第40話 それからのこと

 聖樹の力を悪用しようとしていたコーベットの野望はあえなく潰えた。

 あとから合流した騎士団に身柄を引き渡す頃には、すっかり萎れており、まるで別人のように映る。


 ……複雑な心境だ。

 ジェファーズ様の言う通り、恐らく、彼にとって教会への支援は表向きの評価を上げるためのもので、本心から取り組んだものではないのだろう。


 結果的に、家の中での彼の評価は何も変わらず、苦し紛れに手を出そうとしたのは聖樹だった。――いや、もしかしたら、最初から聖樹の種が目当てで、教会に近づいたのかもしれない。


 皮肉なことに、俺やグリニスさんはそんな彼の野望のおかげでここまで成長することができた。

 だから、本心を言うと……ここから改心して真っ当になってもらいたいと思う。家からは追いだされるだろうが、どうか強く生きてほしい。



 ――さて、コーベットの悪行がバレたということは、国中に聖樹の存在が知れ渡ったことになる。そのため、今後の対応については慎重に協議がなされた。


 今日は、その結果を聞きにジェファーズ様の屋敷を訪れていた。


「まあ、座りなさい」

「はい……」


 促されるまま、俺はふかふかのソファへと腰かける。

 まず間違いなく、聖樹は没収となるだろう。


 あれだけ強大で、しかも俺に聖樹の剣を託すほどの知性まである聖樹を国がこのまま野放しにしておくはずがない。


 最悪の場合――聖樹を枯らすって判断が下されるかもしれない。

 聖樹は特性上、俺しか管理ができないからな。

 個人があんな巨大な力を有しているとなったら、国としては驚異だろう。


「聖樹の処遇についてなんだが……」

 

 落ち着かない俺の態度から、ジェファーズ様は心配していることを見抜いたらしく、早速その話題が持ち上がった。


 国としての判断は――


「これからも引き続き君に管理を任せたいそうだ」

「…………えっ?」


 まさかの言葉に、俺は目が点となった。


「聞こえなかったか?」

「い、いえ! バッチリ聞こえました!」

「ならよろしい。これからもしっかり頼むぞ。あっ、それと、聖樹を守る護衛兵を何人か配備する予定だが、その中にグリニスもいる」

「そ、それはとても嬉しい配慮で――って、ちょっと待ってください!」


 こちらがもっとも望んでいた展開とはいえ、さすがにこのまま流せなかった。


「どうかしたか?」

「あ、あの……本当にそれでよろしいのでしょうか?」

「ふっ、当然だ。君はあの聖樹を悪いことには使わない。――そうだろう?」

「そ、それはもちろんですけど……」

「ならばそれでいい」


 ジェファーズ様はそう言い切った。


 俺なんかが……本当にいいのだろうか。

 不安もあるけど、真っすぐにこちらを見つめるジェファーズ様の視線に押されて、俺は静かに頷く。


「分かりました。これからも、俺は聖樹の主としてしっかり管理していきます」

「よろしく頼むぞ」


 それだけ告げて、会談は終了した。


聖樹の主――俺はこれからも聖樹で暮らしていける。

ローナや村の人たちと、静かに暮らしていけるのだ。


 それが分かると、胸の奥から込み上げてくるものがあった――が、今はまだこの気持ちをしまっておく。


 やらなくちゃ――いや、やりたいことがたくさんあるんだ。

 

「さて……帰ってみんなに報告だ」


 足取りも軽く、俺はローナやグリニスさんたちの待つ村へと戻るのだった。





※次回で最終回です。

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