第38話 聖樹の剣
今ならまだ間に合う。
その気持ちで、俺はグリニスさんのもとへと急いだ。
道中、小高い丘の上から周囲を見渡して現在地を把握しようとした時、
「!? あ、あれは……」
遠くに見えるのは――暴走したコーベット率いる騎士たちの軍勢だった。
「もうこんなところまで……!」
想定していたよりも、ずっと早い。このままではあと数分で交戦状態となる可能性が高かった。
……いや、もしかしたらすでに斥候兵と戦闘しているかもしれない。本隊とは別に動いている偵察隊が近くに潜んでいても何ら不思議じゃないからな。
「急がないと!」
慌てて駆けだそうとした――その時、突然、手にしていた聖樹の剣が光り輝いた。
「な、なんだ!?」
突然の事態に動揺していると、聖樹の剣から強力な魔力が放たれる。直後、体がその魔力に包まれていき、視界が真っ白になった。何も見えない中、少しずつ光が弱まっていくのを感じ、ゆっくりと目を開ける。
すると――
「えっ!? ルディ!?」
目の前にグリニスさんがいた。
彼女だけじゃない。
ともに戦うため、防衛ラインに立つジェファーズ様直属の騎士たちも無事だった。
「よかった……」
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、俺はコーベットの軍勢が近づいていることと、聖樹の剣について説明する。
「た、確かに強力な魔力を感じるが……」
「その剣だけで戦えるのか?」
騎士たちは半信半疑といった感じだった。
無理もない。
溢れ出る魔力は超一流だが、それを扱う俺のスキルは皆無に等しい。本来ならばこの剣を誰かに託すべきなのだろうが……こいつは俺の手を離れると一気にその魔力を失ってしまうことが分かった。
この魔力をうまく扱うには、俺自身が剣を持って戦うしかない。
最初は「危険だ!」と言って撤退を促した騎士たちだったが、
「……戦ってくれる?」
グリニスさんだけは違った。
「グ、グリニス!?」
「大丈夫ですよ。――この子は私たちが思っている以上に強いですし、何より覚悟がありますから」
「むぅ……」
満面の笑みでそう説き伏せられた騎士たち。
本音を言えば、少しでも戦力は欲しいだろうからな……俺がどこまで戦力としてカウントできるのかは不明だが、いないよりはマシだろう。
――いや、その程度の評価で終わってしまっては、この状況を打破することは叶わないのだ。
「働いてみせますよ。――この戦況をひっくり返せるくらいには」
「その意気よ。期待しているわ」
グリニスさんと拳をコツンと合わせる。
子どもの頃かやっている、俺たちの間だけで使われるコミュニケーション――これをやれば、何だってできるって自信が湧いてくるんだ。
「さあ、来い!」
迫り来るコーベットの軍勢を迎え撃つため、俺は聖樹の剣を構える。
やがて――ヤツらはその姿を現した。
その先頭には……両親代わりに俺を育ててくれた、神父様やシスターたちを殺害したコーベットの姿が。
「うん? これはこれは……標的がわざわざ出向いてくれたか」
馬を止めたコーベットが、下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。
――戦闘開始だ。
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