第39話 未来をかけた戦い
「この俺から聖樹を奪った張本人が……のこのこと面を出して来やがったか」
そこには俺の知るコーベットはすでにいなかった。
目が血走り、凄まじい形相でこちらを睨みつけるその姿はまるで悪魔のようだ。
その気迫に押されて、思わずたじろぐ――が、それはほんの一瞬のこと。
ここを乗り越えなければ……俺に未来はない。
ただ黙って待機していてもそれは叶ったかもしれないが、少なくとも、実の姉のように思っているグリニスさんやジェファーズ様の指示でここに残っている兵士たちを見殺しにしてしまっては、後悔してもしきれないだろう。
俺も戦う。
これからも、あの聖樹でウィラやシャーニー、そしてローナや村のみんなと一緒に暮らしていくためにも。
「なんだぁ? 生意気にも高そうな剣を持っているじゃないか」
戦う姿勢を示したことが、コーベットの神経を逆なでしたようだ。
顔つきはさらに険しいものとなり、周りの騎士たちへ目配せをする。
「っ! ルディ! 下がって!」
コーベットの行為が総攻撃の合図であると勘づいたグリニスさんが叫ぶ――が、その声は最後まで俺に届かなかった。コーベットからの合図を目にした騎士たちが、雄叫びとともにこちらへと突撃してきたからだ。
まともに戦っていたら勝てない。
それでも、俺は剣を下げるわけにはいかなかった。
たったひとりでも立ち向かう。
そんな強い意志を持って対峙した――その時、
「――――」
「えっ!?」
どこからともなく声がした。
何も者のか見当もつかないが、それは明らかに声であり、俺に何かを語りかけているようだった。
じっくりと耳を傾けようと思っても、今はそのような状況じゃない。迫り来る暴走した騎士たちをどうにかしなくては。
そう思った直後、
『――振れ』
ただ短く、そんな言葉が脳内に響き渡った。
それは地鳴りのような騎士たちの雄叫びの中でもハッキリと聞こえるほどクリアなものだった。どういうわけなのか、理由はハッキリとしないけど、きっとそうすることが正しいのだという根拠のない自信が胸に溢れてくる。
「こうなったら――ヤケクソだぁ!」
俺は突然聞こえてきた声に従って、力いっぱい剣を振った。
すると、いきなり凄まじい強風が吹き荒れる。
その威力は迫っていた騎士たちを吹き飛ばすほどだった。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
人馬をも吹き飛ばす強風が起きたことで、コーベット側の陣形は大きく乱れた。中には再起不能となった者もおり、相手側の戦力は大幅ダウンだ。
「い、一体何をしたの、ルディ」
「……聖樹の剣が助けてくれたんだ」
まるで余韻に浸るがごとく、強大な魔力が溢れ出ている聖樹の剣。
さっきの声は、きっとこの剣自身のものだろう。
さらに、
「な、なんて魔法だ!」
「あんなのがいるなんて聞いていないぞ!」
もともとコーベットの悪行に加担するような騎士たちだ。相手が自分たちよりも強い力を秘めていると分かったら、コーベットを置いてさっさと逃げだしてしまった。
「お、おい! どこへ行く! 戻ってこい! 戻って俺のために戦え!」
虚しい叫びが森に虚しくこだまする。
ともかく、これで形勢逆転だ。
「コーベット……あなたの悪事もここまでです」
風に驚いた馬から放り出され、尻もちをつくコーベットの眼前に、グリニスさんの剣先がおかれる。
「ぐっ……」
ようやく観念したのか、コーベットは力なく項垂れ、グリニスさんと騎士たちにより身柄を拘束された。
こうして、俺は真の意味であの事件の呪縛から解放されたのである。
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