守るために防衛ラインを敷いているグリニスさんや騎士たちだけでは、コーベットが率いる軍勢を止めきることはできないだろう。


「グリニスさん……」

「パパ、どうしたの?」

「顔色が悪いわよ?」


 聖樹へと戻り、待っている間も嫌な予感が拭えず、心配したウィラとシャーニーが声をかけてきた。顔色が悪いとのことだったが……それが自分でも分かるくらい、ひどく動揺していたのだ。


「……実の姉のように慕っている人が、このままだと危険な目に遭うかもしれないんだ」

「ルディ……」


 俺の声は、涙で震えていた。 

 それを聞いたローナも、それに他の妖精たちも、不安げな表情をしている。


 ――と、その時だった。


 聖樹が一瞬だけ光り輝いた。


「うっ!?」


 まばゆい閃光に、思わず目を閉じる。

 やがてゆっくりと目蓋を開けていくと――目の前には一本の剣が。


「こ、これって……」

「聖樹の意思ね」


 俺の肩に腰を下ろしたシャーニーが告げる。それから、何かに導かれるように、俺の体は自然と剣へと近づいていき、手を伸ばしてそれを掴む。


「聖樹の剣、か……」


 手にしてみて分かったけど――これ、物凄い魔力を秘めている。それこそ、この聖樹に秘められた魔力をそのまま剣にしたような感じだ。これさえ持っていたら、何でもできてしまうと思える。


「助けに行けって言っているんじゃない?」


 ローナの言葉に、俺はハッとなる。

 これまで、聖樹は俺が望む形に姿を変えてきた。野菜を育てるためにプランターとなったり、部屋となったり、応えてくれた。そして今回は――聖樹の力をそのまま扱える剣を授けるってわけか。


「……俺が戦わなくちゃ」


 剣を握りながら、俺は決意を口にする。


「やっぱり、そういうことよね。……でも、大丈夫なの?」

「えっ?」

「剣を持って戦った経験がある?」

「それは……ないけど……だからって、このまま待っているってわけにはいかないだろ」


 グリニスさんは命を懸けて俺たちを守ろうとしている。

 このまま、それを黙って見続けているなんて……俺にはもう我慢がならなかった。


「グリニスさんの援護にいく」

「……まあ、止めても無駄そうね」

「パパ、また行くの?」


 俺が剣を持って立ち上がると、ウィラが尋ねてくる。まだ事情をハッキリと認識はしきれていないのだろうが、俺の悲壮感を悟って心配しているようだ。


「大丈夫だよ、ウィラ。またみんなで楽しく暮らせるようになる。――じきに、な」


 剣を握る手に力が入る。

 本当の意味で、みんなと楽しく暮らせる日を迎えるためにも……俺は聖樹をあとにした。


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